後半パート



𓆛𓆛𓆛

「おれの名前は千年海人ちとせかいと。ヨコハマで親父とじいちゃんと漁師をやっています」

「わたしは嘉島かしまナミネです。海がないとこの生まれなので、海を見に来ました」

「ぼくはベルーガさんでち。よろしくでち!!」

「あ、どうもご丁寧に。よろしくお願いします」

ナミネが頭を下げるとベルーガさんが、海人に耳打ちをする。

『可能性大でち。ぼくのあの挨拶で『ご丁寧に』でちよ? 彼女はイルカに属するものがあんまり真面目じゃないのを知ってるでち』

『ふむ。ベルーガさん、まだエコロケーションは元に戻らないの?』

『まだまだでち。もっと魚人うおんちゅを減らす必要があるでち』

「あ、あのー、何か問題が?」

「なんでもないでち!!!」


ウツボ男を倒したのち、三人はコーヒーショップに入った。ベルーガさんに怪訝そうな笑みを返したあと、ナミネはみっつめのチョコドーナツをもぐもぐし始める。

それを海人とベルーガさんはこっそりと観察する。


この世界の最大のキー、お嬢様。仮面バトラーはお嬢様を守ることが宿命である。しかし、お嬢様を魚人うおんちゅたらしめようとする海キングとその配下たちは、代々仮面バトラー・マリーンのサポートを担うベルーガ一族を真っ先に襲撃したのだ。

いわゆる、『頭の中で永遠に流れ続けてしまう系の曲』を海キングはベルーガ一族の住処に爆音も爆音で流し続けたのだ。

「ウッ、またあたま〜が〜よく〜なる〜でち…」

「大丈夫?」

「大丈夫でち。コーヒーをくれでち」

「はい」

「ふう。カフェインは良くないでちが仕方がないでちね…」

いま、ベルーガさんはカフェインというおおよそイルカは摂らないであろう成分によって能力を半分ほど維持している。試行錯誤したのちにカフェインに落ち着いたが、しかし効果は安定せず、ベルーガ一族に伝承される『お嬢様を識別する力』が完全に出せないでいるのだ。

あまりにもショッキングだったせいなのか、ベルーガさんは魚人を見ると無条件で曲ループに陥ってしまうのだ。

「よし! 嘉島さん、おれんちでいっしょに暮らそう!」

「ブフッ」ナミネがチョコドーナツでむせる。

「ヨコハマはいいところでちよ」ベルーガさんが、ヒレを組んでうんうんとうなづく。

ナミネは目をぱちくりしたあと、「いいんですか?」と言った。

「えっ」「エッ」海人とベルーガさんが順に驚く。

「わたし、家から出てきたんです!良かった!あっ親はいないので大丈夫です!中学校も今年で卒業です!だからなんにも大丈夫!よろしくお願いします!!」

ナミネは椅子から立ち上がると、海人の手を取り頭を深く下げた。

「家なき子のお嬢様でちか…」

ベルーガさんがちょっと頭を抱える。




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仮面バトラーマリーン 第一話【非公式】 フカ @ivyivory

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