第5.5話  And then



「おーい、テスト返すぞ〜。席につけ。」


数学の先生の号令によってざわついていたクラスに静まりが還ってくる。

中間テストも終わり、次の授業の最初にテストが返される。返される前は絶対点数低いだの赤点が何点からだのとなりのクラスのやつがどうだのでてんやわんやだ。

学校という狭いコミュニティ内で全員参加する勝負事なのでその点数で一喜一憂し、互いに格付けしあうなんとも惨い世界だ。

これを全世界、全世代やっているんだと思うと人間ってすごいなと感心してしまう。

僕は基本勝負事は嫌いで、何かに優劣をつけたり明確になるのを怖がっている。

自分が劣っているという自覚もあるし人を傷つけるのも嫌だという傲慢さもある。

だからいつもテストの点数が良かろうが悪かろうが自分の内心だけの浮き沈みにとどめている。

しかし、今回に関してはそういうわけにもいかなさそうだなと横を見て思う。

名前順の返却のため淡路さんの手元にはもうテストが返ってきている。

特にないも言うこともなくテストをじっと眺めている。


「佐野」


呼ばれて前に行く


「いつもより良かったんじゃないか?この調子で頑張れよ〜」


「ありがとうございます」


席に戻りながらテストを見る。

73点

自分比では最高だ。浮かれる心を鎮めながら椅子に座る。


「淡路さんどうだった?」


聞かないわけにはいかないこの問いを口にする。


淡路さんは無言のままテストを睨んでいる。


僕は席を立ち淡路さんの横からそっと覗いてみる。


88点。苦手とはなんだったのか。この秀才め!と思いながらも、苦手だと相談してきた彼女が高得点なのが自分のように嬉しかった。

しかし淡路さんは満足してなさそうだった。


「不服?」


淡路さんは指を刺し


「(ここ教えてもらったのに。)」


とバツが記された問題を指差す。

その時、点数が高い低いではなく教えてもらったところを解けなかったと言うことが不満だったのだという淡路さんの人の良さを垣間見た気がする。

申し訳なさそうにする淡路さんに


「教えてって言われたぼくがこんな様じゃ恥ずかしいね」


と自虐っぽく言ってみる。

すると淡路さんはぶんぶんと首を振り


「(そんなことない。私のために時間取ってたから)」


なんてできた子なんだ。高校生でここまで気遣いのできる人がいるのかと尊敬する。


結局淡路さんは全ての教科で80点以上、国語に関しては100点だった。

100点と言うのは凡ミスすら許さない完璧が求められることで、分かっていても取れないことなんてざらにある。

淡路さんは100点の返却の時安堵したような様子だった。

彼女の繊細が表れていて心苦しくもあった。

全ての返却を終えた後、二人で文芸部に向かうと花先輩がすでにいた。


「先輩のおかげでいつもよりかはマシでした。」


「えぇ〜。そのレベル?もっと革命的な報告を期待してたんだけどなぁー」


「(ありがとうございました。)」


「うんうん。わかるよ〜。結構良かったっしょ。私もいつもより捗ったから助かったよ。

またの機会もよろしくね」


二人が握手している。いつの間にこんなに仲良くなったんだ。女の子同士と言うのは凄まじい。


「花先輩、テスト終わってもうすぐ体育祭ですけど運動できるんですか?」


「まじじゃん。終わった。」


「できないんですか?」


「あつい。」


今の回答で運動できる人だなと感じた。

淡路さんも相当できると聞いたしこの中で一番ダメなのはまた僕かと嫌になる。


「まぁまぁそう落ち込むなって。私たちが特別なのだ」


といって笑う花先輩。それを見て二人でクスクス笑い合った。


体育祭がすぐそこに迫っている。

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