第6話

 成の身体が再びカチンと強張った。

 おしっこでも我慢するように、細い脚がモジモジと揺れる。


(まったく、エロガキなんだから)


 その事に満足しつつ、結愛は成の掌をギュッと自分のお尻に押し付ける。


「し、渋谷さん!? ななな、なにしてるの!?」

「だから魔法をかけてるの。どう、あたしのお尻。おっきくて柔らかいでしょ」

「ぇ、ぁ、ぅ、ぁぅ……」


 真っ赤になった成は、どう答えていいのか分からない様子で、ぁぅぁぅと口を動かしている。

 結愛はニコっと笑って成の手をお尻から離した。


「はいおしまい。あたしに追いつけたらもう一回触らせてあげる。今度は生で」

「えっ!」


 キョトンとする成を置き去りにして、結愛はタッタと走り出す。

 距離が空き、結愛は茫然とする成を振り向いた。


「ほらほら。早くしないと時間切れになっちゃうよ?」


 プリプリとお尻を振る。

 成はパチパチ瞬きをすると。


「……それ、本当?」

「ギャルに二言はあり得ないから」


 ギャルピースで答えると、成はゴクリと唾を飲んだ。

 そしていきなり加速した。


「うぉっと! 危な! やればできるじゃん!」


 お尻目掛けて伸びた手をギリギリで避けて結愛も走り出す。


「追いついたら渋谷さんのお尻……追いついたら渋谷さんのお尻……追いついたら渋谷さんのお尻!」


 うわ言のように繰り返す成の目は、結愛の大きなお尻に釘付けだ。

 捕食者の目になった成を見て結愛はゾクゾクした。


「やっばぁ……。完全にあたしのお尻しか見えてないじゃん……」


 性欲の前に我を忘れて暴走する姿。

 それもまた、ショタの醍醐味である。


「ほらほら! ここまでおいでー!」

「待てえええええええ!」


 恐るべき下心。

 成の動きは見違えて、1時間も走り続けた。

 まぁ、遅い事には変わりなく、最後まで結愛を捕まえる事は出来なかったが。


「ぜー、ぜー、ぜー……。もう無理! 限界ぃ!」


 ついに力尽き、こてんと芝に転がった。


「あははは! やればできるじゃん!」


 本気で頑張るショタの姿に結愛も大満足だ。


「……でも、結局捕まえられなかったし……。うぅ……」


 息を荒げながら半泣きで悔しがる成を見て、結愛はニコリと微笑んだ。


「はい、残念賞!」


 成の頭のすぐ上に座ると、汗ばんだムッチムチの太ももで頭部をムギュッ♡ っとホールドする。


「ふぁ!? ししし、渋谷さん!?」


 股の間であたふたする成に結愛は告げる。


「頑張った良い子にはご褒美をあげないと。それとも小鳩、嫌だった?」


 成は声も出せず、ブルブルと頭を小刻みに揺らした。


「イヤン♡ くすぐったいってば」

「ご、ごめんなさい!」


 謝りながら、成は内股になって股間を押さえた。

 その奥がどうなっているのか想像して、結愛はウットリした。


「はい。今日はここまで。どう? この調子で明日も頑張れそう?」


 結愛の質問に、成はオドオドしながら上目づかいで頷いた。


「ぅ、ぅん……」

「本当? 絶対だよ? お姉ちゃんと約束出来る?」

「……ぅ、ぅん」


 今度は少し困惑気味に頷くと、結愛が差し出した小指に指を絡める。


「ゆーびきーりげーんまんうーそついたらはりせんぼんの~ます~。良い子と良い子のお約束、指切った!」


 幸せそうな結愛を見て、成は複雑な表情を浮かべる。

 言いたい事は山ほどあるが、とりあえず今はどうでもいいかな……。そんな顔だ。

 成は自分の小指を見つめると、恥ずかしそうに結愛を見上げてポツリと言った。


「あ……ありがとう……」


 あまりの可愛さに、逆に結愛は正気に戻った。


「な、なにがよ……」

「色々と……。僕の為に頑張ってくれて……。みんな僕の事バカにするか無視するだけで、こんな風に構ってなんかくれないから……」

「あふっ!?」


 唐突な健気ショタムーブに結愛は心臓を撃ち抜かれた。


 ヤバい。

 普通に可愛い。

 素で萌えた。


 だからこそブレーキがかかる。


 百歩譲ってショタに萌えるのはいい。

 けど、素のこいつに萌えるのは話が違う。


(だってそれじゃあ、本気であたしが好きになっちゃったみたいじゃん!)


 それはない。

 絶対ない。

 誰がこんなヘタレ野郎!


