第23話 葉月の治癒魔法
「雨の日に焚き付けが湿ってるときとかよさそうだよね」
「さすが私の弟子だよ。何か異国の詠唱はカッコいいんだね。空気まで綺麗になった気がするよ」
女性陣のフォローが入る。優しい……。魔法が発動した事より、それまでの必死な行動が急に恥ずかしくなって、頭から布団をかぶってゴロゴロ転がってしまいたい衝動に駆られる。首まで赤くなり、その場で俯いて動かない葉月に男性陣からも声がかかる。
「な、なあハヅキ。俺、もっと魔法が見てみたい。ほら、ね」
「うん。俺もー。ハヅキ、真っ赤だね。ポーズが変だったから恥ずかしかったの。あ、俺も一緒にしてあげようか」
ドウはシリに口をおさえられてしまった。
「次、次に行くのじゃ。やってみないとハヅキの能力が分からないのじゃ」
葉月はまだ顔を赤くしたまま頷いた。
「
「心願成就!!ウインドウ!!」
「心願成就!!ウォーター!!」
「心願成就!!土壌改良!!成長促進!!」
洗濯物はカラリと乾き、台所の
「「「ハヅキ、すごい」」」
「ハヅキは、連続で魔法を利用してもどうも無いのじゃろうか。極小と判定されていたんじゃがの」
「うん。大丈夫そう。魔力判定の時の方が気持ち悪かった位」
「どれくらい使えるかも見ていかないといけないから、このまま休まずやってみるのじゃ」
「ねえ。ハヅキは治癒魔法も使えるんでしょ。ペーンさんとハーンさん、治るかな? キックとノーイ、抱っこできるようになる?」
ドウの無邪気な質問にその場の空気が固まる。葉月も何故か返事も動くのも
「……ハヅキ。ワシたちは、ハヅキが治癒魔法を使えなくても誰も責めたりはしないのじゃ。ドウもハヅキの魔法に興味があるだけじゃよ。それに、ハヅキは魔法ができてもできなくても良いんじゃ」
タオはそう言ってくれた。多分、ここにいる皆もそうだろう。なのに、不安が募る。
「……どうかな。どれくらいできるか分からないし、ほかの人の身体に
「そうじゃのう。世話をしながらならどうかのう。まぁ、ハヅキは魔力極少だったし、身体強化でお世話するのが楽になる位じゃろうて。金貨一枚の元奴隷に聖女様の役割りは求めとらんのじゃ」
「ハヅキのお世話の仕方はスゴイよ。軽々と向きを変えたり、座らせたり、アタイ達からしたらそれこそ魔法みたいさ」
「ハヅキがお顔拭いたりするの、優しくて、ペーンさん達もキック達も気持ちよさそうだよ。だから、魔法も優しい魔法だと思う」
皆の言葉で少しだけ気分が上昇した葉月は、ムーとシリに手を引かれ、ペーンとハーンの所に来た。二人は荒い息をして、目線だけで葉月を追っている。普通にお世話するのは自然にできていたのに。突然、本当に魔法が使えて身体の状態を改善できるかもと思うと緊張する。ほんのちょっと前ならポンコツな自分ができる事なんて誠実にお世話をする位だからと思っていた。
祝詞は正直略式のものしか知らない。お正月に母の実家の神社を手伝う時「家内安全」とか「商売繁盛」とかの願い事一覧があった。あれを組み合わせたら有効な治癒魔法にならないだろうか。ダメ元でやってみよう!
まずは女性のハーンからマッサージを始める。
「ハーンさん、ハヅキです。マッサージしながら、ちょっとだけ魔法を使いますね。いいですか?良かったら瞬きしてください」
ハーンの瞼が開閉する。ハーンは痩せていて筋肉も落ち皮膚も乾燥している。タオの年齢から推測すると三十代後半か。双子の丸い瞳とふっくらした唇はハーンに似ていると思う。呪いにかかるまでは宿屋や食堂の看板奥さんだったんだろう。
「ハーンさん、じゃあ、始めますね」
葉月は三十九歳で亡くなった美しかった母を思い出す。
葉月の母は実家の神社で巫女をしていた。父は神社の氏子で母が高校を卒業すると猛烈にアタックし、二十八歳と十八歳で結婚した。父は十歳年下の妻を
そんな母は葉月と弥生を出産後、難病を発症した。徐々に筋力が落ちていく難病だ。葉月が小学校に上がる頃には介護用ベッドで寝起きをしていた。体調の良いときはベッドサイドに葉月と弥生を呼んでお揃いの手鏡を見ながら
今ならばヤングケアラーと言われていたかもしれない。家事や介護の一切を担っていた葉月は、母が亡くなった時、自分の役割が終わってしまった様に思った。弥生が十八歳でシングルで出産した
誰かの役に立ちたい。誰かに必要にされたい。私はここにいる理由が欲しい。
お願い! 良くなって欲しい! ペーンさんとまた手を繋げるようになって欲しい。キックとノーイを抱っこして笑ってほしい。お願い!
「かしこみ、かしこみ」
「
「
葉月の臍のあたりから細く光る触手が沢山出てきた。触手自体は概念なのか、服は
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