第13話ㅤ仲間になる理由
〈※ライゼル視点〉
──俺は『最強』にしか興味がない。
▼▼▼
ㅤ試験を受ける前までは、俺は故郷フレイシアで暮らしていた。『フレイシア』とはベルラーク王国の北東に位置する、小さな街だ。
ㅤ
ㅤ彼女の功績を聞く度に、心が
ㅤ彼女の様に強くなりたい。誰にも負けない『最強の剣聖』になりたい。と、志したが……実際の
ㅤ戦士とは──戦いの最前線に身を投じる、『強さ』の象徴だと思ってる。だから魔王討伐も果たさずに一線から
ㅤ
ㅤそもそも、冒険者になりたいという
ㅤ『アイツなら大きな戦果を挙げるはずだ』と、そう称えられ、自信がついていた矢先。あの女に出会った。……まさか剣聖が弟子を取っていたなんて、思ってもいなかった。
ㅤあの女と、正面から
ㅤ全てが気に入らない。戦いから逃げた剣聖も。そんな彼女に
ㅤ『最強』の称号は、誰にも譲らない。圧倒的な強さを求めて、進んでいく。その歩みを邪魔する奴は、誰であろうが許さない。
▼▼▼
〈※オリビア視点〉
ㅤ森で魔物を倒した後、オリビアとライゼル
ㅤ夜を迎えた街路に人は少なく、点々と街灯が灯っているだけだ。煉瓦造りの建物ばかりなのはデリカリアと変わりないのに、寂れた街の雰囲気を感じていた。
▼▼▼
ㅤ『ご飯も一緒に食べよう!』というエミリーの押しに負け、流されるように酒場に向かう。
ㅤ『あの女と一緒に飯なんて嫌だ』と嫌がるライゼルに全く動じる様子もなく、彼女は『なら、貴方は別のテーブルで食べたらいいじゃない!』と強気な態度だ。
ㅤ酒場の中には客が数人いるだけで空席が目立ち、
「え、オリビアってパーティー組んでないの!?ㅤ……ソロって大変じゃない?」
「……え。パーティー?」
ㅤ同じテーブルに座るエミリーに、そう尋ねられたオリビアは、不思議そうに首を
ㅤ試験に受かった後の話をしていただけなのに、エミリーは自身の緑眼を大きく見開いて、かなり驚いた表情をしている。
「──っは!ㅤパーティーも知らねーのかよッ」
ㅤ離れた席で食事を取っていたライゼルが、こちらを見ながら悪態をつく。すかさず、エミリーが注意したが、開き直ったような態度で彼は食事を続けている。
ㅤ『パーティー』とは、冒険を共にする仲間の事。『ソロ』とは、冒険を一人でする事なんだと、エミリーが優しく教えてくれた。
ㅤ誰かと一緒に冒険をするなんて、オリビア自身考えたこともなかったが、ドスプンジャリオに悪戦苦闘した時の事を思い出す。
──確かに私に仲間がいたら、村への被害が少ない状態で、もっと早く倒せたはずだ。誰かとパーティーを組むのも、良いかもしれない……。
ㅤ今日戦っていた彼らの連携は、仲間と呼ぶに
ㅤオリビアはライゼルに聞こえないように、彼女に小声で尋ねた。
「ねぇ、エミリー。……パーティーってどうやって組んだらいいの?」
ㅤ
「オリビア、面白い事言うのね!ㅤ普通に『私と一緒に行ってくれませんか?』でいいのよ!」
ㅤ肩先までかかっている、フワッとした癖のある髪が揺れる。ケラケラと笑うエミリーを、遠目からライゼルともう一人の仲間が、
──そっか。そうやって普通に誘うのか……。
ㅤ楽しそうにオリビアの肩を叩いて笑うエミリーに、続けざまに気になった事を尋ねた。彼女達がどうに仲間になったのか、知りたくなったからだ。
「私とライゼルは──幼馴染なの。あの人は我関せずって感じだけどね。ライゼルが旅立った後、親の反対を押し切って冒険者になって、組んだって感じかな!」
ㅤそうに語る彼女の頬は、少し赤らめているように見えたが、オリビアには知る由もない。
──なるほど。彼女がライゼルの行動に慣れた様子があったのは、幼馴染だったからなんだ。
「そういえば、サムは何でライゼルと組んだの?」
ㅤ唐突にエミリーがもう一人の仲間である、サムに尋ねる。彼は鉄の鎧を付けた黒髪の若い男性で、淡々と『強い人についていきたいと思ったから』と安直に答えた。
ㅤ色んな理由で冒険者がパーティーを組む事を知ったオリビアは、ぼんやりと自分の新しい仲間を想像して、期待に胸を膨らませていた。
▼▼▼
「どうして嫌なのッ!?」
「アイツが気に入らねーからだよッ!」
ㅤ食事を終え、一行は外に出たが……エミリーとライゼルは街路で口論を始めた。オリビアを仲間にしたいという彼女の発言に、ライゼルが反対したからだ。
「今日だって、オリビアが魔物の弱点を知っていたから、何とか倒せたんだよ?ㅤそれなのに──」
「──アイツと組むつもりはねぇッ!」
ㅤライゼルは苛立った様子でオリビアを見ると、舌打ちをしてその場から立ち去って行った。呆れた様子で、サムが彼の後ろをついていく。
──私だって、アイツと同じパーティーとか願い下げだわ!ㅤ師匠を馬鹿にしたこと、まだ許せてないんだから……。
ㅤ静かにライゼルに苛立つオリビアに、エミリーは頭を下げて謝罪した。
ㅤそして「また会おうね」とローブをはためかせ、慌てて彼らを追い掛けて行く。
ㅤ彼女達の背中を見送り、落ち着きを取り戻したオリビアは途方に暮れた。人通りのない街路、知らない街に取り残されて、一人ぼっち。
──宿でも探すか……。
ㅤ歩き出そうとした時、建物の陰で座り込んでいる男が視界に入った。膝を抱えて座っている男の腰には、剣が差してある。
「あの、大丈夫ですか……?」
「……」
ㅤオリビアがそっと話し掛けると、男はゆっくり顔を上げた。月明かりに照らされた彼の顔は、見覚えがある。少女との約束が、一気に蘇った。
「貴方はッ……クベル村の……」
ㅤ男は村から姿を消した、緑光の旅人だった。
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