第6話 剣術スキル≪スラッシュ≫対倭刀術リザードマン 3
ギルド受付嬢であるセリスティアは、元冒険者である。
というよりも、受付嬢やギルドスタッフの多くは元冒険者が多い。病気や怪我、あるいは呪いの類いで体を壊して冒険ができなくなった者が主だが、セリスティアのように、パーティ解散に合わせて冒険から引退する者もいる。
そういうスタッフは特に臨時の戦力としてもカウントされることがあるため、戦闘訓練を怠らない。
「そういう訳でよろしくお願いしますね!」
ダッパは猿ぐつわを噛ませられた上で、両腕を後ろに回されて縛られ、さらにその紐が片足に絡められている。
歩くことはできるが、勢いよく走ろうとすると足の紐が障害となって走れない。
そんな状態だ。
テクステリーの東部に広がる山の中腹部にある洞窟、そこに山賊たちが隠れ住んでいる、とダッパは自白した。
厄介なことに、そういう洞窟は山のそこら中に存在するため、場所を把握している人間でなければ、山賊たちに近付くことすらままならない。
ダッパは大人しく、彼らのアジトへとガラたちを導いた。
用心深いエレニアムなどは、それが罠かもしれないと疑っていたが、同じく用心深い斥候のスルガーはそれはない、と反論した。
「それなら、この道に何らかの警報装置を仕掛けているはずだ。だが俺の見たところ、その雰囲気は全くない。余程大胆不敵な策士か……単に何も考えてないか。で、俺は山賊なんて連中をそんなに高く見積もってないんでね」
「私もそれに賛成だ。いずれにせよ、ここで尻尾を巻いて逃げる理由はない」
「そうですね。元冒険者なので口を挟む権利はないかと思いますが……やはりここは、この人を信じて行きましょう。だってほら、罠だったら真っ先にこの方も死ぬでしょうしね?」
セリスティアはとんとん、と薙刀の峰でドッパの肩を叩いた。ドッパは震えながら、何度も首を横に振った。嘘はついてない、と言いたいらしい。
「さて、それじゃあレッドフォート。指示をくれ」
「……私でいいのか?」
「この中で一番そういうのが向いてるのは、お前だよ」
スルガーの言葉に、ガラは了承したと言って頷いた。
§
当然のように罠はなく、ガラは夕暮れを奇襲の時と定めた。
ここまでテクステリーから徒歩で八時間。ダッパは深夜に出発、朝方に到着してすぐに装備品を売り払い、返す刀で帰路につく予定であったから、夕暮れに帰らなければ当然怪しまれる。
「朝方じゃあ、食堂も開いてないか。ちょっとでも遅ければ怪しまれるだろうな」
結局のところ、山賊とは臆病者である。弱者に対しては強気に出られるが、公権力や強い冒険者の前では、まず最初に逃亡を考える。
「……矛盾があるな」
ガラの呟きにスルガーが首を傾げた。矛盾?
