第6話 ウーちゃん
「ちょっと待ってね。絵に描くから」
俺の頼みを聞いてくれるというウーちゃんは何処からかスケッチブックと鉛筆を取り出した。今のは何処から出したのか本当に分からなかった。
それにアレは地球で売っているような商品にそっくりだ。細部は見たことの無い
ウーちゃんは5本くらい鉛筆を使って30分ぐらい描き続けていたが、俺はそのままこの子を見ていた。
触腕がチマチマと動く様は何だか可愛らしく、一生懸命に描いているようで途中で止めるのも
「これね、途中で見たの。この近くで見たのよ。だからね、みんな拾ったりしたの」
ウーちゃんがスケッチブックに描いてくれた絵を見て、俺はその
そこに描かれていたのは自然豊かな村の全景と、250人の村人とおぼしき人物のそれぞれの全身画だった。驚いたことに牛や鶏のような家畜まで数えきれないくらいに描かれていた。
各村人の絵は特徴がハッキリ
「ありがとうウーちゃん。絵が本当に上手いんだね。こんなに上手に早く描けるのは見たことがないよ。ここに描いてある村はどっちにあるのかな?」
ここに描かれた村を目指せば何とかなるかもしれない。
「うーんとね、川があるでしょ。あれのもっと向こうの方よ」
俺はその時、自分が食べられたと思った場所にそのまま寝かされていたのだ。
ウーちゃんが触手を使って指したのは川の下流方向だった。
4つの耳が勢いよく振られているのがこの子のやる気を表しているようで嬉しかった。本当に一生懸命に伝えようとしてくれているのだろう。
「分かったよウーちゃん、ありがとう。ところで、恥ずかしいんだけど今は裸でね。何か着るものを持っていたら貸してもらえないかな」
本当はメリカリで購入しても良いのだが、ウーちゃんの先程の能力を見る限り、頼めば何か出してくれそうな気がしたのだ。
「はい、これ……ちょっとシワシワなのよ」
こうも都合よく行くとは思わなかったが、ウーちゃんは見覚えがあるような服を出してきてくれた。
元はオリーブ色であっただろうそのブルゾンとカーゴパンツは何故かひどく乾燥した状態で赤茶色だった。
「すっかりお世話になっちゃってごめんよ。これ何だか俺が前に着てたみたいな服だな。ベルトに付いてるのは剣鉈のホルダーじゃないか……」
3度見てみて確信したのだが、それは俺が大きな何かに襲われて、スキルを使用する前に着ていた服のようだった。
「そうだ、ハニューダの着てた物にこれが入っていたのよ」
そう言ってウーちゃんは俺に変色した3つ折りの紙を渡してくれた。これも茶色くなっていてカサカサに乾燥していた。
ところで今ウーちゃんは「俺が着ていた服」と言っていなかっただろうか。
まあ気にしても仕方がない。拾った物をこの子が乾かしてくれた可能性もある。
とりあえずは渡された紙を読んでみることにした。赤茶色になっていたがかろうじて読めた。
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ハニューダ・タケシ殿
詳細を説明する前に目的地へ移動されるとのことで、この手紙を
今回の対象の個体名は『ウースギリーデ・クエルニカ・ドクダター』という。
あなたのそちらでの仕事はスキルを使ってソレに食われることにより、ソレが周辺を捕食する衝動を抑え込み、世界の生態系が崩壊することを遅延させることになる。
あなたは捕食され消化されても、即座に身体が再構成されるために、いくら食べられても死ぬことはないため安心してほしい。
また、ウースギリーデはあなたを貴重な食料と認識することで、あなたに対して従順になるだろう。
あなたが稼ぐ時間を利用して、私の上司達が今後の対応を協議しているところだ。
あなたの自己犠牲の精神に頼るのは本意ではないのだが、出来るだけ急いで対象と接触し捕食されるようお願いしたい。
あなたの
転生転移窓口担当者 マンマデヒク
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こちらに来た当初は余裕が無かったし、話が決まった後は興奮でそれどころではなかった。だから詳細は聞かずに来てしまったし、手紙の存在にも気がつかなかった。
全部を読んだ俺はゆっくりとウーちゃんの居る方向に振り返った。
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食べられるスキルでオレが放浪用携帯メシ 強いモンスターを従えて楽に戦おうとしたらそいつの食事がオレだった お前の水夫 @omaenosuihu
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