この街で

Danzig

第1話


明:はい、皆さんお元気ですか、パーソナリティーの白石(しらいし)です。

明:「白石のお散歩ラジオ」

明:今日は、早速お便りのご紹介です。

明:「白石さんこんにちは、先日、東久留米駅の近くの路地で、ステキなお花屋さんを見つけました。

明:お店の店員さんがとっても明るく『ここのお花は私が咲かせたんですよ』なんて言っています。

明:何だかちょっと不思議で、とても元気を貰えるお店なので、白石さんも是非行ってみてはいかがでしょうか」

明:お便りありがとうございます。

明:そんなステキなお花屋さんがあるんですか、僕も今度行ってみたいと思います。

明:さて、次におかけする曲は・・・


場転

(花屋を探す白石)


明:えーっと・・確か、この辺りだったよな・・・

明:お、あった、あった、あのお店だな


(店に入る白石)


明:こんにちは


蒼:いらっしゃいませ


明:うわぁ、ホントにステキなお店ですね


蒼:ありがとうございます。

蒼:今日は何かお探しですか?


明:あ、僕、FMラジオでパーソナリティをやっている白石明(あきら)と申します。

明:リスナーさんから、とっても元気が貰えるお店という事で、ここの花屋さんを紹介してもらったんです。


蒼:そうだったんですか


明:ところで、失礼ですが、あなたがこのお店の店主さんですか?


蒼:はい、そうですよ。


明:そうですか、店主さんのお名前を伺ってもよろしいですか??


蒼:私ですか? 私は蒼(あおい)です。


明:蒼さんですか。


蒼:はい、よろしくお願いします。


明:こちらこそ、よろしくお願いします。

明:あの・・・それで・・・


蒼:何か気になった事でも?


明:はい、実はリスナーさんが、お店の花は蒼さんが咲かせてるって言うものですから

明:そんなバカなと思いながらも、ちょっと気になってしまって・・・


蒼:ええ、私が咲かせていますよ。


明:え? ホントですか? いや、まさか・・・

明:お花の栽培をされてるって事ですよね?


蒼:それは秘密です♪


明:ははは、ですよね。


蒼:あ、疑ってますね。


明:あ、いえ、そういう訳では・・・


蒼:じゃぁ、試しに何かお花の名前を言ってみて下さいよ。


明:花の名前ですか?


蒼:ええ、この季節に咲く花限定ですけどね


(白石、何かを察したように)


明:季節の花限定? あぁ、そういう事ですか、


(店の中を見渡す白石)


明:えーと・・

明:じゃぁ、今このお店には置いていない「ひまわり」なんかどうですか?


蒼:「ひまわり」・・・ですか。


明:ははは、やっぱりお店に無い花は無理ですよね?


蒼:大丈夫ですよ


明:本当ですか?


蒼:ええ、少々お待ちください。


明:・・・はい


(お店の裏に消える蒼)


蒼:お待たせしました。

蒼:はいどうぞ、ひまわりです。


明:うそ!

明:お店の奥に置いてあったんですか!


蒼:秘密です♪ うふ


(間)

(数日後)


明:蒼さん、こんにちは


蒼:明さん、また来たんですか?

蒼:もう今日で何回目ですか


明:今日こそは、絶対にお店の奥にも無い花を言ってみせますよ


蒼:もう何か違うゲームみたいになってません?

蒼:で、今日はどんな花にしますか?


明:今日は「コスモス」を下さい。


蒼:明さん、季節の花限定って言ったじゃないですか、今は7月、コスモスは秋の花ですよ。


明:でも、3月に種をまけば、7月に咲かせられるって本に・・・


蒼:それはそうですが・・・


明:やっぱり、こういうのは反則ですか?


蒼:ふー、明さんも勉強されたんですね。

蒼:じゃぁ今回は、それに免じて・・・


明:え! まさか・・・


蒼:少々お待ちください


明:ウソでしょ?


