第3話 ええっ!? 一日で農村を!?


 アーク領の現状については軽く聞いていた。


 食料不足な上に大盗賊団が現れたり借金まみれらしい。ようはとてつもなく最悪な状況の領地だそうだ。


 食料に関しては本当に致命的らしい。仮に豊作だったとしても必要な量に足りない計算だったのに、不作でもう首が回らないとかなんとか。


 まあそんな状況じゃなければ馬の骨である俺に、助けを求めてきたりしないだろうしな。


 それで食料についてはひとまず俺が解決できる。地球の食料を持って来ればいいだけだからな。


 俺からすれば一食分の乾パンでも、アリくらいの小人たちには都市ひとつを賄える食料になる。


 なので日本に戻って色々買い物したりで、一日ほど滞在してまたこの世界に戻って来た。


 ……はずだったのだが。


「え? 俺が出て行ってから一か月も経ってるんですか?」

「は、はい!」


 都市がわずか一日で危機的状況に陥ってたので、流石におかしいと思って聞いてみたらこれだ。


 おかしいな、時間が合わない。この世界と日本では時間の流れが違うということだろうか。


 そうなると少し計算が狂うが仕方ない。どちらにしても俺のやることは変わらないし。


 俺はアリアナちゃんたちに助けられて、高価そうな指輪までもらった身だ。


 その恩返しとして彼女らを助ける義務があるだろう。


 あとは領地経営シミュレーションが好きなので、現実で出来るならばやってみたい気持ちもある。なのでユーリカさんたちを助けることにした。


 さらに俺にとって都合がいいことがある。経営に失敗したとしても、いざとなったら地球から物資を持って来ればなんとでもなる。


 なにせ一個二百円の乾パンで、都市の一日分の食事が賄えるのだ。六万円くらい出せば一年分になるわけで、最悪でも小人たちを飢え死にはさせないですむ。


 ただ大学生の身としては六万円の出費は痛い。なるべく避けたいことではある。


 やはり一番の問題は日本とこの世界の時間の流れが違うところか。


 俺は大学生なので講義も出ないとダメだし、生活費のためにバイトする必要もある。ずっとこの世界に入り浸るのは無理そうだ。


 なので乾パンを毎日持ってくるのは無理だろうな。俺が日本に一時間程度戻るだけでも、この世界だと一日以上経過してしまうっぽいし。


 俺がずっとこの都市に食料を与え続けるのは現実的ではないし、俺が不在の時のことも考えていかないとダメと。


 やはりまずはアーク領の食料不足を解消するべきだろう。そのためには農地を広げればいい。


 つまり農村を作ればいい。すごく簡単な話なのでさっそくやってしまおう。


「ヒロト殿!? 村を作るってどういう……!?」


 足元の城壁の上からユーリカさんの声が聞こえてくる。


「普通に作るんですよ。住む家と畑と飲み水があれば村になるでしょう? あ、余ってる土地は自由に使っていいですよね?」

「は、はい! それはいいですけど……!?」

「じゃあ悪いですけどついてきてもらえますか? 村にする場所の最終確認をしていただきたいので、手のひらに乗って頂ければと」


 俺はリュックを背負った後、しゃがんで右手を城壁に寄せるように動かす。


 ユーリカさんは少し迷った素振りを見せた後に、俺の右手のひらに飛び乗った。なぜかアリアナちゃんも同じようについてきたがまあいいか。


 さっそく立ち上がって周囲を見回すと、右手から声が聞こえて来た。


「た、たかっ!? そこらの山が低く見えるのだけれど!? 私たちの都市が小さく見えるのだけれど!?」

「落ちたら即死ですね」


 叫んでいるのがユーリカさんで、淡々と告げているのはアリアナちゃんだ。ちなみに彼女らは小さいが、声はけっこう聞こえたりする。


 まあ小さくても虫の鳴き声ってよく聞こえるからな。特にセミとかあいつどこから声を出してるんだ? ちょっとくらいサイズ相応の騒音になって欲しい。


 そんなことを考えていると近くによさそうな土地を見つけた。両手で水をすくうように合わせてユーリカさんたちを落とさないようにしてから、ゆっくりと慎重に歩き始める。


 そして一分ほど歩くと目的地付近に到着した。


 ユーリカさんたちを地上に降ろして、彼女に向けて話しかける。


「アーク男爵。ここらへんに農村を作ってもいいですか? 川もありますし都市アークからもそこまで離れてません。どうでしょうか?」

「農村を作るのは構いませんが……ここらは森ですよ? 私たちもこの森の開拓を考えたことはありますが、年単位の期間と莫大な予算が必要なので無理で……」


 俺が見つけた場所は森だ。間を通り抜けるように川があるので、水に困りはしないだろう。


「ありがとうございます。確かに少し手間はかかりますが仕方ありません。どうせ畑のために雑草は抜いて耕さないとダメですし」

「ざ、雑草……」


