THERA’S TOUCH (その10)

開口部の先は、ちょうど地上の空き地と同じくらいの広さのドーム型の空洞へと続いていた。

全員が開口部を潜ると、開口部は自動的に閉じ継ぎ目もない壁に戻った。


ドーム内は、元居た小部屋と同じ材料で作られており、照明パネルが内接正六角形の頂点の位置に6カ所しかないため、かなり薄暗く細部が判別しづらくなっていた。

それでも照明パネルから下、床から2m位の高さに薄く発行する矩形のパネルがあることは見て取れた。

つまりこの空洞には6カ所の出入り口があるということだ。


ミーナにより大きな照明を打ち上げてもらい、とりあえず内部の探索に掛かる。

しかし床や天井には何も設置されてはおらず、やはり扉を開けて先に進む以外に道はなさそうだった。

向こう側がわからないので入口は開けず、音を頼りに向こう側を探る。

どの扉らしき場所でも、微かな振動が感じられた。


「メル、ちょっと聞きたいんだけど?」

「何、シュウ」

「お前ってさ、音響探査できる?」

「何それ?」

「えーと、見えない場所に向けて音を発し戻ってきた音や、向こう側から響いてくる音で様子を探る探索方法だけど」

「森とか水の中でやるやつね。出来るよ」

「それこの扉の向こうにやってくんない?、でも気を付けて。くれぐれも扉を開いちゃだめだぞ」

「わかったわ、やってみる」


クメールは扉らしき部分に手を当てて、しばらく無言で佇んでいた。

やがて彼女は渋い顔で振り返ると、心配顔で見守っていたシュウに告げた。

「シュウ、マズイよ。向こうじゃとんでもないことになってる」


念のため彼女に他の5カ所でもやってもらった。

全てを終え、仲間の所に戻ってきた彼女は、何も言わず、黙って首を振るばかりだった。

彼だけに聞こえる小声で壁の向こうで進行していることを聞かされたシュウは、直ちに床の中央に全員を集めた。


「メルに6カ所の出入り口の先で起こっていることを調べてもらった。その結果を、メル、皆に話してやってくれないか」

クメールは少しの間息を整えると、真剣な面持ちで口を開いた。

彼女が語った内容は、皆を軽く絶望させるのに十分な衝撃を持っていた。

「6カ所の出入り口の先は、全て奥に続く通路になっていたわ。通路の両側には開口部がいくつもあって、その先はさらに広い部屋に妻がっているようだったわ。そしてそこは大量の魔物で溢れ、続々と通路に溢れ出てきていたのよ」


シナモンが考えな5m質問する。

「魔物って何かわかったかしら?」

「種類までは特定できなかったけど、2種類はいたわ。子供ぐらいの大きさのやつとやたら長いのが」

「この森に生息してる、魔物で該当しそうな種類は、多分ゴブリンとラミアでしょうね」

「数で押して来るのと魔法を操る類ね。どちらも厄介だわ」

「どの通路もそいつらがごちゃ混ぜになってるのか?」

「違うよシン。通路毎に1種類だけ。だからゴブリンの通路が3、ラミアの通路が3」

「どれかが正解の通路なのか、それともすべての通路が最後に一つに収斂するのか、どちらでしょうか?」

「そこまではわからなかったわ。ゴメンね」

「そんなもん出たとこ勝負だろ。運が良けりゃ奥までいけるさ。それに繋がっていないほうが安全だしな」

「それもそうですね。ところで通路から魔物が溢れ出るまでどれぐらい余裕がありそうですか?」

「対侵入者用罠ならそんなに時間はなさそうねぇ」

「ミーナの言う通りだろう。それを踏まえて対応しなければいけないことがが2点。一点目は魔獣の群れをどう迎撃するか。2点目はここからどうやって脱出するかだ。そこでだ、俺に一つ案があるんだけど・・・」


6カ所の出入り口のうち、5カ所には巨大な岩の塊が据えられていた。

残る1か所には、扉の前に高さ1mほどの岩の壁を挟み、距離を置いて黒魔団が待ち構えている。

彼らの両脇は5mほどの幅で、岩の壁が黒魔団のいる場所より奥まで細長い通路を形成している。

前衛に物理組のケイ、シン、クメール、中衛にトシと指揮のシュウ、後衛にエイコー、ミーナ、セラの魔法組、最後尾にシナモン、トーカ、ユキの布陣だ。


突然空洞内部が昼間のように煌々と照らし出された。

それと連動するようにビープ音が鳴り響き、6カ所の出入り口上部に設置されていた照明プレートが1か所赤く発光している。

発光か所は一定間隔で数を増やしていった。

その意味するところは明白だった。

全ての照明プレートが赤に変わったら、扉が開き魔物が空洞内に溢れかえるだろうと。


照明プレートが全て赤色に変わった。

同時に全ての照明が消え、空洞は光一つない闇に包まれた。

あれほど神経を苛んでいた鳴り響くビープ音もいつの間にか消えていた。

一行はまるで闇夜の海中に投げ出され、上下左右も失調してしまったかのような不安定な精神状態に置かれてしまった。


そんなことだろうと思ったよ、と心の内で呟くと、瞑っていた片目を開けシュウは開戦の指示を発した。

「ミーナ明かりで視界確保しふさぐ用意。魔法組攻撃魔法セット、開口部ができたらぶっ放せ。物理組構え、抜かせるなよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 22:00 予定は変更される可能性があります

ねえ、お話をして頂戴~俺たちマルディグラに召喚されてしまったぞ~ @nottakuro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