第2話 王の心境

 私の名前はレオンハルト・マードゥ・ガルド。

 ガルド王国の王である。


 今日、とうとう私の妻、マリアが出産するということを聞き、仕事を切り上げて妻の元に向かおうとしているところだ。

 本当なら妻の元に付きっきりで見てあげたいが、流石に仕事をしないですむとは思っていないので苦渋の決断で諦めた。


 それにしても、どんな子が産まれてくるのだろうか。私に似て気高く、男らしい子供か、マリアに似て美しく、美人な子供か。今からとても楽しみだ。


 と、そんなことを考えていたら着いてしまった。


ガチャ


「マリア」

「あら、あなたもう来たの」

「もちろんだ。我が子のことを考えていたら仕事なんて落ち着いていられん」

「ふーん、私のことは心配しないんですね」

「そ、そんな事はないぞ!もちろんマリアのことも心配している!」

「ふふ、冗談よ」


 いつも通りマリアが私を揶揄ってくる。

 だが、いつもより覇気がない。やはり少し不安を覚えているのかも知れない。

 ならその不安を取り除くのが夫の役目というもの。


「マリア、心配するな。何があろうとこの私が付いている。不安がる事はない」

「あら、励ましてくれるの?」

「あぁ、不安がっているように見えたのでな」

「……よく見ているわね」

「もちろんだ。私は常にマリアのことしか見えていないのでな」

「ふふ、一国の王が言ってはいけないことではないの?」

「そうだ。本来ならダメだが、私は一国の王であるのと同時に一人の夫だからな。何事にも例外はある」

「あら、いけないこと」


 そう言う妻の姿はいつも通りの優しい笑顔に戻っていた。


 それからのことはすぐに起こった。

 妻が急に苦しみだした。

 すぐに理解した、始まるのだと。

 そこからは私にできることは少ない。

 妻の手を握り、励まし、祈ることのみだ。



◆◇◆



 どれほどの時間が経ったのかわからないが、無事に産まれたようだ。


 それに安心し、妻を励まそうとして、それは起きた。


「ひっ」


 侍女の一人が声を上げた。

 その侍女は赤ん坊を持っており、何か怯えた表情をしていた。


「どうした?」


 私が声をかけると、侍女はゆっくりと赤ん坊を妻に渡しながら話した。


「……この赤ちゃん、男の子でも女の子でもありません」


 最初は何を言っているのかわからなかった。だが、妻に渡ったを見た瞬間理解した。


 なかったのだ。

 男といえるものや女といえるものがない。

 なにもなかったのだ。


 意味がわからなかった。人間ならある性別というのがないということは、人間とは別の種族ではないのか?

 それとも人間だけど性別がないということだというなら、それは人間ではなく化物の類いになってくる。


 ……この時の私はきっと冷静な判断ができていなかったのだろう。

 1番やってはいけないことをしたのだ。

 妻の前で我が子のことを化物と断言しようとしてしまったこと。

 我が子のことを一瞬でも怖がってしまったこと。


 そんな私を我が子は許してくれた。

 あまつさえ笑顔を向けてくれた。

 言葉を理解しているのかはわからないが、この笑顔を守るため少しでも我が子が幸せに過ごせるように努力しようと決意した。

 その後、我が子の名前を決めてもらった後、我が子は静かに寝息を始めた。


「ふふ、可愛い寝顔」

「……あぁ、そうだな」


 こんな可愛い我が子を化物だと考えていた私は父親失格だ。


「マリア」

「あら、なにかしら」

「…すまなかった」

「……そうね、確かに私たちの子供を悪く言うのはよくないことよ。深く反省なさい」

「……あぁ」

「……ふふ、そんなに反省しているあなたを見るのは久しぶりね」

「そ、そうか?」

「えぇ、あの頃はまだ今ほど安全ではなかったもの。失う命のことを考えて日々悩むあなたを支えてきたのだから、あなたのことに関しては誰にも負けない自信があるわ」

「……そうか」

「えぇ、そうよ」


 あぁ、こんな良い妻の夫ができてることに幸せを感じる。

 本当に、私はいつまでもこの妻には敵わないな。

 ……そうだ、もう一つ言わなければいけないことがあったな。


「皆よ、これから先、我が子ルーナは一人の女の子として扱うように。

 そして、ルーナのことを外部に漏らす際は女の子が産まれたと言うこと。良いな」


「「「「はっ!」」」」


 ほんと、我が侍女達を持てて我は改めて幸せだなと感じる。

 これからも妻や侍女、我が子のことを大事にしていこうと決意した。


 これまでの王国ではなく、これからの王国であることに自信を持とう。

 これまでのとは何もかもが違うというところを我が子に見せていこう。

 それが我が子を化物だと思ってしまった私の罪滅ぼしかもしれない。

 きっとこれは私が墓に入るまで続くのだろう。

 だが、それでも妻と我が子、そして国のことを1番に考え、家族と共に育てていこうと思う。

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