■芦原瑞穂の話 始まり
「……ふぅ」
深呼吸をして、私、こと
この資料たちが誰かの創作物だった場合、権利侵害的なことで怒られるかも知れないとは思っていた。けれど、現時点ではそんな連絡は誰からもきていない。
……なので開き直って、誰かに怒られるまではやってやろう、と思っている。
フェイクドキュメンタリーのホラーというものが流行している昨今、これはまさに現在進行系のドキュメンタリーだ。誰も実話だとは思っていないだろうけど。
……あわよくば私の他作品にもアクセス数が増えないかな、なんて下心もある。けれど、そこまで期待はしていない。
私にとっての執筆はあくまで趣味で、専業作家になるとか夢のまた夢である。書籍化だっておこがましい。悲しいことに、シンプルに才能がない。pvだっていつも鳴かず飛ばずだし。
なので、大学時代は就活を頑張り、新卒カードをしっかりと使ってお硬い日系企業に就職したわけだし。
――株式会社スノウ製菓。今年で創業百周年を迎える、国内屈指のお菓子メーカーが私の勤め先だ。テレビCMで流れる『お・か・し・のっ♪すっのう〜♪』という気の抜けたフレーズとともに現れる青地の企業ロゴは、日本国民なら大抵の人は目にしたことがあると思う。
大学三年生のときからインターンに潜り込んで内定を取り、今年の春にめでたく新卒入社を果たした。そして初期研修の後、総務部に配属された。
ノルマが厳しいと噂の営業部でなくて、ホッと胸を撫で下ろしたのもつかの間、すぐにその安堵が間違いだったと知った。
総務部は「何でも屋」なんて揶揄されるように、業務の幅がおそろしく広い。庶務に加えて来客の一次対応、備品や会社設備の管理、はては人材採用や研修実施なんて分野までカバーさせられる。
おかげで覚えることが多すぎて、そろそろ入社半年が経過しようとする今でも大混乱の毎日である。
会社員は辛い。父がビール片手に常々こぼしていたその言葉を、私は身を持って実感している。
凝った肩をほぐすため、手を組んで思い切り伸びをした。高校時代から使っているデスクチェアがきいきいと嫌な音を立てる。勉強机なんて小学生の頃から未だに現役だ。そろそろ買い替えたいとは思うけどなかなか踏ん切れない。
大学を卒業してもなお実家暮らしの私は、親の脛をかじり続ける後ろめたさに辟易して一人暮らしを切望している。そのため、絶賛貯金中なのだ。
時計を見ると、時刻は日付が変わったばかりといったところだった。
学生時代なら、ここから二時間くらいだらだらと夜更かししていたけれど、就職してからはいたって健康的に、早寝することにしている。理由は明確。単純に翌日の仕事に響くのだ。
今日はもう寝るか。そう決めて部屋の照明を落とそうと、リモコンを手に取った。そのとき
ピンポーン、と。玄関のチャイムが鳴った。
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