ウルフ、バージョンアップ

『続いてのニュースです。度重なる停電に住民たちの不満の声が上がっています。全国のほとんどの地域へのエネルギー供給事業を行っているビフレストエナジーは度重なる停電について、同社の所有する守護機”グランガディオ”は戦闘後にエネルギーの充填が必要であり、その際に一部地域を停電させる場合があると説明しました。昨今の状況から、出動が増えており、停電の頻度も多くなっている。利用者が安心してサービスを受けられるよう改善をはかっていく。としています。』


「ん、そろそろ時間だな」


 自室で一人、ニュース番組をみていたパワーウルフが時計を確認すると、もうすぐ22時になるという頃合いだった。


『……との声も多く、専門家からは事業規模の拡大を急ぐあまり供給能力が追いついていないとの指てきも......』


 もうしばらくテレビを見ていると、端末に着信が入る。


「こちらビート・ウェーブ」

「パワーウルフだ。お疲れさま」

「ああ、交代の時間だが大丈夫か?」

「よう、準備バッチシだ。今日はどうだった?」

「今日は4体だったよ。スチームナイトは6体だったって」

「6体も?増える一方だな......」

「そのうち人間より多くなるんじゃないかとすら思えるよ。......少し話しすぎてしまったね、キミも気を付けて」

「ああ」


 パワーウルフは通信を切るとすぐに家を出た。アパートの上に飛び乗り見下ろすと、街にはまだまばらに明かりが灯っている。

 端末を開き、自分の担当区域内で怪人が発生していないか確認するとちょうど次元異常が観測された地点が示される。


「いきなりかよ......。まぁ、いっちょやりますか」


 ニュームーンの動作を軽く確認し、街へとびだす。

 この日、パワーウルフは6時間で8体の怪人を消滅させた。


 __......



 翌日、正午ごろに起床したパワーウルフはいつもより早く出かける準備をすませると、ノムラ工業へと向かった。


「ようおっちゃん、元気してたか?」

「毎日元気に戦々恐々としてるよ。だから無心で集中できることがあってありがたかった」

「結構進んだのか?」


 パワーウルフはハンガーに立つウルフ号を見上げる。

 その胸部にはニュームーンと同じように制御装置が付いていて、そこに上下左右から透明な管がつながっている。


「ああ、調整も大体済んだからもう使えると思うぞ」

「そんなに? こっちとしてはありがたいけどよ。あれ? 腹のとこに入ってるマークはなんだ?」

「あぁ、あれは企業ロゴだよ。ギガロジとメカニスはジェネレータの技術提供だからパッと見じゃ分からないだろ?それで付けようってなったんだが、そしたら他のを付けないのはどうなんだってなってな」


 おっちゃんの言う通り、ウルフ号のお腹にはメカニス、ギガロジ、ポッパー、シャープ、そしてノムラ工業の企業ロゴが刻まれていた。


「なるほどなぁ〜。なんかこうやって見ると、レーシングカーみてェだな」

「空とぶ広告塔ってところだな。まぁ他の守護機もそういうもんだが、自社以外を宣伝してるようなのはなかなかないだろう。アンタの人柄のおかげかな」

「どういうことだ?」

「そういうところだろうな。アンタは分からなくていい」


 パワーウルフは頭をひねって考えてみたが全く思い当たることがなかった。


「とりあえず5つ混ぜるとこまでだ。うちのとポッパーとシャープから1つずつ、メカニスとギガロジは守護機の分だけジェネレータの種類があるがそれぞれ1つ選んだ」

「なんで1つずつなんだ?」

「相性が良いみたいで合わせるとかなりの増幅率なんだよ。メカニスの5つとギガロジの4つを全部入れたらとんでもない出力になる。今でもかなり持て余し気味なのにこれ以上やる必要ないだろ?」

「いつか使うときが来るかもしれネェ!」

「いつか使うかもって、そんな捨てられないゴミみたいに......」

「おっちゃんだってどんなもんができるのか試してみたいと思うだろ!?」

「まぁまぁ、分かった、分かったよ。今のままじゃジェネレータが耐えられないから、何か考えてみるよ。」

「絶対だぞ!!」


 パワーウルフが鼻息荒く念を押す。


「それともう一つ」


 おっちゃんがハンガーの奥から何かを台車にのせてくる。


「何だ、これ?」

「ウルフについてはああ言ったが、こいつはあんたのお通りの品だぞ」


 得意げなおっちゃんによって持ち上げられたそれはガントレットとグリーヴのついたハーネスのように見える。


「ニュームーンの改良版だ。12個すべてのサブジェネレータからのエネルギーを混合して、発生したエネルギーを直接装着者に流し込むんだ。そうすれば制御だの容量だの気にしなくていいからな」

「おっちゃん、いつの間にこんな素晴らしいものを......! 一人で楽しんでたなんてズルいぞ!」

「ハハハハハ! そしてさらに!」


 おっちゃんが柱にあるスイッチを操作すると、モーターの作動音とともに天井から吊り下げられた大きな機械が下りてくる。


「これは、腕か?」

「そうだ、小型守護機の腕を独立化したもんで脳波コントロールできる。新しいジェネレーターで強化した体ならこれくらいは軽く振り回せるはずだ」


 小型守護機のものとは言え腕はかなり大きく、片腕だけで人一人分はある。


「これは......最高じゃネェか! これならデコピンで怪人を倒せそうだし、なによりイケてる!」

「だろ! あんたならわかってくれると思ってたよ!」

「......でもこんなのつけてたら街中で戦えなくネェか?」

「......あ」

「......」

「まぁ、いつか使うときが来るかもしれないんじゃないか?」

「......そうだな」


 両者とも熱中すると周りが見えなくなるタイプのようであった。


「あ、あと一応コレも」


 おっちゃんが一枚の紙をパワーウルフに手渡す。


「装備一式のマニュアルだ」

「え!? うすっ、こんだけ?」

「基本着るだけだからな」

「そ、そうなのか......。いや~、でもめちゃくちゃいいモン見せてもらったよ。」

「ヘヘッ、そうだろ? この最高の装備が使われないことを願うよ」

「そうだな」

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無所属ヒーロー 旧式ロボで広告塔となる ひした @hishita

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