第12話ㅤ死の口付け
ㅤ宴の終わった、昼下がり。村の入口付近でオリビアは出発の準備をしている。
ㅤ「夜も食べてね」と、村人に焼いた肉を分けてもらった。
ㅤ受け取った
ㅤその中には、長老やユミトもいる。
長老は改めてオリビアに頭を下げた。
「この度は、
「ありがとうございます。また来ます!」
「姉ちゃん、また来いよ!」
「元気でね!」
頭を下げ返したオリビアに、村人は思い思いの言葉で別れを告げる。
ㅤそれぞれの言葉に律儀に挨拶を返していると、
ユミトがこちらに向かって手を振った。
「オリビアお姉ちゃん!ㅤ……約束ッ! 忘れないでね!」
「うん! 絶対忘れないよ!」
ㅤオリビアも、手を振り返す。クベル村に別れを告げ、デリカリアへ戻る旅路を歩き始めた。
ㅤ
──消えた旅人へ思いを
▼▼▼
「ここは、どこだ……?」
ㅤクベル村を出て、数時間。デリカリアには半日で着くはずだった。
ㅤしかし、オリビアは森で迷子になっている。
ㅤ周囲に広がる、深い森。旅立ちの日に半日歩き続けた、悪夢が再来中である。
「そういえば、行きは馬車に乗せてもらったんだった。長老さんに聞いておくんだったな……」
ㅤ気付くのが遅すぎて、クベル村への戻り方さえ、もう分からない。周りを見渡しても、似たような景色が続いているだけだ。
ㅤ真上を見上げると、生い茂る葉の隙間から茜色の空が見える。
──まずい。日も暮れてきたし、村でも街でもどこでも良いから、辿り着けないかな……。
ㅤ『野宿』という言葉が頭をよぎり始めていた、その時。
ㅤ遠くの方から、地面が崩れたような衝撃音が響いた。続けざまに、更に同じ爆発音が二回鳴る。
──この間隔の空いた音は一体……。魔物が暴れているのか?ㅤもしくは、冒険者が出した音なのか?
ㅤオリビアは耳を澄ませ、音のする方向へ駆け出した。
▼▼▼
ㅤ音の
ㅤフィリタナトスとは──通称『死の口付け』と呼ばれている、植物の魔物である。
ㅤ緑色の触手を地面に
ㅤ赤や黄色の大きな花を咲かせていて、花の中心部から
ㅤフィリタナトスは、根元からたくさんの触手を出して冒険者達に襲い掛かるが、応戦している彼らも負けていなかった。
「エミリー!ㅤ火炎魔法をッ!」
「分かってるッ……!ㅤ『
ㅤエミリーと呼ばれた茶髪の若い女は、丈の長い紺色のローブを波のように揺らし、
ㅤローブの隙間から、膝丈のプリーツスカートが見える。戦闘に不向きな服装は置いといたとしても、彼女はきっと……魔導師だろう。
ㅤ彼女の目の前に赤い魔法陣が展開されると、魔物に向けて複数の火炎魔法弾が放たれた。
ㅤその攻撃魔法は魔物や地面にぶつかり、激しい音を立てて爆発していた。
──さっきから聞こえていたのは、この音だったのか。
ㅤエミリーが魔法を放つ横から、今度は剣を持った二人の男が駆け出していく。
ㅤ二人は鉄の
ㅤ鉄の
「──行け、ライゼルッ!」
──見るだけでげんなりする、あの赤髪はまさか……。
「……くたばれッ!」
ㅤライゼルは力を込めて、横に剣を振り抜く。
ㅤ人間の三、四人分くらいの太さの
ㅤライゼルの攻撃の鋭さは、なかなかの物だ。遠目から見ていても、それを感じる。試験を終えてから、きっと鍛錬を積んでいたんだろう。
ㅤしかし──そこじゃない、弱点は。
ㅤオリビアは険しい顔で戦況を見つめていた。
「ちょっと!ㅤ何で死なないの!?」
ㅤエミリーは焦った声で、ライゼルに
ㅤ赤髪の男は
ㅤ攻撃を受けたにも関わらず、斬られた茎が再生していく。この魔物は、自己再生する
「クソッ……!ㅤもう一度行く──」
「嫌ぁああああッーー!!」
ㅤライゼルが指示しようとした瞬間、フィリタナトスが地面に這わせた触手によって、魔導師の女が捕らえられた。足首に巻き付いた触手が、一気に彼女を地面に引き
ㅤ悲鳴が響き渡り、緊迫した空気が流れた。
ㅤ空中に持ち上げられた
「やだ、やだぁぁあッ……!!ㅤ死にたくないッ!!ㅤお父さああああんッ!!」
ㅤ反射的に、オリビアは魔物に向かって駆け出した。走り出した人影に気付いたライゼルが、赤い宝石の様な瞳を見開く。
「お前ッ……!」
ㅤ迫り来る触手を、オリビアは次々に斬り捨てていく。聞こえてくるのは、通り抜ける風の音と剣の斬撃音だけだ。
ㅤ無数の触手が襲いかかっても、彼女は一本の剣だけで応戦していた。その剣さばきには、戦闘に慣れた者の落ち着きを感じる。
ㅤフィリタナトスの目の前に辿り着いたオリビアは高く飛び上がり、女を捕らえていた触手を素早く斬り離す。彼女を片腕で抱え、空中で一回転しながらライゼルに叫んだ。
「──根を!ㅤ斬ってッ!」
「……根?」
ㅤ戦闘に飛び入りしてきた者の言葉に、男たちは戸惑った。
「俺に指図すんじゃねーよッ……」
ㅤライゼルは悔しそうな顔をしながらも、言葉の意味をすぐに理解し、行動に移した。魔物の根元に目掛けて、一気に剣を振り下ろす……!
「──『
ㅤ彼の斬撃は魔物の根元どころか、地面をも
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