第02章 繋がる縁、広がる世界。
第21話ㅤ王都からの訪問者
ㅤオリビアが目覚めてから、更に二日後。
ㅤデリカリアの冒険者療養施設で治療を受けたオリビアは、自由に動けるほど体が回復していた。
ㅤ施設は二階建ての
ㅤいつでも冒険者の支援を無償で出来るようにと、前王が定めた制度であった。
ㅤオリビアは建物の階段を上がり、とある部屋の扉を開く。そこはシンプルな広い病室で、六個のベッドが置かれていた。
ㅤ一つを除いて、他のベッドは幸いにも空だったが、オリビアはアキの眠るベッドに近付く。
ㅤ白いシーツと掛け布団に包まれた彼の顔色は、以前に見た時よりも
ㅤ
ㅤ
ㅤ魔法師の
「今日も眠ってるか……」
ㅤオリビアの声が、静かな部屋に響く。
ㅤアキが未だに眠り続けている理由は、魔力が限界まで
ㅤ魔力は時間の経過と共に回復する。安静に過ごせば、そのうち目を覚ますだろう。との、
ㅤオリビア達と共に運び込まれたライゼルは、早々に傷口が
ㅤ蜘蛛女に
──体もかなり動くようになったし、何か自分に出来る事がないか情報収集に行こう。
──アキさんが目覚めた時に、少しでも力になりたい。
ㅤ『魔力を抑制出来ない』と気にしていた彼の悩みを解決する為、オリビアは情報収集に出掛ける事にした。
▼▼▼
ㅤメイン通りに位置する、木造の酒場に向かったオリビアは慣れたように扉を開ける。ドアベルが鳴り響き、「いらっしゃいませ〜!」と甘ったるい女性の声が響いた。
「あら、オリビアちゃんじゃない!」
「こんにちは、ユリアさん」
ㅤオリビアに気付いたユリアは、陽気に店内へと招き入れる。彼女は40代の女店主で、ふくよかな体型と癖のある赤毛を編み込んだ髪型が、印象的な人だった。ユリアも、師匠アテナとは知り合いである。
ㅤ店内は木製のテーブル席がたくさんあり、その大半の席が埋まる程の盛況ぶりだ。客の賑やかな声が響き渡っている。オリビアは、入口近くの空いているテーブル席に腰を下ろした。
ㅤ
「今日はどれにする〜?」
「じゃあ……いつもの下さい!」
「オリビアちゃん、本当にお肉好きよね〜!ㅤすぐ用意するから、ちょっと待っててね〜!」
ㅤ片足を引きずりながら、ヨタヨタとユリアは厨房に消えていく。
ㅤ彼女は10年前に魔物に襲われ、その時に負った怪我の後遺症が未だに残っているのだと、出会った時にそう聞いていた。
ㅤこの酒場には冒険者がよく訪れる。更にユリアはお喋りが大好きで、国の情勢や噂話をよく知っていた。
──ユリアさんなら、眠り続けてる人を起こす薬とか、魔力をコントロール出来る道具の情報を知ってるかもしれない。
ㅤオリビアは淡い期待をしながら、食事が届くのを待った。
▼▼▼
「う〜ん。聖魔法師が治療しても、その子は目を覚ましていないんでしょ〜?ㅤそんな夢みたいな薬は知らないわ〜」
「そうですか……」
ㅤ食事を持ってきたユリアに「昏睡状態の人を目覚めさせる薬」が存在するか尋ねてみたが、良い返事は
──やっぱり、アキさんの経過を見守るしか出来ないのかな……。
ㅤオリビアは残念そうな表情を浮かべながら、ステーキを切り分け、口に運んだ。鉄のプレートに乗った肉の塊は出来たてで湯気が立ち、香ばしい匂いを漂わせている。
ㅤ肉から出る油が跳ねているのをお構い無しに、ナイフで切り分けて食事を続けた。
「例えばなんですけど、魔力をコントロールする石とか、薬とかもないですかね……?ㅤそんな物ないか……」
「ん〜。そんな石があるかは、聞いた事ないけど……。もしかしたらあの子なら、何か知ってるかも〜!」
「え……!」
ㅤオリビアは思わず、喜びで声を上げる。さすが噂好きのユリアだ。こんなにすぐ、有力な情報が手に入るとは。
「どんな人ですか!?ㅤどこにいるんですかッ!?」
「うんと、デリカリアのすぐ近くに『ヘレネス』っていう、小さな町があるの。そこで、魔力について研究してた子がいてね──」
ㅤユリアが話している途中で、店の扉が勢い良く開いた。ドアベルが忙しなく鳴り、近くにいた人達は驚いて、入口に目を向ける。
「オリビアちゃん、ここにいない!?」
ㅤ
「はい、オリビアはここにいますが……」
ㅤ控えめに立ち上がりながら、オリビアは手を挙げる。すると、ベティは急いで近づいてきて言った。
「王都騎士団の方が、オリビアちゃんを訪ねてきたの!ㅤ今、宿屋でその方を待たせているから、すぐに戻って来て!」
▼▼▼
ㅤ急いでステーキを口に詰め込み、宿屋に向かったオリビアを待っていたのは、若い男性の騎士だった。
ㅤ宿屋の一階にある、木製の受付カウンターの近くに彼は立っている。たまたま他に客も居ないおかげで、訪問者が誰なのかすぐにオリビアも気が付いた。
ㅤ黒髪の整えられた短髪は、お
ㅤ重厚なシルバーの
「貴方が冒険者、オリビアですか?」
「はい、そうですが……」
ㅤ爽やかな黒髪の騎士の声に応えると、彼は羊皮紙を一枚取り出して言った。
「ベルラーク王国、ダグラス王からの
▼▼▼
ㅤ王都の中心部にそびえる、白い煉瓦で出来た立派な城の中。ベルラーク王国、現国王ダグラス・ベルラークは玉座に座り、羊皮紙に目を通している所だった。
ㅤ金糸の
「ほう……。冒険者ランク、適正外のドスプンジャリオを倒した者か。……興味深い」
ㅤ王の渋い声が、広い玉座の間に響き渡った。
ㅤ大きなステンドグラスの窓から陽の光が差し込んで、白い大理石の床にたくさん散りばめられている。
ㅤ「うーん」と
「はい。調べによると、冒険者になって
ㅤ男は40代くらいの細身の貴族で、背筋を伸ばしたまま持っていた報告書に目を向けている。
「ほう……。それは、更に興味深い」
ㅤ王は少し口元を吊り上げて言った。
「到着次第、その者をすぐに連れて来るように」
「承知しました」
ㅤ静かな玉座の間に、二人の男の声だけが響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます