新聞記者の話

覚書

 ・ 新聞記者 藤村勇那氏へのインタビュー

 ・ 「新聞記事」の川田卓治、道枝夫妻の事件について

 


 ――まず、こっちの持ってる情報は全部出すね。まずは事件のおさらいをしておこうか。


 被害者は、川田卓治さん、そして妻の道枝さんの二人。誰に聞いても人の良い老夫婦と答えるような人たちで、トラブルらしいトラブルはなかった。と、知り合いは口を揃えて言っている。


 そんな二人が自宅マンションの焼け跡から撲殺死体として発見された。――ああ、撲殺だよ。炎で遺体の損傷は激しかったけど、司法解剖の結果、死因は鈍器での滅多打ちだった。犯人は二人を殺害した後にマンションに火を放ったらしい。

 

 どうやらガソリンか何か使ったらしくて、火の勢いは凄まじかったらしい。なので初期消火が早かった割には延焼が酷かったみたいだね。わざわざ油を用意するなんて、計画的な犯行だろうと思われてる。

 

 ――俺も現場に行ったけど、隣近所の部屋にも火が燃え移った跡があって、かなりの範囲が真っ黒だった。留守宅ばかりだったみたいで、他の部屋の人的被害はなかったのは、不幸中の幸いだったな。

 

 そしてそのおかげで、現場から犯人に繋がる物証は見つからなかった。


 はじめは警察も、犯人逮捕に楽観的だったんだ。川田氏は殺害される直前まで電話をしていて、その相手は彼が犯人に襲われたらしき音声を聞いている。それで警察に通報したんだから。

 

 ――そう、電話の相手は、君たちの勤め先……宮下にとっては、元、か。

 スノウ製菓の代表電話だ。

 

 川田氏が、夜中に営業マンが来たってクレームを入れていたらしいね。

 その内容については置いておくとして……通報者曰く、代表電話の通話は全て録音されているっていう話だった。だから、音声データがあれば何らかの手がかりになるだろうと思われてた。

 

 だけど、なんとこの時の通話の録音が残っていない。なんでも、気が動転した社員が、データ消去のボタンを間違って押してしまったとか。


 しかも追い打ちをかけるように、犯人の目撃情報が、まぁ出ないんだ。人を二人殺してガソリンを撒き、火をつけた人間だよ? しかもスノウ製菓からの通報を受けて、かなり早く警官が現着したにも関わらず、だ。

 

 平日の昼間の住宅街、確かに閑散とはしているけど、歩いてる人はちらほらいる。大抵は近所に住んでて、お互い顔見知りの人間だから、聞き込みをするのは簡単だったらしい。

 だけど、誰も怪しい人物を見ていない。まるで犯人が犯行の後、忽然と消えてしまったみたいに。

 

 ――うん。謎の訪問者について、だね。スノウ製菓の『芹山翔一』を名乗る男が事件の前、深夜のマンションでチャイムを鳴らして回っていたというのは付近の住民から証言が取れている。

 何人かが迷惑行為として警察に通報した記録もあった。警官が現場に来たときには、もういなくなっていたらしいけど。


 もちろん警察もその男のことは捜索してる。


 ただ……その男が本物の元スノウ製菓社員、芹山翔一でないことは確かなんだ。


 ……死んでるんだよ、芹山は。

 

 念の為、そっちの件も追った。芹山はスノウ製菓在籍中に、自ら命を絶っている。


 これもまた不可解な話でね。彼を知る人は口を揃えて、自殺なんかする動機がないって言うんだ。仕事は順調、プライベートは充実。

 ハラスメントの疑惑は欠片もなくて、報道にも上がらなかった。こういう事件が好きなマスコミも取り上げられないくらい、埃が出なかったんだよな。

 

 なのに――死んだ。 

 

 ……さぁ、話し手交代といこうか。

 二人は、何を知ってるのかな?

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