 そう思いながらも、胸のドキドキが止まらない。


「か、勘違いすんなし! さっきも言ったでしょ! あんたが情けないとあたしが恥かくから構ってるだけ! それだけだし!」

「ぇ、ぁ、うん?」


 結愛の豹変に成は戸惑った様子である。


「そ、それでも僕は嬉しいけど……」


 ちょっとしょんぼりした感じでも堪らない。

 このままでは萌え死んでしまう。


「黙れし! もう暗くなるから帰るよ!」

「う、うん……」


 というわけで、サクッと公衆トイレで制服に着替えるのだが。


「じゃあ、また明日……」

「ちょっと待てし!」

「な、なに?」

「短パン。返して」


 本日最大の圧を発して結愛は要求した。


「い、いいよ。汗かいちゃったし。洗って明日返すから……」

「ダメ!!!!!!」


 本日最大の大声が出て、お互いにビックリする。


「だ、ダメって……なんで?」


 そんなものショタの使用済み汗だくショパンが欲しいからに決まっている。

 もちろんそんな事は言えるはずもないので。


「な、なんでもいいでしょ! いいから返して! これは命令だから!」


 結愛は怖い顔で右手を差し出した。

 成はポカンとすると、なにかに気付いた顔をして鞄をギュッと引き寄せる。


「……や、やだ」

「なんで! それ、あたしのだし!」

「……だって渋谷さん。ぼ、僕の履いた短パンで変な事するつもりでしょ……」

「ギクッ!?」


 反応してしまい、結愛は慌てて口を押える。

 時すでに遅し。

 成はジットリと疑いの眼差しで結愛を睨んでいる。


「やっぱり……」

「ち、違うってば! そんなわけないでしょ! なんであたしが小鳩なんかで! 勘違いにも程があるから!」

「じゃあ、渋谷さんの短パンと交換して」

「は?」


 思わぬ要求に結愛は戸惑った。

 その意図に気づき、一気に顔が赤くなる。


「はぁ!? そんなのダメに決まってるじゃん! 小鳩こそ、あたしの短パンでエッチな事するつもりでしょ!」

「ちがうけど……」


 成は真っ赤になって視線をそらした。

 そして不意に、真っすぐ結愛を見つめてくる。


「ぼ、僕の短パンが欲しいなら、渋谷さんのと交換! それならフェアでしょ!」

「だから、それは元々あたしのだってば!」

「じゃあ渡さない! 持って帰って三回洗って返すから!」

「さ、三回も!?」


 そんなに洗ったら折角のショタのエキスがなくなってしまう。

 結愛は悩んだ。

 ここで成の要求に従ったら、自分はショタコンだと白状しているような物である。

 それは絶対イヤなのだが……。


 でも……。


 しかし……。


 ショタの使用済み汗だく短パンには代えられない……ッ!


 目先のショパンに目が眩み、結愛はそれ以上考える事を放棄した。


「う、ぐ、ぐぐぐ……。そ、そこまで言うなら仕方ないし! あたしは別に小鳩の履いた短パンなんかこれっぽっちも興味ないけど! あんたがど~してもって言うんなら交換してあげる! 感謝しなさいよ! このエロガキ!」

「僕だって渋谷さんの履いた汗臭いズボンなんか欲しくないけど。渋谷さんが僕の短パンで変な事しないっていう保険の為に預かっておくから……」

「はぁ!? あたしの汗は臭くないし!」


 言いながら、結愛は心底恥ずかしくなった。

 もし臭かったらどうしよう!

 っていうかそんなの絶対臭いに決まってるし!

 それなのに、小鳩に短パンの臭いを嗅がれる事を想像したら、何故だか無性に興奮した。


 もしかしてあたしってちょっと変態?

 いやだぁあああああああ!?

 焦る結愛を見て、成はニヤッとほくそ笑む。


「臭くないなら嗅いでも問題ないよね?」

「問題あるし! てか、なにその顔! 小鳩の癖にあたしをからかおうなんて百億万年早いんだけど!」

「……そういう事言われると、僕も意地悪したくなっちゃうな。今夜は渋谷さんの短パンん履いて寝ちゃおっと」

「はぁ!? なにそれ!? 変態じゃん! だったらあたしは小鳩の短パン被って寝てやるし!」

「うわぁ……」

「ちょ! そっちが言い出したくせに引くなし!」

「だって……」

「もう最悪! こんな奴ちょっとでも良いと思った自分がバカだったし! エッチ! スケベ! 変態! エロガキ!」

「それ。全部そのまま渋谷さんに返すから」


 ムッとした顔で小鳩が脱ぎたてホヤホヤのしっとりとした短パンを差し出す。


「あんたなんか大っ嫌い!」


 ひったくると、結愛は律義に脱ぎたてむわっむわ♡短パンを成に投げつけた。


「僕だって渋谷さんなんか好きじゃないやい!」


 いそいそとお互いに短パンを鞄にしまうと。


「「フンッだ!」」


 顔を背けて解散した。


 そしてその夜。


「高校生の癖に……高校生の癖に……高校生の癖にぃ!」

「バカビッチの癖に……バカビッチの癖に……バカビッチの癖にぃ!」


 互いに罵り合いながら、汗だくの短パン片手にメチャクチャスッキリした。

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罰ゲームで告白してきたクラスのショタコンギャルが高校生はショタじゃない! とキレながらめちゃくちゃ溺愛してくる話。 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA

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