(お店の裏に消える蒼)


蒼:お待たせしました、はい、コスモスです。


明:蒼さん・・・あなた、まさか本当に・・・


蒼:ふふふ、それは秘密です♪ うふ


場転

(自分の部屋に帰って来る白石)


明:ただいま・・・

明:あー、今日もダメだったか・・・どうしてこの時期にコスモスまであるんだよ。

明:まさか本当に蒼さんが花を咲かせているんじゃ・・・

明:いやいや、そんな事ある訳ないだろ、絶対に店の奥に何か仕掛けがあるんだよ。

明:あぁ、でも、もうあの店に行き過ぎて、この部屋の中、花だらけだよ・・・・


(少しの間)


明:でも、花を飾るって癒されるなぁ・・・

明:最初は絶対にタネを明かしてやるって、あの店に通ってたけど

明:いつの間にか、蒼さんに会いに行ってるんだよなぁ俺。

明:このまま、蒼さんといい友達になれたらいいのになぁ・・・


(電話の音)


明:電話? 何だよ実家からか・・・


(電話に出る白石)


明:はい、もしもし

明:もう俺は実家には帰らないって言っただろ、だから、もうかけて・・・


明:え? 母さんが!?


(間)

(花屋)


蒼:(鼻歌)

蒼:あれ? 明さん・・・どうしたんですか、今日は2回目ですよ。


明:・・・


蒼:明さん?

蒼:どうしたんですか、そんな思いつめた顔をして。


明:・・・お花を・・・

明:お見舞いに持って行くお花をください。


蒼:あ・・お見舞い・・ですか

蒼:で、どんなお花にしましょうか。


明:シクラメンはありますか?


蒼:シクラメン・・・ですか?


明:はい、うす紅色のシクラメン・・・


蒼:・・・


明:やっぱり、無いですよね?


蒼:明さん・・・

蒼:シクラメンは10月以降の寒い季節に咲く花だという事はご存じですか?


明:ええ・・・知っています。


蒼:でしたら


明:無いとは思ったんです

明:でも、ひょっとして、ここならあるかもと思って。


蒼:何かあったのですか?


明:母が・・・倒れて入院しました

明:お医者さんが言うには、もうあと何日ももたないだろうって・・・


蒼:そんな・・・


明:母とは、昔、ある事が切っ掛けで、お互い上手く接する事が出来なくなってしまったんです。

明:それで今日まで来てしまったのですが、母がこんな風になってしまったら、なんだか急に母に申し訳なく思えてしまって・・・


蒼:そうだったんですか


明:昔、母が若いころ、シクラメンの花の歌が流行ったみたいなんです。

明:母はその歌が好きで、僕の名前もその歌の歌手の名前からとったと言っていました。

明:それから、うす紅色のシクラメンが好きになったらしいんです。

明:だからせめて、最後に母が好きなシクラメンの花を見せてやりたくて・・・


蒼:・・・


明:ごめんなさい、蒼さんは、季節の花限定だって何度も言っているのに、こんな困らせる事を言ってしまって・・・


蒼:・・・


明:他のお店を探してみますね

明:それじゃぁ、失礼します


蒼:明さん、シクラメンは、今はどこのお花屋さんにも無いと思いますよ。


明:そうかもしれませんね、それでも僕は探しに行かないと・・・


蒼:明さん


明:はい


蒼:・・・少々、お待ちください


明:え?


(間)

(お店の裏に消える蒼)


蒼:お待たせしました、うす紅色のシクラメンです。


明:そんな・・・蒼さん、あなたまさか本当に・・


蒼:うちの花には癒しの効果もありますから、明さんのお母様もきっと良くなりますよ。

蒼:でも、これが最初で最後です。


明:蒼さん・・・


蒼:さぁ、早く持って行ってあげてください


明:はい、有難うございます


(白石が店から去る)


蒼:ふぅ・・・


(間)

(次の日)


明:今日は蒼さんにお礼を言わないとな・・・あれ?

明:お店が閉まってる・・・こんな事今まで無かったのに・・・

明:裏口になら、いるかな


(裏口に回る白石)


明:確か、お店の裏だとこの辺りだけど・・・


(蒼をみつける白石)


明:あ、いた、蒼さんだ

明:蒼さーん!


