第28話ㅤ努力と才能
ㅤ時は少し
▼▼▼
ㅤナナと喋っているミャーリオに、嫉妬の眼差しを向けながら、セドリックがオリビアに近寄ってきた。
ㅤパンセリノスと遭遇した時の為の、打ち合わせの為である。
「──私、今まで一人で戦う事が多かったので、どうに戦っていいのか分からないんです」
ㅤ心配を口にするオリビアに、遠征慣れしているセドリックが複数人での戦い方を説明してくれた。
「複数人での戦闘は、主に『
ㅤ彼の分かりやすい説明で、パーティーを組んだ場合の戦い方が見えてくる。蜘蛛女との戦いでは、闇雲に応戦する事しか出来なかったが、仲間がいればいるほど、役割を分担していけるらしい。
ㅤ前衛の役割は敵の注意を引き、積極的に攻撃をする事。
ㅤ後衛の役割は遠距離から戦闘の補助をしたり、状況により攻撃を仕掛けたりするそうだ。
「──今回であれば、初心者のナナさんは後衛にいてもらうのが最善だと思います。彼女は支援魔法を使えるようですが、パンセリノス相手に魔法は一切使えませんから」
ㅤセドリックの言葉に、オリビアも
ㅤ『仲間にして』と彼女に言われた時に、少し説明を受けたくらいで、実際に見た事は未だにないのだが──
「分かりました。私は何をしたら……?」
ㅤオリビアが問い掛けると、セドリックは微笑んで言った。
「オリビアさんは、前衛で──魔物を引き付けて下さい。国王から
ㅤ
▼▼▼
ㅤ
ㅤ漆黒の
ㅤ
ㅤ
ㅤそして
──あれが、魔石ッ……!!
ㅤ雪原と
ㅤ抜刀した双剣を後ろに従え、魔物を中心に弧を描きながら走っていると、全長五メートル、体高二メートルの大きな体で、パンセリノスは高く飛び上がった。
ㅤオリビアを狙って前脚を振りかぶり、
ㅤㅤ
ㅤそれを瞬時に後方へ体を倒し、地面に擦りながら
ㅤ衝撃音と共に、爪で削ったラーヴァ岩が細かい粒子となって、雪の様に宙を舞う。
ㅤ素早く方向転換したオリビアは、パンセリノスの背後まで再度走って近付き、双剣を斜めに振り下ろした。
「はぁああああーッ!!」
──ギャア゛アアオオオオーッ!!
ㅤ体の後方に切り傷を負い、血飛沫が飛ぶ。怒りを含んだ獣の叫びが、メガロス山に
「ナナさんは、隠れていて下さい!」
ㅤセドリックの指示に、ナナは『本当に自分は戦わなくていいの?』と目を
ㅤそんな素っ気ない話し方をされても、セドリックは彼女を愛らしく感じて、微笑んで言った。
「──頑張ってね。と、貴方が笑顔で送り出してくれるだけで、充分です。そして戻った時には、僕らにおかえりと……。貴方が待っていてくれるだけで、生きる力が湧いてきますから」
「
「はい。好きになってもらえる様に、頑張ってきますから!」
ㅤナナに手を振り、セドリックも魔物に向かって駆け出した。
▼▼▼
ㅤ更に体を逆回転させ、オリビアは下ろした剣を一気に振り上げる。
ㅤ連撃を与えてくる
ㅤ細かい
ㅤしかし、それをオリビアは
ㅤ剣を構え直し、両者の視線が絡み合う戦場に、セドリックが迫っていた。
ㅤ
ㅤ鮮血が飛び散り、純白の景色を赤く染め上げても、彼の黒い瞳はただ真っ直ぐに、魔物の姿だけを
ㅤセドリックの
ㅤ痛みで叫び声を上げる魔物に、オリビアもその感情を共有している様に、苦痛の表情を浮かべた。
「……ごめんね」
──すぐに、終わらせるから……。
ㅤオリビアは剣を振りかぶったまま、高く飛び上がった。
ㅤ身を
ㅤ大きな
ㅤ倒れた体の重さで、ラーヴァ岩の白い粒子が風で舞い上がり、雪の様に散る中。
ㅤオリビアは剣に付いた血を払い、静かに
▼▼▼
《※ミャーリオ視点》
ㅤ両親との記憶でまず覚えているのは、炎に包まれた故郷の町と、魔物の咆哮。
ㅤそして子供ながらに涙を堪え、まだ幼い俺の手を握る、姉貴の手の温もりだった。
ㅤ町の境界まで避難してきた人々は、為す術もなく、赤く燃え盛る景色を見つめていたのだが──
ㅤ俺達の目の前に立っている両親は、『これからあの町に戻る』のだと言う。魔物と戦える力があったのは、父さんと母さんしか居なかったからだ。
ㅤ呆気に取られ、理解も追い付いていない俺の隣で、震えながら姉貴は二人に何かを叫んでいた気がする。
ㅤ会話の内容までは、もう細かく覚えてはいないけど──そんな俺達を、最後に抱き締めた母さんの温もりだけは、今でもはっきり覚えている。
「……カリーナ、ミャーリオ。私たちの、特別な宝物……。ずっと、貴方たちを愛しているわ」
▼▼▼
ㅤ真っ白な空間で、一人の男の子が机に向かい、何かを勉強している背中が見える。
ㅤその子は魔法について記された本を大量に積み、角の欠けた魔導書を何度も読み返しているようだった。
『……どうして、僕には魔法が使えないの?』
ㅤ子供の時の自分の声が、頭に響く。
──そんなの……俺が一番、知りたいよ。
ㅤ父さんと母さんは、魔力が発現しない無属性の俺を変わらず愛してくれた。姉貴は魔法が使えたけど、それでも
『ミャーリオ、お前だけ魔法が使えないんだってな!ㅤいつまでこんなもん読んでんだよ!ㅤどうせお前は、魔法が使えるようにならねーんだからさッ!!』
ㅤ心無い、子供の声。腕の中から奪われ、水溜まりに投げ捨てられた、愛用の魔導書。
ㅤ目の前の光景に、……涙も出ない。
ㅤ無邪気な子供の言う言葉でも、小さかった俺の心を引き裂くには……充分だった。
ㅤ『努力すれば、両親のように魔法が使えるようになるかもしれない』と、期待を止められず──毎日必死に本を読んで、方法を探した。
ㅤ天に指を伸ばして神様に念じてみたり、『今日から使えるようになっているかも』と、何も無い空間に期待を込めて、手をかざしたりもした。
ㅤしかし、俺は大きくなるにつれて悟ったんだ。
ㅤ『努力なんて無駄』なんだと。
ㅤ『才能には勝てない』のだと。
ㅤ『俺は、……特別な宝物でもなんでも無い』──ただの能無しなんだって。子供の時に描いた夢なんて、とうの昔に諦めている。
『……本当にそれでいいの?』
ㅤ机に向かっていたはずの男の子が、いつの間にか俺の目の前に立っていた。
ㅤ何もない白い世界で、眼鏡をかけた子供の頃の自分が、表情も変えずに問い掛けている。
『……何もかも、諦めてしまうの?』
──魔法や冒険なんて……俺には何の関係もないし、興味もない。夢なんて見たって、才能がなければ無駄でしかないんだから。
『本当に、今までの努力は無駄だったの?』
──そうだよ。あんな物にたくさんの時間を費やしたなんて、……笑っちゃうね。
『……それなら、どうして今も──
部屋に散らばってる魔導書を捨てられないの?』
ㅤその言葉で俺は、夢から目覚めた。
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