第19話〈自分以外の全て〉
最寄りの駅で結衣と別れて、街灯の少ない暗い細道を一人歩く藤太の前に、腕を組んで待ち構えている人影があった。藤太はため息をついて声をかける。
「ほんと、神出鬼没っすね。貴陰さん」
そう呼ばれ、街灯の光の下に姿を現した草葉貴陰は、また全てを見透かすような視線を藤太に向けていた。
「私はいつでも君たちのそばにいる。守り神、フェアリーみたいなものだからね」
「……それは……心強い」
「だろう。時に、今日のデートでは君たち二人の関係性が深まったようだったが。成功と言って良いのかな」
「どうでしょーね。むしろ現実を突きつけられただけのような気がしますけど」
「現実?」
貴陰の表情はまるで、藤太のセリフを全て予見していたかのような余裕に満ちている。藤太は少し顔を顰めた。
貴陰に無言で促され、藤太は説明する。
「結衣の親父のことと、それと、改めて俺が『霊盲』だってことっすよ」
「なるほど、君が言いたいことはつまり、障害物の存在を再認識したということか」
貴陰は満足げに頷いた。街灯の灯りに照らされたまま、暗がりに立ちつくす藤太を見下ろすようにして言う。
「障害物とは、乗り越えるためにあるものだよ」
「……簡単に言ってくれるなァ」
藤太はため息をついて頭を掻いた。街灯の光が強すぎて、貴陰を直視することができなかった。
「それが乗り越えようもないほどにでかいから、何もできないんじゃないっすか。『霊盲』は俺に初期装備された機能不全。治すことのできない欠陥です。……あなたには分からないでしょうけどね。最初っから、生まれた時から人と同じ土俵に立てない人間の気持ちがあなたには分からないんだ。普通の人間とは見える世界がまるで違う、考え方とか価値観とかまで何もかも違って、一番近しい家族とさえ分かり合えない。強力な霊能力を持つあなたには理解し得ない感覚だ」
「確かに、君は周囲の人間達とは全く違う感覚を持っている。この霊社会においては、はっきり言って異端だ。けど、しかしね。異端だからと言って、間違っているとは言い切れないんだよ」
貴陰は街灯の下を離れ、ゆっくりと、藤太の暗がりへと歩み寄る。
「人間にはどうも、多数派の意見を正解と認識してしまう悪癖があるらしい。しかし『多い』イコール『正しい』ではないはずだ。君は、このように考えたことはないかな?すなわち『自分以外の全てが異常なのだ』と」
「……いや、そんな傲慢な考えはできませんって」
「ではそういう考えをするべきだ。私は、君だけが正常だと思っているよ。今のこの社会は異常だ。本来生者と死者は関わるべきではない。君はガリレオガリレイでいるべきだ」
「ガリレオも最後は裁判に負けて、地動説を捨てましたよ」
「表向きはね。だが、心中ではどうだったのかな」
ゴーン……と、寺の鐘がなる音が聞こえた気がした。この街にそのようなものは無いが。
貴陰は不敵に笑う。
「私には君の心中もよく見える。その上で、私は君達の恋を応援している。それは一体どういうことだろうね?私が思うに、君は自分自身を過小評価しているきらいがある。君という人間は本来、もっと反骨心の強い性質をしているはずだよ」
コツ、コツ、コツ。
一定のリズムで刻まれる足音と共に、貴陰はゆっくりと藤太の周りをぐるぐる歩く。
「結衣に拒絶されてから今に至るまでの何年もの間で、君は理解したはずだ。彼女の置かれていた状況と、それ故に彼女が下した苦渋の結論。そして考え続けた。彼女を解放する術を」
「考えただけです。でもそれは、男子なら誰でも一度はやってしまう『学校にテロリストが襲撃してきたら』という妄想と似たようなもので、とても実現できるようなものじゃない」
「そうかね?それを実現し得る『力』を持った者が君の目の前にいるではないか」
貴陰は藤太の目の前で立ち止まり、手のひらで自身を指した。
「そしてその者は、君に対してとても協力的だ」
藤太は訝しげに貴陰を見つめる。街灯の逆光で影になったその顔から表情は読み取れない。
「……あなたはずっと何を企んでいるんで?あなたの意図が分からない」
「それはずっと言っている。私は君を気に入っており、君と結衣の恋路を応援したいのだと」
二人はしばし無言で見合っていた。貴陰には藤太の考えていることが分かるが、藤太には貴陰の心中を読むことができない。
長いため息をついた後、藤太は尋ねる。
「俺の妄想を……実現してくれるんすか」
「実現するのは君さ。私はその手伝いをするだけのこと」
貴陰から視線を外し、頭を掻きながらしばらく考え込む。
「悪魔に契約を迫られてるような気持ちだ。上手くいったとしても、何か悪いことが降りかかるような……」
「悪魔との契約での失敗は、大抵悪魔のせいではなく契約者本人の行動に問題があっての因果応報さ。君自身が気をつければいいだけのこと、それに、君が悪魔の手を取らなければ、結衣は悪魔に娶られる運命にある。選択肢は一つじゃないのかい」
そう言って貴陰が伸ばす手を見つめつつ、藤太はポケットから『飲むヨーグルト』を取り出すと、ストローを刺してそれを吸った。
「こうなったら、魂でもなんでもあげましょ。一生に一度の大博打だ。俺の妄想の手伝いをしてもらえますか」
そう言って、藤太は貴陰の手を取った。悪魔が笑ったような気がした。
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俺は霊が見えない 繭住懐古 @mayuzumikaiko
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