第4話 酷い領地状況
俺たちは農村を作り終えた後、城塞都市アークへと戻っていた。
もちろん俺は小さくなって都市に入り、領主屋敷の応接間の椅子に座らされている。
ユーリカさんとアリアナちゃんも、テーブルを挟んで対面するように席についていた。
今後のことの相談のための場を設けてもらった形だ。経営シミュレーション的にも、方針を決めておくのは大事だからな。
「ヒロト殿! 新しい農村ですがさっそく移住希望者が大勢出てます! これならすぐに移住する人を決められますわっ!」
「随分と早いですね」
ユーリカさんは戻ってきてすぐに移民募集を開始した。すると一瞬で大勢の人間が集まったらしい。
都市から農村に移り住むなんて文字通りの都落ちなのに、希望者が多いとは思わなかった。するとユーリカさんは俺から目を逸らした。
「まあその。お恥ずかしい話なんですが、この都市はスラムが年々広がってましたので……」
なるほど。そりゃスラムよりは土地をもらって耕す方がいいに決まってるか。
まあ年々スラムが広がっているというのは、どう考えてもいい状況ではないけども。
「ユーリカさん。この領地の状況について詳しく教えて頂けますか? 以前はかいつまんだ話しか聞けませんでしたので」
俺はこのアーク領の経営状態について仔細は知らない。借金まみれで食料不足、さらに大盗賊団が出没していて悲惨なことは聞いているが。
ただどれくらいの悲惨なのかまでは把握していないのだ。これから政務などを手伝うのだから把握する必要があるだろう。
「えーっと……ちょっと待ってくださいね!」
ユーリカさんはドタドタと部屋を出て行ったあと、しばらくして紙束を持ってきた。
「これが現状のアーク領について記載してる紙ですわ!」
「相当酷いので覚悟して見てください」
アリアナちゃんがそんな言葉を付け加えて来る。いったいどれくらい酷いのかちょっと怖い。
俺は紙束を受け取って目を通していく。ちなみにこの世界の言語は日本語だ。日本語はこの世界では『巨神語』と言われていて共通言語になっている。
なぜそう呼ばれているのかについてだが、この世界にはたまに日本のモノが落ちて来るそうだ。
それらは
話が逸れたな。
「……これは酷いですね」
紙に書かれた内容を見て言葉が漏れてしまった。
一言で表すならアーク領ヤバイ。本来の領地のうちの五割くらいは、現状ではそもそも管理すらできていない状況だった。
北の方の土地は盗賊団によって占領されているし、東の方の土地は隣国に実効支配されてしまっているようだ。つまり税が取れていない。
そんな状況なので経済は当然悪化して、占領された土地の税収を補うためには税を上げざるを得ない。そうなると領民は生活が苦しくなって、他の土地へ逃げ始めている。
なのでまた税を上げざるを得ないという最悪の悪循環だ。挙句に今季は不作だったらしく、食料自体がまったく足りてない。
このままだと春には食料が尽きて、領民の何割かが餓死する恐れがあるとまで記載されている。しかも外に買い付けする金もないと。
そしてトドメは薪不足である。もうすぐ冬なのに周囲が物騒なせいでろくに集められておらず、このままだと凍死者が続出しそうだと。
ユーリカさんは死んだような目でブツブツと呟き始めた。
「……隣国との戦いに出向いて、父親と嫡男から五男まで戻ってこなかったんです。仕方なく私が爵位を継いだのですが、兵士も全滅しているし東の土地は占領されたしで! こんなのどうしようもないじゃないですか!? うえーん!?」
ユーリカさんは泣き始めて、それに追随するようにアリアナちゃんが淡々と口を開く。
「ついでに兵士がいなくなったことで、北も盗賊団の縄張りにされましたからね。あとは周辺の村にも野盗が現れたり、人食い鬼が出てきたりしています」
