第3話 10年の月日

 物語は始まらなかった。


「……暇ですね」


 はい、みなさんこんにちはルーナです。

 私が産まれてから10年の月日が過ぎました。

 転生したのですから刺激的な何かがあるのだと期待してたのですが、見事に何もない日常を過ごしています。

 いえ、私も転生した当初は初めて見るものばかりで大分テンションが上がっていたのですが、10年も経つとそれも見飽きてくるというもの。


 あー、そうですね。

 軽くですが身の回りについて話しましょうか。



 まず、私が産まれ落ちた場所から行きましょう。

 3つある内の1つ、人間種が暮らす大陸、ビスガルド大陸。

 そしてここの国の名前はガルド王国。

 そう、ここはビスガルド大陸の中心となる国に私は産まれたのです。


 次にあの親バカ、いえ、とても優しい両親について教えましょう。

 まずは父上、名前はレオンハルト・マードゥ・ガルド。いつも私のことを大事に思い、仕事をほっぽり出してしまう人。

 そして母上は、マリア・マードゥ・ガルド。いつもニコニコして、私や父上を

 からかってくる人。


 まぁ、何となくわかるでしょう。

 私の両親はここガルド王国の王様、女王様でした。

 いやー、驚きましたね。

 最初見た時は、どこかの貴族かなとか思ってたのに、まさかの王族。

 さらに、人間種の頂点の人だったのです。

 その人達の子供が私、ルーナ・マードゥ・ガルドです。


 ……うん、不安でしかない!

 だってこちとらそこら辺にいる一般人だよ!

 いきなり王族とか言われても不安しかないよ。

 さらに私、無性だよ?

 この世界、無性も普通なのかなと思ってたら全然違ったよ。無性の人間なんて歴史上現れたことなかったよ。

 ……一応、父上が色々やってくれたおかげで私が無性だと知ってるのは極小数となっている。

 それを考えたらまぁ、最悪ではないかな?

 あとは、一応向こうの世界の一般常識と

 この世界の言語は何故か覚えていたから良かったけど。


 ……一回落ち着こう。

 うん、色々あったけど私は結構平和に暮らせています。

 特に大きなイベントとかはなく、あるとしても……


 バン!


「ルーナよ!私が来た!」


 ………こいつ以外はないね。


「アルート様、女の子の部屋にノックも無しは失礼に当たります。あともう少し静かに来れませんか?」

「むっ、これはすまない」


 このうるさいやつはアルート・ディイン。ディイン国の王子です。

 歳は私と同じ10歳。常に元気はつらつで相手していて面倒臭いやつ。

 いつかの誕生日パーティーで、私に勝負を引っ掛けてきてからの関係です。


「さて、ルーナよ。今日も勝負といこう!」

「……はぁ、わかりました。今日は何をするんですか」

「うむ、今日はこの前のイゴとやらをやろう」

「あぁ、囲碁ですか。いいですよ。

 ルールは普通に?それとも五目どちらですか」

「うむ、イゴはルールが難しいからゴモクで頼む」

「……何回もルール教えましたよね?まぁいいですが」



 ◆◇◆



「はい、終わり」

「………なっ!」


 私が5つ目の碁を並べ終えるとやっと気付いたようだ。


「な、何故だ。何故我はルーナに勝てぬ」

「アルート様は自分の戦略のこと以外は頭からすっぽりと抜けてしまうことがあるので、そこを突かれたら負けてしまいます」

「うぅ、いいだろう。今回はルーナの勝ちにしてやる」

「はぁ、今回ですよ。アルート様、私に一回も勝ったことないじゃないですか」

「そ、そんな事はない。今日はたまたま調子が悪かっただけだ」


 言い訳乙。とまぁ、こんな襲撃イベントがしょっちゅう起こる。

 それ以外は何もない。ガチでクッソ暇なんだけど。

 何だよ。せっかく異世界に来たってのに何でなにも起きないんだよ。

 異世界でよくある、追放や魔王襲撃なんかも何もなんですが。

 あるのは勉強かダンスや楽器練習ぐらい。

 まぁ、その勉強が魔法のことを少し齧ってあるから飽きはしないけど。


「ルーナよ、私との勝負中に考え事か?」

「……えぇ、少し退屈だなと思いまして」

「な、何もそこまで言わなくても」

「……あぁ、アルート様のことではありませんよ。この日常のことをおっしゃってます」

「そ、そうか。よかった」


 何をそんな安堵してるだ?

 あっ、もしかしてつまらない男と思われなくないのか?

 まぁ、一応私は女の子として育ててもらってるから、相手側から見ると女の子につまらないと思われているということか。

 それは申し訳ないことをした。

 謝罪しておこう。


「アルート様、そのような考えに至らず申し訳ございませんでした」

「い、いや。ルーナがあやまる必要はない。私が勝手に勘違いして、勝手に落ち込んだだけだ」

「……そう言っていただけてありがとうございます」


 いやー、アルートくんはいい子やな。

 毎日勝負仕掛けに来るとこ以外はいい男なのにな。

 ……まぁ、ちょうどいい暇つぶしになっているからいいか。


 そんなことを考えていると私の扉が開きました。


「ルーナよ、今大丈夫か?」

「父上」


 扉から現れたのはレオンハルト、私の父上でした。


「どうしました?」

「うむ、少し用があったのだが…」


 父上が私とアルートを交互に見ていた。


「今は忙しいか?」

「うーん、アルート様どうしますか?このまま勝負を続けます?」

「いや、今のままでは勝てそうにない。日を改めてまたこよう」

「そうですか。父上大丈夫だそうです」

「そうか。すまないな。少しルーナを借りていく」


 そう言いながら父上と私は部屋を出て行った。


 その背中をアルートは少し寂しよさそうに見ていた。

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シナリオがない?なら作ればいいじゃない ー王女も私、ヒロインも私、魔王も私、この世の全ては私でできているー うゆ @uyu0526

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