第6話
あれから1時間くらい経過しただろうか?ナーシンは未だにスケルトンを攻め続け、いや責め続けていた。
ザクッとまた骨を切る音が聞こえたと共にスケルトンが喋る。
『もう、もうおやめになって……』
「なんだ、もう音を上げるのか?根性も微塵もないなんて雑魚同然だな。本当にここのボスなのか?」
「はぅぅぅ!申し訳ございません!///」
「そんなすぐに謝罪するなどみっともないボスだ」
『ああ……!///』
「このクズが」
『はうん……!///』
「激弱薄汚れ雑魚骨野郎」
『あはん……!///』
…………なんだこれ。一体何を見せられているんだ僕は……。というかコイツ……なんか目覚めてないか……?
最初こそナーシンに罵倒されながらも刻まれ、それでも抵抗の意志を見せていたスケルトンだったが、段々とその声はなんだか吐息を含んだ艶めかしい感じになってきていた。出口の場所を吐かせる拷問官とそれを頑なに言わない囚人のような関係からいつしか特殊なプレイになり、それを見せつけられて僕は3歩、いや、10歩くらい下がっていた。むしろ10歩下がっただけでこの羞恥プレイを1時間眺めている僕を誰か褒めて欲しい。
もしかしてナーシンって騎士見習いっていうのは嘘で実は本職はこっちなんじゃ……。はわわ……。
未来の恋人との夜の営みを想像して青ざめている僕とは反対に興奮しっぱなしのスケルトンはまた再生した腕で胴体を隠す仕草をする。しかし、先程とは打って変わってその姿は晒されるのを待っているかのようである。
『はあはあ……///あ、あんなに今まで必死に隠してきたのに、ぽっと出のイケメンに無理やり晒されて罵倒されて辱められて恥ずかしいはずなのに……こんな気持ち初めて……///』
うーわー、完全に目覚めてますわこれ。行ける所まで行っちゃってますわこれ。つーか意外にイケメン好きな訳ね。その美的センスを持ってることだけ褒めたたえてやるわ。でもお前にはナーシンはやらないけどね。
「そろそろ次の階層への階段を教える気になったか?それとも死ぬ気になったか?薄汚い臓器欠損骨野郎」
『あああ!///お、教えられませぬ!教えられませぬうぅぅ!///』
スケルトンは体をよじりながら答える。僕は教えてあげた方がいいかと思い、ナーシンに話しかける。
「ナーシン……僕の推測からするにもはや君の言葉は多分そいつにとってご褒美になっているのではないかい……?」
「ご褒美……とは?」
「ご褒美って言うのはつまり……「イイこと」って意味だよ。そいつにとって」
伝わってくれー!じゃないとこの特殊プレイは終わらないし、それにこの小説は一応全年齢対象なんだからあまり深いこと言いたくないんだよ!
「「良いこと」……おいお前、そうなのか?お前は今『良いこと』をされて喜んでいるのか?」
『え、ええと、その……』
「答えろ」
ナーシンは冷たく睨みつけ、剣を向ける。
『はいいい!ご主人様の仰せのままに……///俺は今すごく、大変楽しんでいる状態にございますうぅぅ!』
「なんと」
『だからこの状態が一生続けばいいと思い、次への階段をお教えしたくないのでございます!俺めは一生ご主人様に蔑まれながら生きていきたい!』
また身をよじり、息を荒くするスケルトン。
いや自分の癖に正直すぎんだろ、なんなんコイツ。もうめんどくさいし次の階段なんて探さずにナーシンを気絶させてこのまま浮遊術で次の階層へ……。
「わかったお前の望み、叶えてやる」
『え!?』
え!?
「お前を蔑み、罵り続けてやろうと言っているんだ」
『ご、ご主人様!!』
「共にいい関係であろうじゃないか」
『一生ついて行きます!!』
「ちょちょちょ!ナーシン何言ってるんだい!こんな変態と一生一緒に居るのはごめんだよ!」
「ああ、貴方もいたんだったな。忘れていた」
忘れてたって、そんなああああああ!まさかこんな形で失恋!?僕がスケルトンごときに負けるなんてえええええ!
僕はガックリと膝を着いてしまった。僕としたことが情けない姿だと思うがそうせざるを得ない。
うぅぅ、500年以上生きてきて失恋なんて初めてだあああ……!僕の美貌を持ってしてもこんな薄汚れ変態骨野郎に負けるなんてええええ……!