「臆病であるなら、警戒がなおさら必要だろう?」
「ああ、そういうことか」
「それについては私からお答えしましょうか」
セリスティアがひそひそと、ガラに囁いた。ガラが頷いて話を促す。
「山賊たちは警戒をしたくないのです。
警戒をするということは、弱く見えますから」
「……ふむ……?」
「帰ってこない部下が捕縛されたと考えて逃げ出すならば、それは賢い。ですが、来るかどうかも不明な敵を警戒するのは弱い。山賊とはそういう価値観なのでしょう」
異世界でいうところの、一種の正常性バイアスとでも言おうか。
どちらも臆病からくる賢明さには違いないのに、山賊の
「……複雑だな」
「かもしれませんね。さて、ではガラさん。どうか指示を」
既に道中で、各々の使える技、使えない技は話し合ったことで把握している。
「……では、聞いてくれ」
ガラは、地面に簡単な地図を描き出す。
§
山賊の頭目である男の名はブライという。
元銅級冒険者だが、ある日つい、うっかり、もののはずみで、
仲間を皆殺しにしてしまった。
そう、もののはずみだ。
新しく発生したダンジョンを探険し、苦難を乗り越え、辿り着いた最奥で発見したこの妖剣(魔術付与剣)の所有権を巡って争い、二人の仲間を殺してしまった。
おまけに、それが目撃者のせいですぐに露呈した。
逐電して、山賊になったのも――仕方のないことである。
妖剣に付与された魔術は、剣を振るう速度を速めるという単純にして優れたもの。
初撃では信じられない速度で斬ってくる彼に追いつけず、初撃を回避したところで、常人の倍以上はする速度で放たれる斬撃に押し殺されてしまう。
ブライは山賊でありながら、自分は達人の域に達したと自惚れている。
そして、それを証明するために――今回、ちょっとしたイタズラを思い付いた。
金も、食料も、酒も、女も、山賊ならいくらでも手に入る。
だが、称号だけは与えられない。最強という称号だけが。
だから、誘ったのだ。
ダッパの荷物の中に、冒険証を忍び込ませるという愚を犯して。
自分の推測が確かなら、まもなく答えが出る。そろそろダッパの帰還時間だ。
どん、という派手な音にブライは満足げに笑った。
「何だ!?」
「奇襲……奇襲だ! 応戦しろ!」
「ジャラ! ジャラがやられた! いや……まだ生きてる! 助けよう!」
部下たちが慌てふためいて、洞窟から出ようとする。普通なら、ブライはそれを制止しなければならない。
生かすのであれば、心を鬼にして見捨てなければならない。
だが。そんな義理は毛頭ない。
元より、一人で始めた盗賊稼業に勝手にくっついてきた輩である。
ブライにとっては、ただの寄生虫に過ぎない。
問題は一つ、自分がこの妖剣を振るに相応しい相手がいるかどうか。
それだけだが。
「……
どうやら、見つかったようだ。
§
洞窟は一方通行であることは確認した。
そこでまず、エレニアムが【
算を乱して飛び出してきた山賊が五人。
木に登っていたスルガーがクロスボウを放つ――山賊の喉を貫く。残り四人。
クロスボウとほぼ同時に、セリスティアが動く。
体重を感じさせない足取りで、セリスティアがふわりと倒れ込むように飛んだ。
同時に突き出した左手は地面に叩きつけて上下位置の操作を行う。
ひゅっ、と丸めた呼気を吐き出して。
薙刀を両手ではなく片手に持ちつつ、右から左へ横薙ぎの一撃。
前後位置調節のため、虎眼流※2の秘伝である『流れ』にも似た要領で柄尻まで滑らせる。
「三人です!」
セリスティアの叫び。
それは、三人を戦闘不能とするというガラへの呼びかけ。
放たれた斬撃は、山賊三人の
どう、と倒れ込んだセリスティアは素早く起き上がると後方へと戻る。
驚嘆するべき一撃であった。
薙刀を片手で扱う握力と筋力も驚くべきもの。
だが、それ以上に驚くべきは位置調節。
倒れ込みながら地面に触れた左手を伸ばす、あるいは曲げることでほんの一瞬、斬撃を放つ時間を作り上げる。
前後の位置調節もまた驚嘆するべきもの。
