ウルフ、多忙

「ウルフ・バックラー!」


 パワーウルフの胸に装着された、円形で大きな宝石がはめられたような小型ジェネレーターが紫に輝き、腕の小型のユニットにエネルギーを送り出す。

 すると腕部のエネルギーシールドが起動し、怪人が放った光弾を受けとめる。


「うん、応答速度も問題ないな」

「どうですか? ”ニュームーン“の調子は?」

「いいかんじだ。そろそろコイツの調整は終わりにしてもよさそうだな」


 ニュームーンはパワーウルフが頻発する次元災害に対抗するために企業と共同で開発した装備で、複数エネルギー混合システムのプロトタイプでもある。

  機能としては腕部ユニットからのエネルギー出力と、装備者へのエネルギー供給のみと控え目だが、パワーウルフはその扱いやすさを気に入っていた。


「そういえば、今日は何かがあるって言ってませんでした?」

「あ~そうだった。よし、さっさと終わらせるか」


 パワーウルフがバックラーで弾をはじきながら怪人へと近付き、その挙が顎を捉える。さらに反対の拳を顔面に、そのまま地面にたたきつけると怪人は爆散した。


「それで、どこに行くんですか?」

「ん?ああ、工場見学だよ」

「え!?お子さんいらっしかったんですか!?」

「ちげーよ!てかなんでそんな衝撃受けてんだよ!ただ俺が行きたいから行くだけだ」

「へえ、意外とそういうの興味あるんですね。意外でもないか」

「どーいう意味だよ!」


 パワーウルフは足早に戻ると、工場見学へと出かけた。


 __......


~工場ゲート前~

「みなさん、本日は"ビフレストエナジー"の工場見学ツアーにおこしいただきありがとうございます!」


「こんにちは!」「工場ってどこまで入れるのー?」「パワーウルフだ!」

「サイン下さい」「ママ、トイレ~」


 家族連れが多いなか、パワーウルフはかなり目立っていた。(もっとも、衆人環境で目立たないということは今までなかったが)

 その横にはつば広の帽子と丈の長いコートを着た腰の曲がった老人がつれそっている。


「特にイベントとかではなくプライベートできていらっしゃるので、そっとしておいてあげて下さいね~」

「は~い!」「プライベートでもあのカッコウなんだ」

「よう、みんな。今日はじいちゃんがどうしてもたいっていうんで、一緒に来たんだ」

「私はまだおじいちゃんなんて歳じゃあ......」

「ウゥン!」

「そ、そうじゃ、いつも世話になってる会社を一度は見ておこうと思っての~...」

「そういうわけだから、みんなで楽しもうな!」


 参加者がガイドの後をゾロゾロとって工場内に入る。入ってすぐのところが駅のホームのようになっており、列車がとまっている。


「工場内はとても広いので移動は列車でます。みなさん前の方からつめて乗ってくださーい」


 全員がのりこむと列車がゆるやかに発進する。


「この工場は姉でも特に次元災害が起こりやすいえる色でもあります。なので、常に次元異常を監視し、安全が確認できる場合のみ列車が運行できるようになっています」


 ガイドの説明を聞き流しながら、パワーウルフは窓の外を見る。辺りには整備されているが建物もなにもない、広大な土地が広がっており、その奥に小さく 工場らもき建物が見える。

