第26話 良い様な悪い様な

 高位神官達に囲まれハーンが鑑定魔法を受けている。ペーンも別の神官が担当し、鑑定魔法を受ける様だ。


 タオが店に戻るまで約2時間。ハーンの状態は落ち着いていた。まだ、首から下は動かせないがゆっくりとなら横を向ける程首は上下左右に動かすことが出来ている。また、声はか細くかすれ気味ではあるが、短い2~3語ならば会話が可能であった。


 その状態を見た神官たちは奇跡だとティーノーンの神々に感謝の祈りを口ずさんでいる。高位の神官がハーンに鑑定魔法をかける。人間の鑑定ができる神官はバンジュートでも数人だそうだ。


 鑑定が終わったようだ。高位の神官は困ったようにこめかみを押さえている。後ろで口述筆記をしていた神官も困惑顔だ。皆も結果を知りたそうだが、気軽に聞けるような感じではない。


 続けて、まだ目が覚めない葉月の鑑定が行われる。聖女や成人などであれば必ず称号が付いているそうだが、葉月の場合異世界転移者ではあるがどうなのだろうか。ハーンの時の半分以下の時間で鑑定は終了した。


「ハヅキは、ハヅキは大丈夫?」


 カインが大人の様には待てずに聞いた。タオが教会に行っている間ずっと不安だったのだろう。


「ああ、この転移者は健康だ。その、黒いモノを体内に取り込み吐き出したことも健康に被害は与えていないようだ。後数回その現象を起こすと、変化するかは分からないが、現在は異常はない。魔法の制限も解除されていないし、魔力も極小で変わりない。ニホンジンであり、転移者であること以外特筆することはなく、称号もついてはいなかった。


 今まで、書物や実際に会った各国の転移者は魔力が多いものが多く、庶民以下の極小のものはいなかった。実際の魔法はどうだったか。ティーノーンの魔法と違ったか?」


「ワシは元、冒険者をしておって、外国人の魔法を見る機会も多かったのじゃが、ハヅキの魔法は詠唱が違うだけで特段変わっているとは思えなかったのですじゃ。ただ、連続で生活魔法を使っても特段疲れた様子をみせなかったぐらいで、魔力判定の時の方が気持ちが悪かったと言っておりましたのじゃ」


「そうか。効率的に魔力を使う詠唱なのかもしれないな」


 難しい顔をした高位の神官はタオ、カイン、ムーを部屋の隅に呼ぶ。


「して、ハヅキとやらが治癒魔法を使う前の患者の様子はどうだったのだろうか」


 ムーは声をひそめて神官に伝えた。

 

「アタイは半年前から二人の看病をしとります。ムーです。2人とも、もうこの頃は声も出ず、食べ物だけじゃなく水も飲みこむことも難しいようになってきたので、介護も難しく、1ヶ月もない位でティーノーンの神の国に帰るものと思っておりました」


 カインは驚いた顔をする。スラムで死んで行く者は沢山見てきた。誰も介護するものがいないので、長患いするものはいない。体力のないモノから死んでいく。1日2回の自警団の巡回で見つかった死体は、疫病予防のために火葬され、教会の共同墓地に埋葬される。その死体からしたら、ペーンとハーンはやせて脂が抜けたようにはしているがだった。後1ヶ月もしないうちに亡くなるなんて思ってもいなかったのだ。


「ムーよ。お前の見立ては正しい。もう20日程度持てば良い位だろう」


「じゃあ、ハヅキの治癒魔法を受けて、ハーンはどれ位良くなっているんじゃろうか。ペーンも治癒魔法を受けたら良くなるんじゃろうか。神官様!何回くらいしたら、二人は良くなるんじゃ?」


「タオよ。お前の気持ちはよくわかる。私もそう考え、期待をして鑑定をしたのだ。間違えないように、慎重に何回も確認した。だが、結果は同じだった。心臓の石化の呪いはそのままだった。2人とも亡くなる時期は変わらない。もしかして、ハヅキの治癒魔法を受けることで段々痛みや身体の強張こわばりなどは取れるだろう。安らかな最期を迎えるには何回かハヅキの治癒魔法を受けさせる方が良いだろう。その代わり、ハヅキの負担はどれ位になるか分からない。幸いなことに、ハヅキは高齢な割には健康で、治癒魔法を発動しても、それに耐えうる丈夫な体をしている様だ。2日に1回位は体力的にも大丈夫だろう。その際は危険が伴うといけないので治癒魔法が使える神官を供にして、私が立ち会おう。あの黒いモノもすぐ回収し、浄化が必要なのだ」


「……よろしくお願いします」


 カインとムーも了承するしかない。神官は2日後の夕方に再度タオの店を訪問する約束を取り付け帰って行った。


 ※ ※ ※


「葉月、葉月。妾だ。息長足姫だ。目を覚ませ」


 姫だ。あ、でも白檀みたいな良い匂いがする。私、死んでしまったのかな? ハーンさんに治癒魔法をかけたら、お腹の中のものが全部持ってかれるくらい吸い込まれて……そこから覚えていない。


「姫、ごめんなさい。せっかく異世界転移させてもらったのに、私死んじゃったかも」


 姫は横座りになり、葉月の頭をなでてくれている。いわゆる膝枕ではないか。姫の発達した大腿四頭筋は仰向あおむけになるには些か発達しており、首の座りが悪い。葉月はもぞもぞと起き上がり、姫の顔を見て話した。


「姫、何か不思議。姫の実態がある。やっぱり、顔を合わせて話しできるのは良いね。あ、死んじゃったから話せるんだったら、これが最後なのかな? 」


「心配するでない。葉月はタオの所で生きている。それにしても以外に葉月は巫女の才能を持っていたようだな」


「そう?魔法、最初発動しなかったから祝詞を奏上したらうまくできたよ。アレで良いのかの疑問は残るけど」


「ちょっと力が入りすぎだ。肩の力を抜いて、略式で良い。「かしこみ、かしこみ、はらえたまえ、きよめたまえ、かむながら守りたまえ、さきわえたまえ この後に願い事を言うのだ。言葉に力を込めるようにすればなおいい。心願成就までつけると少し強いかもしれない」


「うん、やってみるね。


かしこみ、かしこみ、はらえたまえ、きよめたまえ、かむながら守りたまえ、さきわえたまえ 炎を付けよ」


 イメージしていた通りにこぶし大の炎が出てきた。炎はしばらくして消えた。


「イメージ通りにできたか?あとは練習のみだ」


「ところで、姫。私が死んでないのに、なんで姫を触ることが出来るの? 」


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