第3話ㅤ始まりの街、デリカリア


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ㅤオリビアの冒険は、険しい旅の始まりだった。


ㅤ歩いても歩いても、森、森、森。同じ景色が続いていた。自分の向かっている方向が合っているのか、よく分からなくなってくる。


ㅤしかも、オリビアはアテナに拾われてから、森から一度も出た事がない。デリカリアだって、初めて向かう街だ。


ㅤそれなのに、土地勘もなければ地図もない。大雑把おおざっぱに方角だけしか教えて貰えなかったオリビアは、自分の状況に思わず溜息が出た。


──街までちゃんと辿り着けるのかな……。


ㅤ森の中を進みながら、どんどんオリビアは憂鬱になってきた。だけど、もう前に進み続けるしかない。


ㅤデリカリアへ行って、冒険者になる。それが彼女にとっての最優先事項だからだ。



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ㅤ森の中を半日歩き続けていたオリビアは、初めて広い道に出た。舗装ほそうのされていない、草木が伐採されただけの土の道が続いている。


ㅤ森の景色に飽き飽きしていたオリビアは、これだけで感動するほど疲れ切っていたし、不安でいっぱいだった。


──馬車が通ったりする道だろうか?ㅤどっちに行けばいいんだろう。


ㅤ右なのか。左に行くべきか。どちらを選んでも、道の先は見えない。デリカリアへの行き方を知らないオリビアは、どっちに進んでいいか分からず、悩んでいた。


ㅤすると、遠くから人の騒ぎ声が聞こえてくる。オリビアは咄嗟とっさに、声の聞こえた方向に走り出した。



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ㅤ駆け付けると、行商人ぎょうしょうにんの馬車が魔物に襲われていた。行商人の小太りの男性は、青ざめた顔で闇雲に短剣を振り回している。


ㅤ馬車を囲んでいるのは、ブロンテーシープ。電撃技を使う、羊の魔物だ。数は五体で、人間の子供の程度大きさ。


──あれくらいなら、すぐに倒せる。


ㅤ困った人を見過ごせないオリビアは、駆け出しながら剣を抜く。二本の剣を構えたオリビアは、次々に魔物を倒していった。


「……よし」


ㅤ魔物を難なく倒したオリビアに、行商人の男は歓喜の声をあげる。


「ありがとう!ㅤ魔物に囲まれた時は、どうしようかと思ったよ!ㅤ是非、お礼をさせて欲しい」


「それなら……私、デリカリアという街に行きたくて。行き方を教えて欲しいのですが……」


「デリカリアか。その街なら近くを通るから、乗せていってあげるよ」


「……ありがとうございます!」


ㅤ運良く行商人の馬車に乗せてもらえたオリビアは、馬車に揺られながら遠くなっていく森の景色に視線を送る。


ㅤ青い空と、どこまでも広がる見知らぬ土地。


ㅤアテナのいない初めての冒険。戸惑いもまだ残っている。


ㅤ緊張と不安がありつつも、初めての景色を見る高揚感こうようかんと、アテナに貰った剣を使えたという喜びで、感情が目まぐるしく変化していた。


──きっと大丈夫。師匠の教えは、決して無駄にはならない。


ㅤ始まった冒険に、胸を踊らせながら。オリビアは大切そうに、剣の柄に触れていた。



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ㅤ行商人の男と別れ、デリカリアの街に着いたオリビアは、石造りの門の前にいた。


ㅤ門の奥には煉瓦れんがで作られた街並みが続いている。街には活気があり、人の賑わう声が門の外まで響いていた。


ㅤ露店が並ぶ街路に、オリビアの心はすごく惹かれていた。なんだか、美味しそうな食べ物の匂いもしている。


──お腹が空いてきたなぁ……。だけどまずは、冒険者登録をしないと。どこでするんだろう……。


ㅤ辺りを見回していると、オリビアは甲冑かっちゅうを身に付けている門番の男に呼び止められた。


「……もしかして、オリビアさんですか?」


「はい……?」


「私は、アダムの息子です。うちの父が、アテナさんに大変お世話になっていて……」


ㅤアダムというのは、オリビア達が住んでいた家の隣町に住んでいるお爺さんの事だ。数日前に野菜を分けてくれたばかりなので、まだ記憶にも新しい。


ㅤ二人はお互いに挨拶を済ませると、門番の男はオリビアに尋ねた。


「冒険者ギルドをお探しですか?ㅤそれなら、あの建物で登録が出来ますよ」


「ありがとうございます!ㅤでも、何で私が探している事をご存知なんですか?」


「ああ、アテナさんから手紙が届いたんですよ。この街に弟子が来たら、面倒を見てくれと」


「え……師匠が?」


ㅤアテナは事前にオリビアの人相にんそうを門番の男に知らせていて、案内を頼んでいたらしい。


ㅤあんなにもサラッと別れた師匠が、実は自分の事を心配してくれていた。そんなさりげない親心が伝わり、オリビアは胸が熱くなっていた。



▼▼▼



「はい、これで受付は終わりです」


ㅤ木造で作られた冒険者ギルドの受付で、オリビアは紙に名前を書き終えた。受付をしてくれたお姉さんによって、志願書は受理されたようだ。


ㅤ受付嬢のお姉さんは長い金髪をゆるやかに巻いていて、とても美人なギルドの看板娘である。


「明日の朝、またここに来てくださいね。冒険者試験に合格したら、正式に登録させて頂きます」


「分かりました!」


ㅤ冒険志願者は、試験を受ける仕組みになっているのも此処ここで初めて聞いた。師匠からそういう細かい説明も、一切なかったもんな……。


ㅤギルドの中は広く、壁に掲示板けいじばんがあったり、食事処なんかもあるようだ。


ㅤ辺りを見回していると、一人の男がオリビアに聞こえるように言葉を発した。


「見ろよ、あの女。無装備とか……冒険者、舐めてんのか?ㅤああいう、弱そうな奴がすぐやられんだよッ!」


ㅤ見下すような言葉。嘲笑あざけわらうような声がした方を見ると、複数の若い男たちがテーブル席につきながら、オリビアを見ている。

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