 そのなにもない土地を、列車が土場に向けて突っ切っていく。


「そろそろつきまーす、おりる準備をお願いしまーす」


 やがて建物が近付いてくると、まるで高層ビルをそのま広げたような巨大さに圧倒される。

 “工場“見学とは言っているが実際は発電・変施設であり、全国をカバーせんとする発電量のわりにはかなりコンパクトで業界トップの技術力がうかがい知れる。

 そして、特に目をひくのが、工場と向かい合うように接続されている超巨大守護機。

 怪獣災害に対抗するために作られた最初の守護葉機でありの今も最強 の座を欲しいままにする守護神”グランガディガが静かにたたずんでいる。他の参加者たちも興奮気味だ。


「列車おりましたらこちらへお願いしまーす!忘れのないようご注意くださーい!」


 列車が倒置するとガイドにつれられてゾロゾロと建物に入っていく。中は白を基調としていて清ケり感があり、見学用の通路はガラス張りで様々な区画を一望できる。


「こちらが蓋電変圧ユニット区画です。ひとつひとつの供給能力も高いですが、それをたくさん用意することで冗長性を確保してるんですよー」

「じいちゃん、どうだ?」「う~ん、何とも言えんの~・・・」


 あの奥が発電施設になってますが、企業秘密のためお見せできません」

「じいちゃん、どうだ?」「う~ん、何とも言えんの~......」


「こちらが食堂です」

「じいちゃん、どうだ?」「う~ん、腹へったの~...」「来る前に食ったじゃネェか」


「こちらが守護機用ハンガーです。発電だけでなく、装備の整備や組み立てなども行ってるので工場というくくりになってますー」


 パワーウルフが下をのぞきこむと小さく見える作業員たちが何や作業しているのが見える。そして正面にはグランガディオの胴体。 何のためか分らないからパイプからが大量につながれ、まるで入院患者のようだ。


「じいちゃん、どうだ?」「う~ん、まだ何とも言えんの~...」


 工場内を一通り回った後、参加者たちは再びホームに戻ってきた。が、列車はそこにとまっているのに搭乗の指示が出ない。


「え~現在敷地内で次元異常が確認されましたのでしばらくお待ちください」



ガイドの言葉に参加者たちがざわつく。


「あっ!怪獣!」


一人の子供が指さす先、怪獣がポツンと現れていた。


「さか本当に出るなんて...」

「死ぬんだぁ...」


参加者たちに動揺が広がる。しばらくさわいでいると大きな駆動音がひびきわたり、みな何事かとあたりを見回す。


「あ、動いてる!」


一人の子どもが指をさす。すると指し示された壁の向こうからグランガディオの腕が、本体は影になって見えないが、壁から生えてくるように伸びるのが見えた。

そして、グランガディオの掌がパッと辺りを強く照らし、光が怪獣に向かって放たれる。

光は着弾すると白く爆発し、怪獣は跡形もなくなっていた。


「すげー!」「やっぱグランガディは最強なんだ」「カッコイー!」


参加者たちは守護神の勇姿を間近で見れて大興奮だ。


「じいちゃん、どうだ?」「いいもんが見れたの~」

「次元異常はおさまったようなので、みなさん列車に乗ってくださーい」


 参加者たちがおちついてきたころ、タイミングを見計らっていたガイドに促され、乗車していく。 列車が発進したあとも、話題はグランドディオのことでもちきりで、もはやパワーウルフを見ている人はいなかった。


「それでは、本日はビフレストエナジーの工場見学ツアーに参加いただきありがとうございました。お時間のある方は、アンケートの記入をぜひお願いいたします」


工場ゲートの前、ツアーが終了すると参加者たちは散り散りになっていった。パワーウルフたちは遠くに呼んでおいたタクシーにのりこむ。


「それで、なにか分かったか。じいちゃん」

「もう終わったんだからその呼び方はやめてくれ」

「案外ノってたじゃネェか」


 じいちゃんと呼ばれた男が帽子とコートを脱ぐと、白髪と黒ぶちメガネがあらわになる。その胸にはなにかの機器が装着されている。


「フン、嫌々やってただけだ。......計測の結果だが、確かにキミの考えは当たっているかもしれない。だが、そう断言するにはまだデータが足りない」

 オオシマは胸の装置を外すと折れ曲がっていた体を思い切り伸ばした。

「もっと激しい戦闘がないと、か」

「そうだな。グランガディオが出張るほどの次元災害を願うというのは何とも不謹慎だが、そういうタイミングを狙うしかないな」

「アレは引きこもってなかなか出てこネェだろうからなぁ。何か別の方法を考えるか......。とにかく、今日はありがとうな、何か分かったら連絡するよ」

「ああ。......それはそうと、帰りに何か食べていかないか?」

「ホントに腹減ってたのかよ」

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