項垂れているとナーシンは「閃いた」という仕草をする。
「そうだ、この方を退場させれば更に2人だけの深い空間になるのではないか?」
『なるほど!ご主人様頭いいですね!』
「だがをここの出口がわからない。困ったな」
『それなら俺がよく知ってます!この部屋の端から3番目のブロックを破壊すれば出てきます!』
「そうなのか、では早速この方をつまみ出してこよう」
『え!行ってしまわれるのですかご主人様!?』
スケルトンは縋るようにナーシンに引っ付いてきた。その大きなスケルトンの手をナーシンは強く握る。
「安心してくれ、またすぐに戻ってくる。そしたらまた「楽しい」事をしよう。俺を信じろ」
一体僕は何を見せられているんだああああああ!(本日2回目)
『ご、ご主人様♡はい!俺めは大人しくここで待っております!絶対に帰ってきてくださいね♡』
「ああ、必ず戻ってこよう。そこのお前、立つんだ。俺に着いてこい」
遂に「お前」呼ばわりになってしまった事に余計にショックを感じながら僕は渋々立ち上がり、ナーシンと共に壁の端に向かう。
壁は早急に取り壊された。そこには薄暗がりではあるが階段を発見する。
ナーシンともこれでお別れか……最後に何か言うべきか……。
「ナーシン……短い間だったけど世話になったね……僕は君のこと忘れないし多分忘れられないと思うけど、どうか元気で……」
途端に僕は階段へと手を引っ張られる。そしてナーシンの大急ぎで登っていくのに続く。
「な、ナーシン!どこへ……!?」
僕には別れの言葉を言う資格すら無いと言うのか!?
なんだか冷たい態度のナーシンに泣き出しそうになっていた。もう僕の思っていたナーシンはどこにもいないのかもしれない。
急ぎ足で階段を登っていたナーシンだったが突如として足を止める。
急に止まったのを不思議に思っているとナーシンはくるりと僕の方を向く。
瞬く間に僕はナーシンに不意に抱きしめられていた。
「!!!!?」
どういう状況!!?
僕が混乱しているとナーシンは切なそうに話す。
「イミリアすまない。あんな横暴な態度をとったことを許して欲しい。俺はあのスケルトンに勝つ算段が見つからなかったんだ。切っても切っても倒せぬ敵がいるだなんて……俺はなんて無知で弱いんだろうか……そう痛感させられた。だからアイツの話に乗ったフリをして出口を吐かせることしか出来なかった……すまない」
抱きしめられた衝撃とあれは演技だったのかという安堵感と「うわ、ナーシン近くだとめちゃくちゃいい匂いする」という変態的冷静な思考により僕は頭がごちゃごちゃになっていた。
「い、いや僕は、僕は最初から君を信じていたからねっ!そんな変な思想のスケルトンに人生捧げるような馬鹿には思っていないし!うんうん!」
思考が迷走しても本当のことを言ってはいけないと察し早口で嘘を並べる。
「本当か?俺は貴方に失望されてしまっても仕方の無いことをしたのにそんな俺を信じてくれていたなんて。貴方は優しい方だ」
本当は君のことめちゃくちゃ失望しかけていたよごめん。
「『お前』なんて無礼な呼び方を言ってしまったし、お詫びに次の階層までなんでも言うことを聞こう」
ななななんでも!?マジでか!?やっぱ中身もイケメンはやる事も太っ腹だな!秒で惚れ直したわ!
「そうだねぇ……じゃあ……」
僕はより一層ナーシンにくっつき、ちょっと恥ずかしそうに言う。
「次の階層までお姫様抱っこして欲しいな……」
少し甘えるように意識して言ってみたつもりだ。どうだろうか?
顔を上げ、ナーシンの顔を見てみると少し驚いた表情の後にすぐにまたあのさり気ない笑みを浮かべてくれた。
「ああ、勿論だ。そんなことで良ければぜひそうさせてもらおう」
ヤッター!!これで合法的にナーシンにベッタリできるぜグヘヘヘ!この件に関してはスケルトンのお陰でもあるから後で礼を言っておかねばな!
僕は下心を隠し、ナーシンの首に腕を回し抱きつくといとも容易くナーシンは僕を抱き上げる。
「さあ、次の階へ進もう」
「了解した!」
いつもより深呼吸多めで過ごすことになりそうだ。
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