白雪姫 既成観念

糸鋸

前編 主人公と貴方

それは寒い冬のこと。

ある国のおきさきさまが窓辺で刺繍をしておりました。

そのとき、指をさし、血が3滴雪の上に滴り落ちました。

「雪のように白い肌、血のように赤い唇、木のように黒い髪の女の子が欲しい」と、それを見たおきさきさまは願いました。

やがてその通りの女の子が産まれ、「白雪姫」と名付けられました。

しかし、その直後におきさきさまは亡くなられました。


「ふふ、王様の目はとても素晴らしいものね」

おきさきが亡くなってから1年。

そんな中新しいおきさきに抜擢されたのが、この私

「おきさき……なんて美しい称号なのでしょう」

そう、私にピッタリ。この世で1番美しくて、素晴らしくて、最高の女性である_____私にね!

「お妃様。そろそろ城へ到着致します」

あら、馬車の中で大きな声を出しすぎたかしら。

「そう。ご苦労さま」

笑う時は口に手を当て、目尻を下げる……こうして私の美しい笑顔は成り立っているわ。

美しさこそ、この世の何よりも良き感性。その為なら幾らでも私は努力してきたんだから………

その努力が実ったのかしら。関係あるにせよないにせよ、私はこれからも美しくないと。

……そうじゃないと、私の今迄の努力の意味が分からないわ。


城の中、私の部屋……

「まぁ、なんて広いの?」

驚く間も、メイドたちは私の荷物を部屋に運び込んでくる。

「ちょ、ちょっと……アナタたち、私がやるから退いてなさい」

家具のこだわりはあるの、と付け加えた。

「失礼しました、お妃様。何かあればお呼びください」

そう言うと直ぐに部屋から皆出ていってしまった。

私が退けと言ったけれど、少し寂しい気持ちはあるわね。

もう次の予定まで時間もないし、いつものやつだけすませてしまいましょう。

荷物を迷いなく解き、大きく豪華な鏡を出す。そして立てかけた。

「鏡よ鏡!この世で1番美しいのは誰?」

鏡は答えた。

「それは、お妃様です。」

あら、ちゃんとお妃って呼んでくれるなんて……よかった。私のことよね…

本当のことしか言わない鏡。いつからか毎日、ずっと質問をし続けてきた鏡。

美しい私の姿、映せて光栄よね。

「お妃様!……お時間でございます」

「きゃっ」

急に大きい声を出さないで頂戴!……でも時間を見ていない私も悪かったかもしれないわね。

「ああ、本当に失礼しました……! お妃様。その……」

分かってるわ。

「大丈夫よ、ごめんなさいね。私の娘と会えるのでしょう?」

そう。私は前のおきさきと夫の娘の母になるの。

私に、娘……考えたこともなかったわ。

「娘がいる部屋に……連れてってくれる?」


「うー?」

私は私の娘「白雪」と顔を合わせた。

まじまじと見つめる。確かに顔は真っ白ね。でも不健康な白じゃないわ。それに肌の色の薄さと髪と唇の色の濃さが……

「きゃはは!きゃははっ!」

胸がドキリとした。

何、この感覚?

白雪の、笑顔。私より全然下手だわ。口も開きっぱなしだし、指はよだれが少しついている。

………それでも、それでも。

「私、アナタのママよ。アナタ、とっても可愛いわね」

血の繋がりなんてないのに………私に似て生まれてきたじゃない。

「白雪、私の大好きな白雪。私の次に美しいわよ………」

私は白雪の頭を撫でて、ぎゅっと抱きしめた。

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白雪姫 既成観念 糸鋸 @Uqotu_00

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