第25話 教会に助けを求める
黒い何かを入れた壺を抱え、神殿へ走る。万が一落とす事が無いよう蓋をして紐で
葉月は一体何をハーンから吸い出し、自分の口から吐き出したのだろうか。どういった仕組みなのか考えても分からない。魔法なんて「どうしてそうなるのか」なんて考えているのは偉い学者位だろう。ただ、葉月の体内から出てきた、この黒い何かがとても
バーリック様の御屋敷の近くは夕方でも出歩く人が多い。魔道具で灯りをつけるのであまり日没を意識していないのかも知れない。足早に帰路に就く人の流れに逆らいながら神殿に辿り着く。
礼拝堂の中に入る。日が落ちると礼拝堂の中は暗い。壺を割らないよう、ティーノーンの神々の前に灯されている明かりを頼りにゆっくりと進む。
「神官様!神官様!」
タオが神官を呼んだと思えば、数人の神官がそれぞれ
「悪霊め!タオの店の店主を乗っ取り教会まで乗り込んでくるとは!くらえ!ティーノーンの神々の祝福がされた聖水だ!」
神官が次々に抱えていた
「神よ!この
「ま、待ってくれ。ワシ自体が穢れているのではないのじゃ。ちょっと、離れてくれんかの。ここにこの壺を置く。そーっとな。そのままじゃ。ワシはゆっくり離れるからな。逃げはしない。神官様の方に来るから……」
聖水でずぶ濡れのタオは壺を床にそっと置き、手を上にあげ、じりじりと神官の方に進む。神官たちは二手に分かれ、タオと壺の鑑定をしている様だ。
タオと壺の鑑定が終わり、教会の一室に案内される。室内に入る前に服は風魔法で乾かしてもらった。この神殿で最高位の神官様の執務室だろうか。黒い何かが入った壺は結界の張られた部屋に管理されるそうだ。
大きな丸い目のフクロウ獣人は新年など節目の際に良く見る神官だ。この教会の責任者であり最高位の神官だろう。神官はタオに椅子に座るよう促す。部屋の隅には書記らしき神官が書類に手を走らせている。
「さあ、奴隷商の店主タオよ。何であのようなものを持っていたかを話しなさい」
タオは居住まいを正して神官長に尋ねる。
「はい。神官様。これは秘密にしてほしいのじゃが……」
「教会で知り得たことは秘密厳守である。心配せずに話しなさい」
「……今日、領主さまから下げ渡された奴隷を自由民にして、魔法が使えるように教会に来た事はご存じで?」
「存じておる。異世界からの転移者で私も気を付けていたが、特筆することは無かったと思うが……」
神官長は、書記らしき神官から書類を受け取り確認をしている。
「はい。ハヅキは領主様からも、アンポーンの店からも鑑定書では魔力極小と言われました。治癒魔法は小さな傷しか治せないはずじゃった。じゃが、ワシの家のハーンに治癒魔法をかけたらハヅキの腹から管が出てアレを吸い出して、口から吐き出したのです。その後、全く動けなかったハーンの声が出るようになり、首も少し動くようになったのです」
「ハーンと言えば、黒い雨の患者だったのではないか? 黒い雨の患者はもうこれ以上ナ・シングワンチャーの荘園の神殿でも無理だと匙を投げた者だったのではないか?聖女だったのか?いや、判定の儀では特筆するものは無かった……」
「どうか、どうか、人生の終わりに近づいてやっと心を通わせるような女を見つけることが出来たのですじゃ。ワシからハヅキを取り上げないでください」
「いや、聖女判定したわけではないので今すぐ神殿にに所属してもらうわけではない。それに、ティーノーンの神々の祝福ではない治癒魔法なので、どこに属するのか……」
「ハヅキはニホンジンなのですじゃ。領主様に取り上げられたら、殺されてしまう! どうかお慈悲を……」
タオは必死に神官に
神官はいつも
「タオよ。今からお前の家に向かう。転移者と患者の鑑定を行う。一刻を争う。いいな」
「はい」
そこから高位の神官と、四人の神官を連れ二台の馬車でタオの店に向かった。
葉月が転移してから二回目の夜はこうやって始まった。
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