蒼:あ・・・明さん・・・


明:今日はシクラメンのお礼が言いたくて来ました


蒼:そうですか・・・


明:ええ、母も喜んでくれました。


蒼:それはよかったですね。


明:でも、蒼さんって本当にお花が咲かせられる方だったんですね、ビックリしましたよ


蒼:・・・


明:ところで、今日はお店はお休みですか?


蒼:いえ・・・もうお店は閉めるんです。


明:え! どうしてですか?


蒼:季節外れの花を咲かせた時はお店を閉めようと、最初から決めていたんです。


明:そんな・・・どうしてそんな・・・

明:何とかお店を続ける事は出来ないんですか?


蒼:このお店を始めた時から、そう決めていましたから・・・


明:そんな・・・どうしてですか


蒼:・・・


明:蒼さん! 教えてください。


蒼:・・・昔、この街に来る前に、私は別の街でお店を開いていたんです。

蒼:そこで、良くしてくれた人に、とある事情で季節外れの花を咲かせてお渡しした事があったんですが、

蒼:そうしたら、その人から「魔女だ」と気味悪がられるようになってしまって、大好きだった街にもいられなくなって、

蒼:それで、逃げるようにこの街に来たんです。

蒼:ですから、もう季節外れの花を咲かせるのはやめよう、咲かせた時は黙ってまた他の街へ行こうと決めていたんです。


明:それなのに、僕の為に花を咲かせてくれたんですか


蒼:・・・ええ


明:それに、他の街へ行くって、どうして。


蒼:もうこの街にはいられなくなりますから


明:そんな・・・そんな、だってあれは僕が無理やりに


蒼:どんな事情でも、もうお花を売る事は出来ません、この先、どの街へ行っても、もうお店を開く事もないでしょう。

蒼:ですから、明さん、もうどうかお帰り下さい。


明:そんな・・・

明:嫌です!


蒼:明さん


明:もうお店をしないと言うなら、それじゃ、これからは大事な人の為だけにお花を咲かせればいいじゃないですか!


蒼:え?


明:蒼さん、僕と友達になってください。


蒼:そんな・・・だって私は・・・


明:僕の母は、あなたの咲かせてくれたシクラメンの花を見て

明:「ありがとう・・・ありがとう・・」って言ってくれました

明:涙をいっぱいためて、これまでの蟠(わだかま)りなんて、何もなかったかのように

明:僕に・・・僕に初めて「ありがとう」って言ってくれたんです。


蒼:明さん


明:そんな素晴らしい花を咲かせられる人が、魔女な訳がないじゃないですか、

明:いや、例え魔女だとしても、それがどうしたって言うんですか

明:僕は、そんな蒼さんをステキだと思います。


蒼:明さん


明:僕も、あなたの咲かせた花を見て、素直になれました。

明:蒼さん、これからは、僕の為に花を咲かせてくれませんか。

明:そして、もう何処へも行かないで、ずっとこの街で暮らして下さい。


蒼:こんな私でも、本当にいいのでしょうか?


明:ええ勿論です、僕とずっと一緒にいてください。


蒼:・・・はい


蒼:(モノローグ)明さんの言葉で、私はもう一度この街で生きて行く事になった。

蒼:(モノローグ)でも、もうきっとこの先、私がお店を開く事はないだろう

蒼:(モノローグ)これからは大切な人の為だけに花を咲かせる事にしよう・・・

蒼:(モノローグ)私はただ漠然とそう思っていた



明:(モノローグ)僕と蒼さんは友達になった

明:(モノローグ)蒼さんの咲かせたシクラメンには本当に癒しの効果があり、母の様態も奇跡的に回復していった。

明:(モノローグ)僕は、あの時のシクラメンの花をよく思い出す。

明:(モノローグ)これから先も多分、僕があのうす紅色を忘れる事はないだろう



蒼:この先、二人の関係がどうなるのか・・・

蒼:それはまた別の話


明:ねぇ、どうなるの?


蒼:それは秘密です♪ うふ


おわり


※この話は東久留米市のFMラジオ「FMくるめラ 大野・雲野は芝居したいRadio」用に書き下ろしたのシナリオを元に作成したものです。

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