 許可も得たのでさっさとやってしまおう。リュックを背中から降ろして、まずはブロックで作った小さな家を取り出した。


 四角い家に扉をつけただけの、俗に言うかは知らないが豆腐建築と呼ばれるやつ。


「二人ともこの家の中、もしくは側にいてください。間違えて踏んだら困るので」


 俺はブロックの家をユーリカさんたちの側に置いてから、軍手を取り出して手につけた。


 そこらの雑草を指でチマチマと抜き始める。けっこう数が多いので面倒だが、除草剤を撒くわけにもいかないしな。


 たまに少しだけ大きい雑草があるが、しょせんは雑草なので簡単に引っこ抜ける。根っこを残すとまた生えてくるので気をつけねば。


 なんかたまに小さな虫みたいなのがいるけど、慌てたように逃げていくので気にしなくていいか。


「も、森がどんどんなくなっていくのだけれど……!?」

「お姉さま、別にいいじゃないですか。ここらは魔物が多かったので、ろくに使えなかった土地ですし」

「なくなったら困るって意味じゃないからね!?」


 ブロック家の方からユーリカさんたちの声が聞こえる。


 魔物と聞いたので小さな虫をよく目を凝らすと、なんか小さな狼っぽい感じのとかいる。


 なんか危なそうなので見つけたら指で潰しておく。素手なら嫌だけど軍手の上からなら大丈夫だ。


 そしてしばらく雑草を抜き続けた。思ったよりしんどかったが、二メートル四方ほどは雑草をほぼ全部抜けた。


「一瞬で森の一部が消滅したんですけど……ねえアリアナちゃん、少し頬をつねってくれないかしら!?」

「姉さま、そろそろ現実を見てください。あとセルフサービスでやってください」


 ブロック家の前で立っているユーリカさんたちは、俺が雑草を抜き終えた土地を見て唖然としていた。


 これで雑草抜きは完了、後は畑づくりだ。俺はリュックから新品のクワを取り出して地面を耕し始める。


 ザックザックと耕し続けて、雑草を抜いた土地はだいたい耕し終えた。これで畑も完成だ。


「じゃあこの地に家をいくつか作れば、最低限の農村の完成と」

「でも家なんてすぐに作れるものでは……!?」

「姉さま、いまボクたちがいる場所はなんでしょうか」

「あっ!? 本当だ!? 家じゃない!? でもひとつだけだと流石に!」

「ああ、いえ。とりあえず四つくらいは持ってきてますよ。それにすぐ作れますし」


 俺はブロックの入ったバケツを取り出して、事前に作っておいた豆腐ハウスを三個ほど地面に置いた。 これで四つほどの家のある農村になったな!


 それにまだまだブロックに余裕はあるので、豆腐ハウスならまだまだ量産できるぞ! 


 え? もうちょっと凝った家? ブロックで凝った家作るの難しくない……?


 まあビル(三連豆腐ハウス)くらいなら作れるだろうけども、土地が余ってるからビルを作る必要ないし。


「ねえアリアナちゃん。莫大な予算つきの数年単位で行う開墾計画が、一日足らずで終わっちゃったんだけど? 私ね、去年もこの森の開拓を考えていたのよ!? でも数年単位な上に人手もお金もかかるから無理だったのだけれど!?」

「よかったですね」

「よかったの一言で済ませないで!? どう考えてもおかしいでしょ!?」

「あれほど大きい巨神様なら全然おかしくない話かと。私たち基準で考えてはいけませんよ」

「そうだけどね!? それでもね!?」


 言い争っているユーリカさんたち。


 俺はブロック家付近で小さくなって彼女らの元に駆け寄ると。


「アーク男爵。後は人と家具が必要ですが、それくらいなら私の方で都市から運べます。これなら近いうちに農村として稼働できると思うのですが」


 流石に家具までは用意できなかった。いや人形の家具も探せばあるのだろうが、とりあえずはブロック家だけにしておいたのだ。


 するとユーリカさんは俺を見て、やけくそ気味に笑った。


「……明日からやります」

「はい?」

「さっそく今日中に人を集めて、明日からこの農村を動かします! もう毒を喰らわば皿までなんですよ!?」

「それだと俺は毒になりません?」

「あっ!? い、いや違います! これは言葉の綾で……っ!? ヒロト殿は毒じゃなくて皿です!」

「それはそれでよく意味が分からないのですが」

「とにかく急いで都市に戻って、明日からこの農村を稼働させます!」


 というわけでアーク領に新たな農村がひとつ生まれたのだった。


 ちなみに流石に一日で農村稼働は無理だったが、数日ほどで人を移住させて作物栽培を開始したらしい。早い。


 しかし農村作るの楽しいな! もう三つくらい作ってもいいかも!


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家庭菜園規模でもこの世界なら立派な農村になります。

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