麦茶とスイカと恋泥棒

瑠栄

夏の朝の相談役

"プルルルル"


「んー・・・」


"プルルルル"


 朝一番に聞こえて来たのは、携帯の着信音。


「・・・まだ、8時半だぞ・・・」


 鬱陶しくて電源ごと切ってやろうと、携帯に手を伸ばす。


"プルル・・・"


 俺が携帯の電源を切る前に騒音は止まり、ホッとして二度寝の準備に全神経を注ぐ―――――ところで、また騒音。


"ピーンポーン"


"ガバッ"


「だあ、もうっるせえなぁ!!!」


(こちとら、昨日体育祭だったのに・・・!!!)


"ピンポンピンポンピーンポーンピンポン"


「あー、はいはい。出りゃあ良いんでしょ、出りゃあ」


 二度寝という至福の時を邪魔され、現在絶好調に機嫌が悪い。


 こんな時に、ホントなんなんだ。


"ガチャ"


「さーせん、両親は外出ちゅ」


「みーなーとぉ!!!!!」


「・・・」


 そこには、なぜか制服姿の2歳年上である幼馴染・うみの姿が。


「・・・」


"ガシャンッ"


「あ!?ちょっと!!!」


 俺が戸を閉め、部屋に戻ろうとすると、急に外にいる海が叫び出した。


「あーあー、良いのかなぁ、みなとくーん。海お姉さんは、湊君の色んな事知ってるんだよー??例えばぁ、昨日の体育祭が楽しみ過ぎてクラス分のドリンク引っ繰り返」


「だーぁ、もう何なんだよ!?てか、何で知ってんだ!!昨日は、高校あったんだろ!!??」


「ふっふー、海お姉さんの情報網を舐めないでいただきたいわね~」


 完全に勝ち誇った笑みを浮かべる海にイラッと来たが、これ以上変な事を口走られても困る為、一旦中に入れる。


「おっ邪魔しまーす」


「お邪魔されますよ、っとに・・・」


 2人分の麦茶を注ぎ、冷蔵庫からスイカも取り出す。


「あ、スイカじゃん」


「そ、冴姫さきさんからもらったやつ」


「あぁ、うちのか」


 冴姫さんとは、海のお母さんの名。


 海の家は農家だから、旬の野菜とか色々貰っている。


「ねーねー、佑都ゆうとさんと明莉あかりさん、元気?」


 ソファで寝っ転がっている海が、テレビのリモコンに手を伸ばしながら言った。


「あー、親父達は・・・、まぁいつも通り?」


「相変わらず、ご両親共々オモテになるんでしょーねー」


「40越えで、あれだけモテてると最早引くんだが」


「えー、そう?それ言ったら、あんたも中学でどーなん??」


「何が」


 海は、ニヤニヤしながら俺を指差した。


「とぼけるな!!佑都さんと明莉さんの遺伝子を引き継いだあんたは、現在中3という最も輝きに溢れている時期!!!恋のピンクと青春のブルーで染まりきってるんでしょー!?」


「紫になりそうだな、俺の青春」


「黙らっしゃい」


 海はピシャリと言い、俺が運んだスイカと麦茶に手を出した。


「で、朝っぱらから何なんだよ」


「えー、なんか素っ気なーい」


「携帯の着信も、インターホンもうるっさいんだよ」


「着信無視する海沢うみざわ湊君が悪いと思いまーす」


 手を挙げて、半ば宣言する様に言う海に手刀で脳天に一発入れてやった。


"ゴッ"


「だぁ!?」


「人ん家でうるさい」


「今、"ゴッ"っていった!!今、"ゴッ"って!!!」


「猿がいたからな」


「人を猿呼ばわり!?てか、女性に暴力とかあり得ないんだけど!!年上敬え!!!」


「うるっさいな、それで女性とか年上とかよく言えたもんだ」


「はぁい!?」


 それからいつも通りの論争が続き、俺は麦茶を注ぎに台所へ移動した。


「・・・んで、マジでどーした」


「何がぁー?」


「朝、しかも休日に俺の家来たのは何でなんだよ」


「んえー」


 渋ってソファでゴロゴロしていた海は、ゆっくりと体を起こした。


「・・・ねー、湊」


「あ?」


「・・・した方が、良いのかなぁ」


「は?何が??」


 しばしの沈黙。


 俺が麦茶を飲むと同時に、海が口を開いた。


「恋愛」


「ブウゥゥゥゥ!!!!!!!」


「湊!?」


 盛大に麦茶を吹き出し、思いっきり咽た。


「げほっ、ごほっ」


「ちょ、何やってんの!!」


「わり・・・」


 その後、片づけをしてから2人でソファに座った。


「・・・んで、何。恋愛?」


「そーなんよ」


「無理なんじゃね、お前に恋愛は・・・」


 俺は、正直呆れて返答した。


 こいつは、恋愛センサーっていうか、恋愛方面に関してからっきしなのだ。


「何でよ!?」


「・・・お前、告られた回数は?」


「ないよ、そんなの」


「・・・そーゆーとこなんじゃね」


 海の3つ上の姉・蒼良そらは、海と仲良しだから色々と聞いているんだ。


 そう、こいつが告白された回数はラブレター含め二桁を余裕でいくレベル・・・。


 完全に、鈍感なんだ。


「恋愛、ねぇ」


 海自身は、高校2年生。


 年齢=恋人いない歴。


 それでも、告られた回数はえげつない。


 恋愛鈍感で、恋人歴もなく・・・、あ。


「お前、好きな人は?」


「わーらん」


「はぁ??」


 好きな人がいるかどうか二択だろ、普通・・・。


「『わーらん』って、お前なぁ・・・」


「だぁって、わからんのよ!!」


「じゃあ、逆に今お前に気がありそうなのは?」


「そんな人、いるわけないでしょ~??」


 首を傾げる海に、俺は少しイラッときた。


 お前がこの前話してた福崎ふくさきってやつ、話を聞いてる限り絶対気があるだろ・・・。


「お前のクラスメイトは?」


「"好き"がわからん限りはさぁ・・・」


「居心地良いとか、そーゆーのは」


「・・・クラスメイトでぇ??」


「いや、別にクラスメイトじゃなくても良いけど」


 海は、うーんと首を捻る。


 そして、『あっ!!』と声をあげた。


「いるいる、居心地良い人!!」


「家族とか、やめろよな??」


「湊!!」


「何だよ」


「違う違う」


 海は、笑いながら俺を指差した。


「居心地良い人ー!!!」


「・・・」


 しばしの思考停止時間。


「・・・は」


"プルルル"


「あ、蒼良だ!!あ、うん。うん、今湊の家!!」


 少し蒼良と話すと、海は俺に申し訳なさそうに言った。


「ごーめん、蒼良が畑手伝ってって」


「あぁ」


「じゃーねっ、話聞いてくれてセンキュー!!!」


「あぁ・・・」


"ガチャン"


 俺は、半ば放心状態で海を見送り、自分の部屋に戻った。


"ボフンッ"


「・・・ねーわ、あいつ」


"ドクンドクン"


 脳裏に焼き付いて離れない海の笑顔と、耳に残るあの明るい言葉。


『居心地良い人ー!!!』






「・・・あんの天然恋愛野郎・・・っ!!!!!」

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麦茶とスイカと恋泥棒 瑠栄 @kafecocoa

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