第5話
何度かスケルトンの襲撃を受けた僕らであったがナーシンがあんまりにも強いもので即第2の試練のある大広間前の扉まで着いていた。もうほんっっっとうに秒で来てしまって驚いている。
うわぁ、ナーシン強すぎて流石の僕でも引くわ。本当に人間なのかなコイツ……。僕の好きな人が変なモンスターだったらどうしよう。それでも受け入れてあげるのが愛ってやつなのかな……。
半ば白い目でみているとナーシンは少し扉を開ける。
「中は薄暗くてよく見えないな……入ってみよう」
中が暗かったら慎重になって入らないと思うがそれぐらいはナーシンの普通なのかもしれない。うんうん、なんだか受け入れられるようになってきたぞ、流石は僕だ。
自分の順応の速さに誇らしさを感じているとナーシンはさっさと中に入ってしまった。
「中は何も無いようだ。次の階へ進んでも良いという事だろうか?」
そんなことあるわけなかろう……と、僕が思った時、奥の暗がりから何かが動くのが見えた。
それはゆっくりと体を起こしたかと思えばいきなりナーシンに剣を振りかぶってきた。
「!!」
ナーシンはすぐさまその剣を避ける。後ろを向いていたのに素早い動きでの対応に感心してしまう。
「なんだ!?」
ナーシンもすぐさま剣を構える。するとそこに居たのはまたもやスケルトンだ。いや、スケルトンにしてはデカイ。デカすぎる。4mはゆうに超えるスケルトンがそこにはいた。今までのスケルトンとは違い、しっかりと甲冑を着込んでいる。
「ナーシン大丈夫かい?」
「大丈夫だ。あの動きの遅さならば大きさと甲冑があったとてなんとでもなる。イミリアは扉の前に居てくれ」
あの一撃で対策できる手段を考えるなんて冷静かつ頭の回転が早いな。強くて頭脳明晰で顔もいいなんて神は一体コイツに何物与えたんだ?だがナーシンよ、ここは今までのように切り刻むだけの斬撃では上手くいかぬぞ!
ナーシンを応援したいような、自分の考えた試練を発表したいような複雑な気持ちになっている最中、ナーシンは巨大スケルトンに怯むことなく突進していく。
『うおおおおお!』
スケルトンは雄叫びを上げながらまたもやナーシン目掛けて件を振るう。しかし、またもやするりとかわされてしまう。
「はっ!」
ナーシンは振り下ろされた腕に刃を入れる。スパッといい音を立ててスケルトンの腕は切断される。ゴトンっと剣を握っていた腕が床に転がる。
『ぐおおおおお!』
スケルトンは悲鳴のように雄叫びをあげる。その間にナーシンはスケルトンの後ろに回り、今度は反対の腕を切り落とす。更には右脚、左脚と次々に切り落とす。
支えを失ったスケルトンは達磨状態で床に転がる。
「これで終いだ!」
ナーシンはスケルトンの胴体に剣を突き立てる。
が、剣は結果として突き立てることが出来なかった。スケルトンの身につけている頑丈な胴鎧がそれを拒んだのだ。
「なにっ!?」
意外だったのか動揺を隠せないナーシン。しかし、ナーシンにとって更に驚くべきことが起きる。なんと切断した四肢が胴体に集まり、元の位置にくっついたのだ。そしてナーシンが居る胴体に拳を振り下ろす。ドゴンっという大きな音を立てるが、やはり胴鎧はビクともしない。ナーシンは間一髪で避けることが出来た。が、ここから先どうするか考えあぐねいている様子だ。だがそんなナーシンを待ってくれるほど敵も馬鹿じゃない。また剣を振り下ろしてくる。ナーシンはまた腕、脚と切り刻んでいくが何度切り落とそうと、切り刻もうと、粉微塵にしようと元に戻ってしまう。これには流石の剣豪ナーシンも困惑している様子だ。
おー、また素早く切り刻んでるー。速さは十分なんだけどなー、やっぱ流石にキツイよなー。仕方ない、ここはいっちょ手を貸してやるとしますか。
僕は手を銃の形にする。
この巨大スケルトンの弱点は分かっている。あの固く胴鎧に包まれた胴体だ。それならば……。
僕はスケルトンの胴鎧の継ぎ目を目掛けて気砲を放つ。その気砲は寸分の狂いもなくスケルトンの右脇腹の継ぎ目に当たる。
ニート歴長いにしては流石の腕前だな、僕。まあ、気砲の軌道なんて自在に変えられるから別に狙って打たなくてもいいんだけど。
威力のあるそれは的確に胴鎧の継ぎ目に当たったことにより胴鎧に綻びが生じた。更にスケルトンが動き回るおかげでだんだん胴鎧の継ぎ目がちぎれていく。
「ナーシン今だ!鎧だ!鎧の継ぎ目を狙うんだ!」
『!?』
僕の言葉にスケルトンはすぐさま継ぎ目を確認し、抑える。これで弱点がわかったのか「了解した」とだけ答え、ナーシンは左脇腹の継ぎ目を狙う。スケルトンは脇腹を押さえ、ガードするもナーシンの剣さばきによりすぐさま腕を切り落とされてしまう。
『やめろぉぉぉぉ!』
スケルトンは剣を投げ出し残りの右手で綻んだ継ぎ目を押さえながら逃げ回りだした。だが防戦一方となってしまってはもう後の祭り。ナーシンの瞬足によっていとも容易く追いつかれ、右腕もサクッと切り落とされてしまう。大広間の奥壁に追いやられたスケルトンはもう後がないようで『やめて…やめて…』と泣きそうな声を上げている。しかし容赦がないナーシンは胴鎧の継ぎ目に剣を差し込む。そしてなんと4mもあるスケルトンを持ち上げてしまったのだ。
うわー、なんつー怪力……!体に強化魔法でもかけてるのか……!?