目で見定めて、自分の一撃が届くかどうかを一瞬で計算し、その上で柄尻まで薙刀を滑らせる慮外の握力。
「いでえええええ!?」「足! 足が!」「くあ……ああぁ……!?」
三人が倒れ込み、絶叫しながら呻く。
多人数相手への脛斬りという、あまりにも大きなアドバンテージ。
ガラはセリスティアの一撃が決まったとほぼ同時、走り出していた。
残り一人、向かってくるガラに対して恐怖を押し隠すための咆哮。
こういう時、剣術を習っていない人間は得てして無我夢中の振り下ろしを行うことが極めて多い。
ガラは冷静に、自身の武器である苗刀の峰半ばに左手の甲を当てた。盗賊が繰り出した振り下ろしの一撃を受け止めるが早いか、左手を天へと掲げる。
態勢を崩した盗賊が絶望の表情でガラを見やる。
ガラは右足を前に出すと同時、片手で刀を横薙ぎに捌く。動脈を斬られた盗賊は、一瞬で意識を喪失して倒れ込む。
一連の動きは絹のように滑らかで、美しい形があった。
入洞刀勢(にゅうとうとうせい)。
膝を斬られて呻く三人から武器を奪い、蹴りで地面に転がす。
まだいるのは、洞窟の気配から明らかだ。
出てこないのは、洞窟に入ってこいという挑発だろうか。
否。
のそり、と大男が洞窟から出てきた。その背後に、弓を構えた四人。
「一騎討ちを申し込む!!」
その言葉に、立ち上がって薙刀を構えていたセリスティアも、クロスボウで狙いを定めていたスルガーも、【
男はガラを見据えている。
不敵な笑み、自信に満ち溢れた凶悪な風貌、並みの冒険者であれば、怯んでしまいそうな戦傷の巨漢。
別に、一騎討ちを請われたからといって承諾する必要はない。
そも、山賊如きの請願を拒絶したからといって名誉に傷がつく訳ではない。
ないのだが。
「受けよう。ガラ・ラ・レッドフォート、倭刀術」
「おお! 我が名はブライ、西欧流※3!」
山賊だからといって、ガラは決して果たし合いを拒んだりなどはしない。
したいのなら、するまでである。
互いに武器を構えて、じりじりと近付いていく。
武器の間合いでは、ガラが有利。だが体格は互角の上に、ブライの持つ武器はただの武器ではない。
魔術付与された、妖剣である。
空気が密度を増していく。
セリスティアにも感じ取れるそれは、一騎討ち独特の重圧だった。
生き残りの山賊ですらも目を奪われている。
その隙を突いて仕掛ける手もないではないが……。
パーティメンバー三人は、それを躊躇った。
何しろ、自分たちも一騎討ちを見届けたい。そして、その上で二人の間に余分な邪魔者として入り込みたくもない。
ガラは相手の武器よりも、自分の大太刀の方が間合いが広いことに気付いていた。
遠目に当てる一撃で仕掛けてみるか、と最初に考えたが即座にそれを否定。
――ブライは、秘技を隠し持っている。
そんな奇妙な確信があった。男が浮かべる笑いは、明らかにそれだ。
ならばまず、その秘技を曝け出させるべきだろう。
一撃を振るうことなく、一撃を出させる。
……やってみるか。
先ほど、山賊を斬り倒した技は入洞刀勢(にゅうとうとうせい)といい、本来は相手の刺突を捌いた上で相手の懐へ踏み込んで斬る技だ。
なのにガラは、捌く刃もないままに大太刀の峰を手の甲に当てるとそれを突き上げ、流れるような動作で斬撃に入った。
いや、入ろうとした。
その直前まで動いて、後は斬撃を放つばかりという状態になった瞬間に、ガラは全身の動きを、全てキャンセル。
端から見れば、それは意味もなく舞ったかのようにしか思えない。
実際、見ていた中の素人であるスルガーやエレニアムもそう思ったのだ。
無意味だ、と。
ブライは違う。ブライはその技を見ていたし、用心もしていた。
一連の、同じ動きをした瞬間にその技が最終的にどこを狙うかも把握していたから、自身の技を遠慮なく繰り出した。
「≪スラッシュ≫!」
ガラの技は速かった。
だが、ブライの≪スラッシュ≫は更に速かった。
そんな未来は当然訪れることなく、ブライの≪スラッシュ≫は虚空を斬った。
「何!?」
殺気を伴った