「盗賊たちが一旗上げようとアーク領に集まってるって聞いてます……! こんなのあんまりじゃないですか!?」
傷口に塩どころか毒を塗られてるレベルだな……。戦争に負けたせいで兵士が減って、そこから領地が荒れていくと。
あとはユーリカさんが領主っぽくないのも分かった。元々継ぐ予定がなかったから、そういう教育とか受けてこなかったのだろう。
「うう……私は領主になる予定なんてなかったのに! 経営なんてよく分からないのにぃ!? なんでお父様に兄様四人含めて全滅するのよお!? あいつはともかく、他は生き残っていて欲しかったのに!?」
ユーリカさんはタガが外れたのか悲鳴を上げ続ける。
そりゃ領主が普通に生きていて五男までいたのだ。まさか自分にお株が回って来るとは思わないだろうな。
ところで『あいつはともかく』と言ったが、なんか聞くの怖いからやめておこう。
「ええと。さらに借金は莫大過ぎて、利子すらロクに返せていない状況と……」
ズタボロにもほどがある。日本ならとっくの昔に自己破産一択だっただろう。
だがこの世界の領主に自己破産なんてシステムはないだろうしな。あるとしたら処刑による身の破滅か。
アリアナちゃんは小さくため息をついた。
「その紙には記載されてませんが、グレートオーガの群れも出ましたね。一体相手でも騎士団の討伐軍が必要な魔物が。騎士団に要請しても来てくれませんでしたが」
「あー、さっき都市の周りにいた小さいやつね。あれってそんなにヤバイ奴だったんだ」
「ヤバイなんてレベルじゃないですよ!? あの群れの規模ならば対応を誤ったら普通に国が滅ぶレベルなの! それを瞬殺したヒロト殿が異常すぎるだけで!」
あの小さなバッタみたいなのがそんなに強いとはな。俺からすれば飛ばない分だけ潰しやすかったくらいだったのに。
紙には他にも色々と問題点が書かれているな。
職を求めた人が都市に来て、スラムに定住してしまうのが増えている。アーク領の経営がひど過ぎるから商人がやってこないなども記載されている。
つまり経済が停滞しているということで、なんというか地獄みたいな領地になってるな。
俺は思わず……笑いそうになるのをこらえていた。
なんてやりがいのある状況なのだろうか! こういう絶望的な状況から成り上がるのは経営シミュレーションの醍醐味だ!
俺は例えば某信長ゲームとかなら、普通にやったら即滅亡する弱小大名で遊ぶことが多い。と言っても絶望的状況から逆転するわけじゃない。
弱小大名家を選択はする。だがそこに信長と秀吉と家康を足した性能の壊れ武将を入れて、そいつで無双してクリアするのだ。
つまりは弱小から始まる無双プレイ、それが俺の楽しみ方だ。なのでこのアーク領の絶望的状況は完璧と言える。
俺は好きなことができてアーク領は豊かになる。誰も損しない幸せな世界だ、盛り上がって来たな。
「ヒロト殿? どうかされました?」
「いえなんでもないですよ」
ユーリカさんに軽く返しつつ、この先の展望を改めて考える。
さてどうしよう。経営シミュレーションなら問題点から潰すのが鉄板だが、問題点が多すぎてどこから手をつけるべきか。
こういう時は優先順位を決めるべきだな。まず食料についてはしばらくは俺が地球から持ってこよう。
今の季節は秋の収穫を終えた後なので、しばらくはどう足掻いても食料を増やせないし。
なので食料はしばらく支援して、その間にそれ以外の経営状況を建て直すべきか。
そうなると急ぎやるべきなのは……やっぱりあれだな。
「よし、じゃあひとまず盗賊を退治しましょうか」
まずは占領された土地を取り返すべきだ。全てはそこからである。
ところで隣国と接しているのに男爵領なのか。普通ならもっと爵位高くないのだろうか。
気になったがいまは置いておくことにしよう。
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