◯芹山未羽

 わたしはとても幸せだ。

 

 赤ちゃんを腕に抱きながら、私は子守歌を歌う。

 奥の座敷であじゃさまが歌っているフレーズだ。

 

 昔どこかで聞いたことがあるのに、それがどこだったかは思い出せない。赤ちゃんは目を閉じて、静かにしている。

 ここはどこで、わたしはだれだったろう。少し前まではとてもつらいことがあった気がする。けれど、もう大丈夫だ。

 優しい夫の翔一さんがいて、あじゃさまがいて、かぞくがいて、この子がいる。


 わたしは天井の梁から赤ちゃんを眺めている。私の首はとても伸びてしまっているので、頭を支えてくれるひとがいないと寝顔を遠くからしか見られないのが少し残念だ。


 名前のない赤ちゃんは、ぴくりとも動かない。

 わたしはひたすら子守歌を歌いながら、翔一さんが仕事から帰るのを待っている。

 

 わたしは幸せだ。 

 誰がなんと言おうとも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る