彼の一撃は途中で止まったにもかかわらず、その溢れんばかりの殺気が叩きつけられたブライは、その秘技を見せつけた。
剣術スキル≪スラッシュ≫、それも神速の斬撃。
ブライの一撃は虚空を斬ったが、彼はすぐに態勢を立て直すと笑う。
そもそも見せたところでどうということはない。遠距離攻撃でもあれば別だが、彼の≪スラッシュ≫は見せたところで対策が取れる技ではないのだから。
スルガーとエレニアムは、そのあまりの速度に驚嘆し、
部下の山賊たちもまた、頭目の技の凄絶さに感嘆の息を漏らす。
セリスティアは何とも言い難い複雑な表情を浮かべた。
そしてこの中でただ一人、ガラの表情は変わることがない。
変わることがないのだが――。
吐き出された息は、失望に満ち満ちていた。
§
「≪スラッシュ≫について、今日は教えようと思う」
その言葉に、銅級冒険者たちは顔を見合わせた。
鉄級冒険者が戦闘訓練で学ぶ最初の技、≪スラッシュ≫。
「以前も教えた通り、≪スラッシュ≫は剣術スキルの初心者向け技として名高い。なんなら、中堅に到達した状態でも使える程度には破壊力もある。だが、銅級になったお前達は、基本的にこれから≪スラッシュ≫は使用してはならない。使い所を見極められるまでは、だ」
なぜ? 確かに銀級冒険者が≪スラッシュ≫を放つことは少ない。だがそれは、彼らにとって初心者向けの技を使う意味がないからだ、と思っていたが。
「なぜなら、≪スラッシュ≫は特定の条件下で著しく弱体化するからだ。いや、≪スラッシュ≫だけでなく、一部の武術スキルはその全てに同じ欠点を抱えていると言ってもいい」
どういうことだ? ざわめく銅級冒険者たちを落ち着かせると、戦闘訓練担当の教官は、手慣れた様子で技を放った。
「≪スラッシュ≫」
いつも通り、強力無比かつ素早い斬り上げの斬撃。
「見ての通り、≪スラッシュ≫は剣術スキルの基本であると同時、並みの人間には対応できない速さがある。何よりも、このスキルの一番の長所は何だと思う?」
教官が一人の、まだ昇級したばかりの
「そこの君。答えてみろ。自分が≪スラッシュ≫を放ったばかりの頃を思い出して」
しばらく考えた後、はたと彼は気付いた。
「動けるようになる?」
「そうだ。剣術スキルとは、発動した瞬間に自動的に体が動作する。そして≪スラッシュ≫の動作が終わるまで、何があっても止まらない。これが悲劇を生む理由の一つとなる。いいか? どんなに体勢が崩れていても、≪スラッシュ≫は止まらない。よし、回答してくれた君。もう一度≪スラッシュ≫をやってみてくれないか。ただし態勢は……こうだ」
教官がぐい、っと少年の肩を押して片膝を突かせた。
「ス、≪スラッシュ≫……!」
無理な体勢から≪スラッシュ≫が発動する。だが、膝を突いていた分、伸びが悪い。恐らく威力も半減しているだろう。
「今のは片膝突いていただけだから、この程度だが……もっと無理な体勢から放つと、筋肉が断裂する可能性すらある」
その言葉に一同、顔面蒼白になる。
「だから、≪スラッシュ≫を放つときは大地を踏みしめた状態からと教えるし、お前たちは多分、今までそれを守っていたんだろう。ここまでなら、まだ使えなくもないんだが……もう一つ、致命的な理由が存在する」
次は別の人間が呼ばれた。中肉中背の
彼は戸惑いながら、練習用の木剣を手に取る。教官は木盾を手にすると、自分に向けて≪スラッシュ≫を行うように告げた。
「今の俺は盾を持ってる。安心してやってくれ」
「はい。……≪スラッシュ≫!」
中つ人の青年が≪スラッシュ≫を放つ。教官は盾を手にしてはいるものの、何とその手を背後に回し、顔をぐいと近づけた。
「え……!?」
慌てるが、発動した≪スラッシュ≫は何があろうと止まらない。果たして中つ人の斬撃は――虚空を斬った。
「一体何が……」
呆然として呟く男。教官はニヤリと笑うと、全員を見渡し告げた。
「これがもう一つの弱点だ。≪スラッシュ≫はな、武器の長さで斬撃の距離が変わらないんだ。一定以上の長さを持つ武器だと、そもそも発動しないしな。そういう、どこまでもシステマチックな堅さがある。だから……達人なら、一分(3mm)単位で読み切れる」
