巨人ダイダラボッチの無双領地経営 ~地面を掘って川や山も作れるので領地改革も楽勝です! あとドラゴン踏みつぶせます!~
純クロン
第1話 巨人転移
「よし。また安定する都市を作れたな」
俺は自宅のリビングの椅子に座って、パソコンでゲームをプレイしていた。画面上にはユーザーネームである『
俺がいまプレイしているのは経営シミュレーション。都市の区画や建物を考えたりして、都市を発展させていくゲームだ。
こういったシミュレーション系のゲームは色々な種類がある。例えば世界観が中世ヨーロッパのものだったり、近代の南国の島だったり、現代の都市を経営するものなどだ。
他には戦争がメインのもある。例えば織田信長が天下統一を狙うゲームだな。
こういったゲームの楽しさは、足りないものを補う施設を用意していくことだ。
街の人口が増えたので食料が足りないから畑を増やす。すると農具や服が足りなくなるから職人を増やし、そしたら素材の木や毛皮が足りなくなる……みたいな感じだ。
なにかを解決すると新たな問題が生まれていく。なので土地が続く限りは無限に楽しめる。
(実際の都市経営は大変なんだろうけどな。畑を造るのも重労働だし、食料不足になったら餓死もあり得るし……)
ゲームをプレイして、実際にやってみたいと思ったことはないだろうか。
俺の場合は実際に都市を作って、そこに住んでみたいなとは思ったことがある。
まあ冷静に考えればいろいろな意味で不可能だろう。
シミュレーションゲームは好きだが、実際の都市経営は困難を極める。ゲームなら建物を簡単に作り直せるが現実ではそうはいかない。
仮に市長になれたとしても自由に街を変えるのは無理だ。
むしろゲームが自由過ぎるとも言える。庶民が住んでる家を問答無用でぶち壊したりできるからな。現実だとどんな
「ふー。そろそろ昼飯でも食うか」
今週は大学が休みなので徹夜でゲームをしていたらもう昼だ。
流石に腹が減ってきたので、キッチンに向かって買い置きのカップ焼きそばを取りに行く。
今日食べるのは【ダイダラボッチの焼きそば】という商品名のカップ焼きそばだ。普通のカップ焼きそばの四倍のパーティーサイズのやつ。
麺も四袋に分かれて梱包されているので、ひとりで食べる時も安心だ。流石にパーティー専用の焼きそばだと買う客がいないだろうしな。
ちなみにダイダラボッチとは巨人の妖怪で、日本の山や川や湖を作ったと言われている。
一説にはダイダラボッチが甲州(山梨県)の土を使って、巨大な富士山を作りあげた。なので甲州は平坦な盆地なのだという話まである。
もしダイダラボッチが本当にいたのならば、俺たちが穴を掘る感覚で湖とか作ってたんだろうな。
自由に土地を動かすなんて絶対楽しいだろうな。ここは人が住める場所にーとか、湖はここにーとか考えてさ。
俺はそんなことを考えながら、棚に置いてあるカップ麺を手に取った。
だが持ち上がらない。
「ん? なんか張り付いてる?」
巨大カップ焼きそばが棚にくっ付いたように離れないのだ。試しに両手で力を入れて引きはがそうとしてみるが、それでもまるでダメ。
よくわからないが気味が悪いので、カップ麺を持ち上げるのをやめた瞬間だった。
「えっ?」
俺の腕が棚に飲み込まれた。
いや違う。棚の上に妙な黒い穴ができていて、そこに俺の両腕が半分ほど入ってしまっている。
「は? え?」
思わず両手を引き上げようとするが、まったく上がる気配がない。いやそれどころか、穴が大きくなってどんどん腕が吸い込まれて……!?
