第51話
ハッチが開け放たれ、鋭い光が差し込んできた。艇内灯など比べ物にならない程の強烈な輝きが、頭上から降り注いでくる。
戦士は、ゆっくりと地上に降り立った。
他の惑星で何度か経験した感触が、脚部を通して伝わってくる。
後方を振り返り、改めて自身が搭乗してきた強行突入式揚陸艇を見上げた。大気圏突入の際、地上から見ればこの揚陸艇は隕石に似た光を発しているらしい。
その為か、この惑星の知的生命体は自分達をメテオライダーと呼んだ。
創造主もこの呼称が気に入った様だ。それ以降、自分達の正式名称をメテオライダーに設定した。
今回、自分達三体のメテオライダーがこの惑星に投入されたのは、特異星殿を攻撃し、殺害する為だ。その死亡時に拡散される霊素波動に自分達の伝播補助連波を被せることで、地表全体に特異星殿の霊素波動を確実に放散させることが出来る。
問題はどうやって、特異星殿の位置を掴み、気付かれること無く接近するかだ。
その為には、この惑星の知的生命体から必要な数のサンプルを採取し、その肉体構造を徹底して研究して、学習する必要がある。奴らはどの様に外敵の存在に気付き、どの様に対抗するのか。それらを徹底的に分析せねばならない。
メテオライダーは、己の体躯に視線を落とした。
創造主はこの惑星に棲息する大多数の動物体の躯体構造を分析し、メテオライダーに人間型の戦闘躯体を用意した。
この星に於いては、食物連鎖の頂点付近には胴部、頭部、複数の肢部から構成される動物体が支配的に多い。それがこの星での最善にして最適な躯体構成なのだろう。
その為、創造主は最も知能レベルの高い地上動物体と同じ躯体構成をメテオライダーの為に用意した。
現在、メテオライダーの躯体は硬質細胞を主とする金属生体で形作られている。
この星の知的生命体――その多くは純正人種だが、遠目に見た限りでは彼らとほぼ同形態と見て良い。但し、その外観は大いに異なる。
金属の骨格、金属の皮膚、金属の筋肉、それらは全て純正人種とはかけ離れた構造と外見を持っている為、接近すればひと目で外星体であることが見破られてしまうだろう。
だからこそ、サンプルを集めて彼らの肉体を研究する。
幸い、この硬質細胞は異質化が可能だ。純正人種から得た情報で、或る程度は全体の外観を変えることが出来る。
少しずつ、土着の知的生命体に姿形を寄せつつ、標的の位置を探るのが最善であろう。
メテオライダーは、切り立った崖の上へとひと息に跳んだ。
微弱ながら、特異星殿の脳波が遥か遠方から伝わってくる。生きている時点で、既に大気中に伝播してきているのだ。殺害すれば、その波動レベルは一気に跳ね上がるだろう。
メテオライダーは標的が居るであろう方角に視線を向けた。
この惑星では、この方角を北東と呼んでいることを思い出した。
◆ ◇ ◆
カレアナ聖導会シンフェニアポリス本部の大聖堂内。
ソフィアンナはもう何度目かになる溜息を漏らしながら、飾り用の花束の手入れを漫然と続けていた。
「おや、どうなさいましたか?」
いつの間にか、傍らに筆頭聖導師ブラントが穏やかな笑みを浮かべて佇んでいた。
ソフィアンナは幾分くたびれた様子で、どうもこうも無いですよ、などと力無く応じた。
「リテリアが、また旅に出ると伺ったのですが、本当ですか?」
「ええ、その様に聞いていますが」
さも当たり前の様に応じるブラントに、ソフィアンナはがっくりと項垂れた。
「また当分、リテリアと会えなくなっちゃうんですね」
「流石は特級聖癒士、同僚からの人気も大したものです」
感心した様子で何度も頷くブラントだったが、ソフィアンナにしてみれば全く冗談事ではなかった。
折角シェルバー大魔宮から帰ってきたというのに、今度は奴隷収集隊などという物騒な連中を追いかけて、王国領内のあちこちに飛び回るという話だ。
幾ら王家への協力の為だとはいえ、余りに危険過ぎやしないか。
「それなら大丈夫でしょう。彼女には光金級の万職殿がご一緒なさいますから」
「その光金級殿は大丈夫なのでしょうか? あれだけの美丈夫で、女性にも人気だとか……」
ソフィアンナが心配しているのはリテリアが戦いや病気で傷つくことではなく、異性とのやり取りで精神的に参ってしまうことはないのか、という点であった。
ところがソフィアンナのこの疑念に対しても、ブラントは大丈夫ですよと何故かにこにこ笑うばかり。
本当に真面目にひとの話を聞いているのかと、ソフィアンナは内心で少しむっとした。そんな彼女の不機嫌を察知したのか、ブラントはまぁ聞きなさいと言葉穏やかに宥める様な笑みを浮かべた。
「光金級殿には私も何度かお目通りさせて頂きましたが、カレアナ聖教国の高位導師も顔負けの禁欲さでした。万職で、あそこまで清廉潔癖な人物は見たことありません」
「それって、逆に怖くないですか?」
ソフィアンナは未だに信じられず、疑惑の眼差しをブラントに叩きつけた。ソフィアンナもソウルケイジとは何度も面識がある。実際彼女は王都の万職相互組合や王宮執務棟の会議で、ソウルケイジと直接言葉を交わしていた。
だがどうにも、あの黒衣の巨漢は得たいが知れない。不愛想で鉄仮面でぶっきらぼうで、何かにつけて態度が大きい。勿論、一国の総兵力に匹敵する戦闘力の持ち主だからといわれれば、それはそうなのであろうが、それでも王家に対してあのぞんざいな態度は如何なものであろう。
だがそれ以上にソフィアンナが心配しているのは、リテリアのソウルケイジに対する感情であった。
ソフィアンから見れば、リテリアはソウルケイジに魅かれている様に見える。ところがソウルケイジの方はリテリアをその様な目で見ている風には感じられない。
更にいえば、ソウルケイジは他の女性からも想いを寄せられている節があるらしい。
こうなってくると、色恋沙汰でリテリアが傷つくのではないかという心配がどうしても拭えなくなってくる。本人達の意思云々以前の問題として。
そんなことでリテリアが傷心の憂き目に遭っては大変だと、内心でやきもきしていた。
「本当に、何も無ければ良いんですけど……」
「そんなに心配なら、一緒に行ってみては如何ですか?」
その思わぬひと言に、ソフィアンナの方が驚いた。が、ブラントは相変わらずの穏やかな笑顔。
「他の上級聖癒士達も順調に育ってくれています。今なら貴女とリテリアが抜けても、そう大事にはならないでしょう」
そのひと言で、ソフィアンナも決心がついた。
今回は自分も同行しよう――思い立ったが吉日とばかりに、ソフィアンナは大聖堂を飛び出した。
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偽りのゴーレム ~剣と魔法の世界で場違い無双の戦闘アンドロイドがロングバレルマグナムとレーザーガトリングでナメた奴らを全員ブチのめす~ 革酎 @Kawa_chu
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