僕がナーシンの馬鹿力に驚いていると「ふんっ!」という声とともにナーシンはスケルトンを放り投げる。その投げ出される時の力で継ぎ目は完全に引きちぎれたようだった。投げ出されたスケルトンはそのまま反対の僕のいる扉の方の壁に激突し、砂埃舞う中で動かなかった。
僕は急いで覗いていた扉から中に入り、スケルトンを確認する。
実は弱点は知れど僕も身も無い骨だけのスケルトンの胴体に何があるのか知らない。なので何があるのかとても興味がある。
一体何があるんだ?なにかコア的な物が隠されているのか?切られても物体が再生する秘密が隠されているかもしれないと思うとワクワクする!
そんなワクワク感満載の僕とは裏腹に心配そうにナーシンが駆け寄ってくる。
「イミリア、危ないから離れるんだ」
そうだった、僕はただの踊り子なんだからあまり出しゃばってはいけないな。いかんいかん。
「すまない、ナーシンが心配で出てきてしまった」
「そうだったのか。だが心配には及ばない。すぐにコイツを片付けて……ん?」
砂埃が消えていく中、そこに居たのは丸く縮こまったスケルトンだった。しかも胴体は……。
「何も……ない……?」
スケルトンの胴体にはなにも無かった。ほんっっとうになんにも無いただの空洞だ。
どういうことだ?じゃあなんで胴体をあんなに必死で守って……。
『いやああああああああ!!見るなああああああああ!!』
突然スケルトンは大声で叫びを上げる。そしてまたもや飛んできた腕がくっつき、その腕で自分の体を抱き込む。
え……どゆこと……?なんかキモ……。
呆気にとられているとナーシンはスケルトンに剣を向け、問いただす。
「おい、お前何をしている。降伏するならさっさと次の階層の道を教え……」
『うるせええええ!今そんな状況じゃないでしょーがあああ!!』
「何だ急に……何故に何も無い胴体を隠しているんだ?」
『なにか隠してんじゃねえ!「何も無い」から隠してんだよおおお!うわああああん!』
「???」
???
僕たちふたりは揃って首を傾げる。
『なんだよその顔!どうせ「無いものを隠すとか頭沸いてんのか?」って思ってんだろ!こちとら脳みそもないけどな!全く!これだから五臓六腑揃ってるやつは当たり前に持ってるからってひけらかしやがって!』
スケルトンは文句を垂れ流しながら丸くなりながら背中を向ける。
「あのー、すまないが後ろを向くと肉が無いからより胴の中がみえるよ……?」
『だ・か・ら!見るなと言っているだろう!恥ずかしい!』
「恥ずかしい?」
『そうだよ!俺は何も中身のない身体を見られるのが恥ずかしいんだ!他の種族は大体みんな持ってんのに魔力によって最初から骨オンリーに生み出された俺には中身が無いという「イレギュラー」に耐えられないの!』
なんだか小学校で流行りのキャラクターの鉛筆とかみんな持ってるのに自分だけ持たせて貰えなくて百均の鉛筆で我慢してることを勝手に恥んでいる小学生みたいだな……。
「つまりお前は弱点でもなんでもないがみんなと違うからって隠していた胴体を晒されてただ恥ずかしくて俺と戦えないと言いたいのか?」
『そうだよ!なんか文句あるか!』
「大ありだな」
ナーシンは突如としてズバッとスケルトンの背中を切りつける。背骨が切れ、体が真っ二つになったその姿は肋骨の中までよく見える。
『ぎゃあああああ!何すんだこのクソ野郎!!』
「なんとでも言え。お前が出口を吐くまで辞めないからな。俺は早くこの方を塔の外に解放するという使命がある。お前のくだらない羞恥心に構っている暇は無い」
ナーシンっ!勘違いとはいえ「僕の為」に戦ってくれるだなんてっ!なんだか悪い気はしないな!
内心悪い気どころか舞い上がっている僕を他所にナーシンはスケルトンの胴体をバラバラにしていく。
『うわあああ!やーめーろー!見るなあああ!』
「ならば次の階層への出口を教えろ。」
『いいいいい嫌だあああ!仮にも俺はこの階のボスだ!倒された訳でもないのに吐く訳にはいくかあああ!』
「ふん、ならばお前を辱め続けて自ら死にたくなるように仕向けてやろう」
『なにっ!?そ、そんな……!』
「さあ、吐け。でなければ死ぬがいい」
そう言うとくっついた骨をまたまたバラバラに切り刻むナーシン。
『うわああああああ!!』
ナーシンが骨を切り、スケルトンが悲鳴を上げ、そして骨はくっつきまた切りを繰り返す。どうやら変な永久機関が完成してしまったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます