不貞の朝
白川津 中々
◾️
妻以外の女と関係を持った。
相手は……分からない。酒の席で話をして、自然、そういう流れになった。名前も素性も知らない、ただの女だ。
「ちょっと酔いすぎたね」
乱れたシーツの上でそんな言葉をこぼす彼女に「そうだね」と返す。平常ではいられない。不貞の罪悪に揺らぐ。
しかし女を見ると、淡い光に当たった彼女の肉を思い出すと、不安の中にしっかり欲望が生まれ、劣情に流されたい気持ちが強く沸くのである。
どうかしてるな。
自嘲。同時に、自己の正当化がはじまる。社会通念で考えれば罪かもしれないが、野生では複数の雌に子種を残すことが常じゃないか。なぜ人間ばかりがそれを禁じられるのだ。性交欲求は生理現象と同じだ。避けられない衝動なんだと。
この時、妻を裏切っているなど、もし妻が知ったらどう思うかなど、考えもよらなかった。それどころか妻の顔も、存在さえも即座に忘れてしまって肉を求め、女もそれに応えてくれた。
「名前教えて」
そう聞く女の唇に蓋をする。そんなもの知らない方がいいんだ、お互いに。溶けていこう。溺れよう。それだけを求めよう。それがいい、それしかないんだ。二人の関係は、それだけのものだ。
不貞の朝 白川津 中々 @taka1212384
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