「ちょっ!? えっ!? 待っ……!?」
そして俺はカップ焼きそばに巻き込まれるように穴に飲み込まれた。
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中世ヨーロッパを思わせる城塞都市があった。その城壁の上では少女が頭を抱えている。彼女はドレスの上に薄い甲冑を着こんでいて、この地の領主である。
「なんてことなの……! よりにもよってこのタイミングでグレートオーガが都市にやってくるなんて!? しかも群れなんてふざけないでよ!?」
領主である少女が叫ぶのも無理はないだろう。
この城塞都市から南に一キロ離れた場所では、人の倍ほどの大きさの鬼の群れがいた。
その鬼はグレートオーガと呼ばれていて、一体相手でも騎士団の精鋭による討伐軍が差し向けられるほどの脅威だ。
それが百を超える群れをなしていた。もはや天災級の大災害であり、国を挙げて立ち向かうべき悪夢だ。ひとつの城塞都市程度では成す術などない。
文字通りの百鬼夜行、いやいまは昼なので百鬼昼行だ。最悪なのはその百鬼が人を好んで喰らう鬼であることか。
だがなにもせずに喰われるわけにもいかない。なので少女は城壁の上で兵士たちの陣頭指揮を行っていた。
「落ち着いてください。慌てたところでなにも変わりませんよ、姉さま」
領主の少女の側ではもうひとりの少女が舞いを踊っていた。
舞っている少女はゴシックロリータ風のドレスを着ていて、少し浮世離れした姿である。
領主とドレスの少女は姉妹であり、顔のパーツ自体は似ていた。だが姉は豊かな身体つきで髪を腰まで伸ばしているのに対して、妹は平たく細身でサイドテールにくくっているが。
「アリアナちゃん、なんでそこまで落ち着いてられるの!? グレートオーガは城壁なんぞ体当たりで粉砕のよ!? もう終わりよ! 今年は飢饉! 北には大盗賊団出没! そして南には人食い鬼の群れってなによ!?」
領主の少女は震えながら頭を抱えた後に、なにかに目覚めたように椅子から立ち上がった。
「覚悟を決めたわ! こうなったらとっておきのワインを飲み干して、お腹いっぱい食べて……! 食われる前に食いつくしてやるわ!」
「お姉さま、そこは死ぬ覚悟じゃなくて戦う覚悟でお願いします。それにあのお方が来てくださればグレートオーガなど物の数ではありません」
「だって来ないじゃないの!? あれから一か月以上よ!?」
領主の少女が悲鳴をあげるが、ゴスロリの少女は返事をせずに舞いを続ける。まるでなにかを召喚する儀式のように。
すると鎧を着た兵士が慌てて少女たちに近づいてきた。
「大変です! グレートオーガが城門に近づいてます!」
「あああああああ!?」
姫騎士は慌てて城壁の下を覗き込むと、グレートオーガたちの群れは真っすぐに城門に向かってきていた。兵士たちが弓矢の雨や炎の魔法を放つが、グレートオーガの鋼のような肉体にすべて弾かれてしまう。
さらに城壁の上から大岩が鬼に向けて落とされる。だが当たった岩の方が粉砕してしまい、グレートオーガたちは無傷だ。
グレートオーガは人間の天敵だった。
「ば、化け物……! なんとしても城門を死守しなさい! グレートオーガを都市に入れたら終わっ……!」
領主がそう言い終える時間すら与えられない。
グレートオーガの一体が、体当たりで巨大な城門を一撃で粉砕したのだ。本来なら破城槌が必要な頑丈な城門も、人の倍ほどの大きさのグレートオーガならばたやすく破れる。
そしてグレートオーガたちは下卑た笑みで、ゆっくりと城門をくぐろうと歩き始める。大量の獲物の匂いによだれを垂らしながら。
領主はガクリと床に両手をついた。
「終わりよ、もう終わりよ! 私たちは美味しく頂かれてしまうの……そっちの肉の方が美味しそうだな、トレードしましょうってノリで!」
「そうですね、終わりですね。では食事の用意をしましょうか」
淡々と無表情で告げるドレスの少女に対して、領主は流石に怒りをあらわにした。
「なんでグレートオーガの晩餐を整えるのよ!?」
「いえ、そうではなくて」
少女は上空を指さした。すると急に周囲が真っ暗になる。
「な、なんだっ!? 急に暗くなったぞ!? もう夜か!?」
「いや違う! あれは……っ!」
城壁の上の兵士たちが叫ぶ。先ほどまでの悲鳴ではなくて希望に満ち溢れた声を。
山よりも巨大なナニカが突如として現れて、城塞都市そのものを影で隠してしまっている。
あまりにも大きなモノが突如現れたことで、グレートオーガも目を見開いてソレを眺めている。
その大きなモノは人間だった。彼のスネの高さよりも城壁の方が低く、領主たちにいたっては少し大きなアリ程度の大きさだ。
そんな巨人は城壁の上に立っている少女に視線を向けると。
「この小さな鬼? は潰したほうがいいよな?」
と小さく呟いた。ドレスの少女は無表情のままに頷く。
「はい。よろしくお願いしますね」
「了解」
すると巨人は背負っていたリュックから何かを取り出した。
それは巨大な巨大な……五百円の週間アウトドア雑誌だった。
「あまり虫を潰すのは好きじゃないんだけどな」
巨人は雑誌を丸める。そしてグレートオーガの群れを丸めた雑誌で叩きだした。
グレートオーガはこの世界の人間より倍ほど大きく、その力は怪物級だ。騎士団の精鋭で軍を率いても、負ける可能性もあるほどの脅威である。
だが巨人からすれば小さなバッタ程度の虫であった。なんなら飛んで跳ねない分だけバッタよりも楽勝だ。
アウトドア用品のカタログ雑誌ソードが地面に叩きつけられて、グレートオーガが次々と潰されて退治していく。
「いや参ったな。まさか少し地球に戻っている間にこんな状況になっているとは。とりあえず全部潰しておくか」
先ほどまでの怪物は完全に立場が逆転して、哀れな虫のように逃げまとう。だが一匹残らず虫のように潰されるのだった。
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首筋は弱点ではありません。
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