第2話 小さい世界
膝より低い城壁を見下ろすと、多くの小人たちが俺を見て歓声を上げている。
いや正確に言うと彼らが小さいと言うよりも、俺がこの世界ですごく大きいと言うべきか。
ここは地球でない異世界であり、全てのモノが地球よりもはるかに小さい。なので彼らのサイズの方が当たり前なのだから。
つまり俺の足元に広がる小さな城塞都市も、ミニチュアではなく本物というわけだ。
「ヒロト様! お帰りなさいませ! お食事の準備が……!」
「ヒロト殿ォォォォォォォ! 信じて、信じていたわよぉぉぉ!? よくぞ戻ってきてくれてありがとああああぁぁぁぁ!!!!!」
足元から声が聞こえる。
だがこのままだと流石に話しづらいし、彼らと同じ大きさになることにしよう。
俺は背負っていたリュックを地面に降ろしてから、
「
しゃがんで城壁の上に指を置きながらそう叫ぶ。すると右手の中指につけた指輪が光って、俺の身体がどんどん小さくなっていく。
そして俺は小人たちと同じ大きさになって、城壁の上に立っていた。
「ヒロト殿ぉぉぉぉぉぉ!!!!」
姫騎士がこちらに向けて全力疾走してきて、勢いよく俺に抱き着いてきた。
彼女はこの付近の土地の領主であるユーリカ・アーク男爵だ。とても領主には思えないが領主だ。
腰まで伸ばした真っ赤な髪やけっこう大きな胸が特徴である。そんな彼女に抱き着かれると正直ドキドキしてしまう。
「ヒロト殿ォ! よくぞ戻ってきてくれたわ! このままでは都市アークは滅ぶとこ痛たたたたたた!? アリアナちゃん! 痛いってば!?」
「お姉さま。ボクの足を引っ張らないでください」
「アリアナちゃんが私の腕を引っ張ってるんだけど!?」
ユーリカさんの髭を引っ張っているのは、ゴシックロリータ風のドレスを着たサイドテールの少女だ。
彼女の名前はアリアナ・アーク。領主であるユーリカさんの妹で、ついでに巫女だそうだ。なんでゴスロリで巫女なのかは知らない。
アリアナちゃんはユーリカさんといろんなところが反対だ。髪の色は青で性格は大人しく、かなり細身で胸はあまりない。
そんなアリアナちゃんは俺に向けて頭を下げると小さく微笑んだ。そして俺の右手をソッと取って、中指にはまっている指輪を見つめる。
「ヒロト様、お帰りなさいませ。縮小の指輪は問題なく使用できてますね。代々、調整してきたかいがありました」
俺がつけている指輪はアリアナちゃんからもらったものだ。
「ああ。この指輪のおかげで地球に戻れたし助かったよ」
俺は一週間ほど前にこの世界へ転移したが、当然ながら行くアテもなかった。
そんな時に俺は偶然にもこの都市にたどり着いて、助けてくれたのがアリアナちゃんだ。彼女は家に代々伝わっていたという指輪を俺に貸してくれて、さらに転移魔法も使えるようにしてくれた。
おかげで俺は地球の自宅に帰って、またこの世界に戻って来れたというわけだ。
「お礼と言ってはなんだけど色々と持ってきたんだ」
俺は城塞の側に置いてある、山のような大きさのリュックを指さす。これは日本から持ってきたものだ。
あの中には宝石、お菓子、包丁、オモチャの家などなどを入れてある。この世界ではかなり巨大な代物なのでそれなりの価値になるだろう。
「ヒロト様、ありがとうございます。ですがお礼は不要で……」
「ヒロト殿ォ! 感謝感激ですわ!! それと先日お願いした件も考えてもらえたかした!? いやもうなにとぞお願いいたします! ぜひに!」
「…………お姉さま、ちょっと落ち着いてくださいますか?」
「待ってアリアナちゃん!? 城壁の外に押し出そうとするのやめて!? 危ないから!? 落ち着くどころか落ちて死んじゃうから!?」
「大丈夫です、姉さまならそうそう死ぬと思えませんから」
「いや死ぬからね!?」
ベンディさんとアリアナがじゃれ合っている。姉妹仲がいいのはよいことだ。
さて俺がお願いされたことはなにかというと、すごく単純でかつ大変でものすごくやりがいのあることだったりする。
すでに答えは決まっているのでさっさと返答しよう。いやその前にまずやるべきことがあるか。
俺は勢いよく走りだしてそのまま城壁の外へと飛び降りる。
「ひ、ヒロト殿ぉぉぉぉ!?」
ユーリカさんの叫び声が聞こえる中、縮小の指輪の力を解除する。
俺の身体がどんどん膨らんでいき、先ほどまで立っていた城塞が膝よりも下の低さになった。
地面に置いていたリュックを手に取って、中からスコップを取り出す。
「アーク男爵。門が壊れたままでは困るでしょう。ひとまず土の山でふさいでもいいですか?」
アーク男爵はユーリカさんのことである。女の子が男爵って違和感すごいが仕方ない。
「へ!? それはどういう……?」
「ヒロト様、よろしくお願いいたします!」
アリアナから承諾をもらったので、俺はスコップで地面を掘って穴の開いた城門の前に土を盛った。
わずかスコップひとすくいの土だが、城門の四分の一以上の高さの土山になる。
さらに何度か同じことをすると、アッと言う間に土山が城門を塞いでしまった。
俺はこの世界では巨人だ。当然ながらものすごく強くて、それこそドラゴンだろうと踏みつぶせる。
だが強いだけが巨人の価値ではない。それこそ今みたいな土木工事をすれば、本来なら数日かかる土木作業だって一瞬で終わらせてしまう。
そんな俺だからこそ出来ることを、ユーリカさんは頼んでくれた。
川がないなら作ればいい、山が邪魔ならのければいい。土地が必要なら森を派手に開墾し、恐ろしい魔物が襲ってきたら踏みつぶせばいい。
そして街が足りなければ造ればいい。それは俺がずっと望んでいたことだった。
「アーク男爵。私にアーク領の内政を行って欲しいとのことですが、喜んでお受けいたします。それで早速ですが、以前に相談したように農村を作りますね」
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