第24話 葉月の奇跡
※ 嘔吐の表現があります。苦手な方は飛ばしてお読みください。
葉月の腹部から出てきた光を放つ細い細い針金の様な触手がハーンの身体に刺さる。無数に刺さっているため、発光している
「ハヅキ!! 」
タオがハーンとハヅキを引き離そうとするが、弾かれて近付けない。強力な結界の様だとタオは思った。
「うぉっ。げぼっ。ズロロロロロッ。ベシャリ」
葉月が嘔吐する。真っ黒な粘度の高い吐物が床にベシャリとアメーバのように張り付いている。葉月が吐くものが無くなっても悪心は止まらず胃液と唾液を少量ずつ吐き出していた。針金の様な触手は一本一本葉月の体内に戻っていく。触手が戻るにつれ、四つ這いになり肩で息をしていた葉月の呼吸が段々落ち着いてきた。
「タオのじいさん。アレなんだ?! 」
カインの疑問はここにいた皆の気持ちと一緒だった。
「知らん。見たことが無いもんじゃ。それより、ハーンとハヅキの様子を見なければいかんのじゃ! 」
有名な元冒険者でも見たことが無い現象の様だ。
ハーンは驚いたように目を見開いたまま固まっている。肩をゆすって反応を見る。寝たきりのハーンはもう瞬きでしか意思表示できない。
「ハーンさん! 痛いなら瞬きをして! 苦しいとことか、痛いとこない? あっ。一つ一つ聞くよ。痛い? 痛かったら一回瞬きして。痛くなかったら、ゆーっくり2回だよ」
シリは顔を近づけ、瞬きを見逃さないようにしっかりと見ている。瞬きが2回ゆっくりされる。そして、涙が眼球から表面張力を失い流れる。
「ハーンさん? やっぱり苦しいの?? 痛いの?? もう一回聞くよ! い・た・い・ですか? 」
ハーンはゆっくりとギギギと首を振る。
「い、た、く、ない。……く、る、し、無いっ! 」
「……!! 声!! 首が動いてる!! わー皆! どうしよう」
タオはシリの声を聞き奇跡に驚きつつ、葉月の脱力した肩を両手で支え、膝で体を支えている。あの黒い物体に触るといけない様な気がして、全身で支えていた。
「カイン! 一緒に支えてくれ!! ドウ、絶対その黒い奴には触るなよ!! 後で教会に持っていく」
完全に意識を無くした葉月をカインと一緒に横にする。顔色は悪いが呼吸や脈は普通にしていると思う。ムーに葉月の顔を拭いてもらう。
タオは壺に黒い物体を移した。大きさはタオの
もし、この黒い何かが呪いの一部だったとしたらハヅキは解呪ができるので聖女になってしまうのではないか。教会や国に連れていかれる可能性も出てくる。ああ、なんでワシはハヅキを早々と自由民にしてしまったのだろうか。奴隷のままなら、ペーンとハーンを治療することを命令することが出来るのに! せめてペーンとハーンが一定の状態になるまで居てほしい。介護を手伝ってもらえたらと言った気持ちだったが、これはどうやっても引き止めなくては。
「ハーン、ワシじゃ。タオじゃ。声はでるか? どこまで動くんじゃ? 」
「た、お、あり、がとっ。ふー、ふー。もっ……」
「無理をするといかんのじゃ。ペーンにもちゃんと伝えておく。ゆっくり休むのじゃ」
タオは少し離れて寝ているペーンの肩を優しくゆする。ペーンはしっかりこの騒動を聞いていたようだ。タオは聞いた。
「ペーンよ。お前もハヅキから世話を受けたいか? ワシはお前達が大事なんじゃ。少しでも可能性があるのなら賭けてみたいのじゃ」
ペーンは聞いているだけ。でも、その気持ちは話さなくても伝わっている。
「わかっているのじゃ。心配するでない。ハヅキは優しいからきっと投げ出さず、請け負ってくれるじゃろう。だましているのではないのじゃ。ハヅキはその能力を、ワシは生活を支え、寂しくないように心も支えればいいだけじゃ。これはハーンには言うでないぞ。ムーとカインには伝えようと思っている」
葉月、ペーン、ハーンを寝かせて、テーブルにタオとカインとムーが集まっている。皆の状態に興奮した双子とシリとドウも一緒に、ムーの家で息子夫婦に預かってもらい泊めてもらうことにした。
「今日は色々あったが、ワシはこの後、教会に相談に行ってくる。アレをここに置いているのも気持ち悪いでの」
「そうだね。あんなもんは早く浄化してもらわないと気味悪いよ!それにしても、ハヅキの力はすごいもんだね! そんじょそこらの神官様よりすごいんじゃないかい? 」
「いや、あれが本物かどうかわからないのじゃ。じゃが、解呪や治癒ができるとなると聖女認定されて教会や国に取られてしまうかもしれない」
「ペーンさんやハーンさんの治療はどうなるんだよ。教会や国だなんて、俺たちの言うこと聞いてくれる訳ないじゃん。ハヅキの事は教会に秘密にして、ハヅキに治療頑張ってもらえばいいじゃないか」
「いや、教会や国に全て秘密にしているとやっぱりまずいのじゃ。ばれた時に困るからな。だから、国や教会の
「大丈夫だよ。ハヅキはこの世界でこの『タオの店』しか頼るところないんだから、俺達と一緒さ」
「いや、確証が欲しいのじゃ。そこで、どうやってハヅキを引き止めるか考えたのじゃが……色仕掛けでどうじゃろうか?ワシが篭絡させてしまえば全てうまくいくのじゃなかろうか?」
「「はぁぁぁ?」」
「タオのじいさん、よくもそんなクズな考えができるよね?ハヅキの中身はシリと同じ位
「最低!どうしたらそんな考えになるのか、タオじいさんの頭をカチワリたいね! 」
「いや、ムーばあさんだって嫁にしろって言ってたじゃろうが! 午後も、タオと一緒にいてあげてくれなんて言っていたのに、なぜ反対なのじゃ? 目的だって、結果だってほぼ一緒じゃろうが? 」
「え?あ、ホントだ。何でだろう? 何となく……? 」
「とにかくハヅキが目を覚ましたら、ワシが身も心もとろけさせて篭絡させるからの! 協力するんじゃ! 」
「オエー、キモチワル」
「青少年の成長に悪い事は言わないでくれないかい。とにかく、教会や国からハヅキを守るために団結しないとね。
あくまでもハヅキを守るために、タオじいさんと結婚した方がアタイは安心するしね」
「ムーばあちゃん、絶対にこのことも、魔法の事も言うんじゃないんじゃぞ!! 」
「わかってる。口止めされたことは、絶対言わないからね!」
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