「もちろん、訓練で教えるだけあって≪スラッシュ≫はこれらの短所をさっ引いても、余りある長所がある。だが、≪スラッシュ≫だけでこの先を戦えると思うな。剣術スキルじゃなく、弛まぬ鍛錬で技を覚えろ。冒険者とは、それができて一人前なんだ。分かったか?」
教官の教えは、未熟な冒険者たちに染み渡るようだった。
§
「≪スラッ――――」
ガラは地面に転がっていた石を蹴り飛ばした。顔面に直撃したブライは、ぐらりと体勢を崩す。
「シュ≫――――!」
ブライは≪スラッシュ≫を放とうとしていたため、体勢が崩れる。斬撃は本来有り得ない体勢から、無理矢理に技を放つために筋肉がねじれる。
そしてガラは≪スラッシュ≫の斬撃が届くギリギリの間合いでそれを回避。
元より、≪スラッシュ≫の間合いは身に染みついている。
ブライは苦痛に絶叫した。
ガラは今度こそため息をついて、もんどり打つブライの背中を大太刀でずぶりと突き刺し、殺害した。
「……へ?」
終わりである。
呆気に取られていた残りの山賊四人は、セリスティアが苦も無く処理した。
§
「……まさか≪スラッシュ≫とは……」
セリスティアが呆れたように呟き、ブライの持っていた妖剣を手にする。
「私は剣を使わないからよく分からないけど、そんなにダメなの? 現にこいつは、結構な冒険者を倒してきたみたいだけど……」
エレニアムの問いに、セリスティアは首を横に振る。
「≪スラッシュ≫は初級冒険者にとっての攻撃の要ですが、同時に初級を卒業する際には、真っ先に捨てなければならない悪癖のスキルです。さっき、ガラさんがやったように石をぶつけられて体勢を崩すと、目も当てられないので」
「……男の凶相と悪い意味で噛み合ったのだろう」
「どゆこと?」
スルガーの問いにガラが答える。
「この凶相、武器の禍々しさ、戦傷、そして山賊の頭目。これだけ揃っていて、銅級冒険者がすぐに卒業する≪スラッシュ≫を武器にするとは思えない。だから、今までの冒険者はそれで虚を突かれた」
何しろ速度が尋常ではない。
実際の話、ガラとて最初にフェイントではなく、普通に仕掛けていては≪スラッシュ≫の餌食となっていた可能性が高い。
意外性に虚を突かれ、速度に対応できず、一撃の下に屈する。
滑稽なことに。ブライ本人ですら、その意外性に気付いていなかった。
自分の≪スラッシュ≫は人より遙かに速く、だから勝っているのだと。冒険者をすぐに止めてしまった彼は、戦闘訓練で教官から教えられる前に、山賊になったのだ。
その、あまりの皮肉さに一同は呆れる他ない。
自身を圧倒的強者だと考えていたブライが、その実は銅級冒険者でも習う≪スラッシュ≫の脆弱性を知らぬまま、勝ち続けてきたことに。
彼らに殺された内の何人かは、≪スラッシュ≫の短所を理解していたに違いない。
そして、逆にこう考えたのだろう。
「だから熟練した山賊の頭目が、≪スラッシュ≫など使うはずがない」
どこまでも皮肉である。
いや、あるいは一周回って高等な技術だったのか。
大道芸人が手先の器用さというシンプルな技術で、物を消してしまうように。
彼はシンプルな技術で、それと気付かぬままに強者の一員となっていた。
「偶然だ。偶が理を導き、常勝の山賊と化していた」
「何だ、その理不尽」
「そうだな。理不尽だ……だが、剣術とはそういうものだ」
どれほど技を極めても、毛筋一つほどの油断なくとも。
無我夢中の、偶然の、不運な、天災のような一撃で、
「それを納得できなければ、剣を手にする資格はない」
その言葉は、はたしてこの世界の誰に投げかけられたものだったのか。
―――――――――――――――――――――――――――――
※1
※2 虎眼流。濃尾無双と謳われた岩本虎眼が静岡・掛川にて興した流派。『流れ』は秘伝の一つ。
※3 西欧流。正確には
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