第7話
~3階への階段を上り中~
僕は2階層でお願いした通り、ナーシンにお姫様抱っこをされていた。最初こそドキドキしたり、匂いを堪能したり、うわーナーシンの体って大きくて凛々しくてたくましい…(キュン)とときめいていたが、数十分抱かれてわかったことがある。鎧が意外に痛い。ゴムの魔法をかけてもらっている鎧とはいえやはり強度はあるようで硬くて背中と膝の裏が痛いのだ。これは大発見だ。論文でも書けそうだな。
あともうひとつ思っていることがあった。それはこんな500歳越えのいい大人がこんな10代の赤子同然の子供に抱えてもらっていいのだろうか?という罪悪感だった。
これってもしかしてなんか幼児(?)虐待的な感じになってないか?大丈夫か?
僕が悩んでいるとナーシンが口を開く。
「イミリア、先程はありがとう」
「え?」
えーと、僕なんかしたっけ?あ、さっき弱点を示唆したことかな?
「別に大したことないよ。あ、別に最初から知ってた訳じゃないからね!えっと、僕くらいになるとパッと見て弱点とか分かるというかなんというか……」
「そうなのか、すごいな。しかも弱点に向かってピンポイントで攻撃できるだなんて」
「えっ!?」
みみみみ見られてた!?あの攻撃を戦いの最中見ていたのか!?あんな0.01秒ぐらいの一瞬の出来事を!?まずい……僕はただの踊り子(設定)なのにどう説明すれば……!
「ええええっと……あれはだね……」
「もしかして貴方は」
やばい、これは「気砲を扱う仙人→強い→もしかして本当はここの刺客?→すごく強そうだし美しいしオーラを放っている!→ここのラスボス!?」という連想ゲーム方式にバレてしまうかもしれない!どうしよう!
「もしかして貴方は旅をしている最中、自力でも戦えるように訓練された踊り子なのか?」
「……はい?」
「旅はとても危険だ。深い森などに入ってしまえば盗賊やモンスターにいつ襲われるか分からない。だから努力して技を身につけたのかと……」
そんなハイスペックな踊り子どう考えてもいるわけないだろ!それならもう踊らずとも用心棒とかで稼げるレベルだろ!でも話に乗っておいた方が楽ではあるな。
「ま、まあね!色々身につけておくのはいいことだからね!でもナーシンも歳の割には結構強いじゃないかい!?」
すかさず話を変えてみる。
「強い……か。確かに18歳でここまで鍛錬されたものは初めてだと騎士団長に褒められはしたが……だが実際騎士になって国を守ることになればどうなるか分からない……。そう思い実力を試すためにもこの塔に来たんだ」
へー、めちゃくちゃ真面目くんじゃん。大抵この塔に来る輩は称号を得てみんなからチヤホヤされたい!もてはやされたい!とか不純な動機な奴らばっかりなのに。
「それにここまで強く育ててくれた父への恩義もあるからな」
「お父さんが?お母さんじゃないのかい?」
「母は早くして無くなったんだ。流行病でな」
おっと、これは聞くことを間違えてしまった。僕は昔の人間だから子を育てる=女の役割だと思っていたから咄嗟に聞き返してしまった。
「な、なるほど。それはお父さんは大変だったろうに」
僕は慌てて話題を変える。
「ああ、大変なんてもんじゃなかったと思うな。朝から晩まで騎士として働き、家に帰れば俺の稽古と面倒を見なければならなかった。その間に家事は年の離れた姉がやってくれたが父も率先して料理や家事をやっていた。だが、その疲労が祟ったんだろうな……」
「まさか……」
この展開は亡くなって……
「腰を痛めて療養中だ」
「そっか!?それは何よりだ!!」
「あまりにも酷い腰痛らしく今は仕事に行くのもままならない。だから俺は早く正式に騎士だと認められて生活を支えてやりたいんだ」
「ナーシン……」
なんっっっていい子なんだ!家族のためにこんないつ命を落としてもおかしくない試練の塔に1人乗り込んでくるだなんて!そしてこんないい子に許可は得ているとはいえお姫様抱っこを強要するだなんて僕はなんて情けない大人なんだ!恥を知れ恥を!
「ナーシン……僕もう1人で歩こうと思う……うん」
「そうか?もうすぐ3階層なんだが……もしかして俺の抱き方が悪かったのか?」
「いやいや!全っっっ然そんなことはなくて!ほら!僕って歩くの好きだから!あと歩くってめちゃくちゃ健康にいいし!脂肪が減少することにより肥満も解消されてダイエット効果があることは勿論、代謝がよくなることで血中脂質や血糖値、血圧の状態の改善にも有効d」
「よく分からないがまあ、いいだろう」
自分の行いに恥じらいを感じていると言いたくない僕はベラベラとウォーキングのありがたみを語り、何とかナーシンの腕の中から降りることにする。
「本当にいいのか?」
「いいんだって!ほら!もうすぐ3階層へ着きそうだよ!」
本当はナーシンの腕の中から離れるのは名残惜しいけど仕方なし。それに僕を抱き抱えたことにより疲労が蓄積して次の階層でおっ死ぬだなんてことはして欲しくは無いので僕は滅多に動かすことのなかった脚を元気に進める。
後ろでそんな僕の姿を見てなにか思うことがあったのか「ふっ」と軽く笑う声がした。
「何かおかしいかい?」
「いや、そんな元気ハツラツに歩くのを見せられて本当に歩くのが好きなんだなと、それなら良かったと思っただけだ。さあ、先に進もう」
ちょっとわざとらしすぎたか?と思い、少しだけまた恥ずかしくなるがとりあえず足を進めることにする。
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