第15話 消えた旅人の行方
▶▶▶
あれよあれよと長老の指示で準備が進み、昼には討伐したプンジャオの全ての肉が解体され、屋外に組まれた大きな焚き火で串焼きにして、宴が始まった。
美味しそうな、香ばしい肉の匂いが辺り一体に漂い始めた。
村の子供も大人も皆集まり、屈託の無い笑顔を浮かべて焼けた肉を口いっぱいに頬張っている。
「美味いなー!!」
「久し振りにお肉食べたよ!」
「美味しい...!」
と、すごく楽しそうに盛り上がっていた。
それをオリビアは嬉しそうに眺めながら、焼けた肉を口いっぱいに頬張った。
「本当に美味しい...!」
村人は焼けたプンジャオの肉を、どんどんオリビアの所に持ってきては、
「ほら!もっと食べて!」
「食べなきゃ力が出ねーからな!」
「美味しいね!」
皆笑ってオリビアの肩を叩いてきたり、寄り添ってくれた。
元々孤児だったオリビアは、こんなに大人数で食事をする事自体初めてだったが、村人達の温かさが身に染みて伝わったのだった。
(これが家族の、人の温かさなのかな...)
そんな事を思っていた。
▶▶▶
宴が中盤に進んだ頃、
「オリビアお姉ちゃん!」
と、ユミトが駆け寄ってきた。
なんだか様子がおかしい。
「お兄さんがいないの!見つからないの!」
「お兄さんって...」
オリビアの脳裏に浮かんだのは、怪我を治してくれた若い旅人の顔だった。
「お肉焼けたから一緒に食べようと思って!お兄さんの事呼びに行ったんだけど、お部屋に居なくて...。探したんだけど、何処にも居ないの...!」
「どうして急に...」
と、2人が話していると、
「あ!俺、見たよ。その人、剣を持った人だろ」
村人の一人が声を上げた。
「え!お兄さんどこにいるの?」
ユミトが尋ねると、うーん。と男は思い出そうと考え込んで応えた。
「確か村の入り口の方に歩いて行くのを見たよ。まだ朝だったかな。で、声掛けたんだけど「もう行かなきゃだから」って、そのまま行っちまったんだよ」
男がそう言うと、ユミトは「そんなぁ...」とショックで俯いてしまった。
ちゃんとした別れも言えずに、誰かと別れる事の辛さをオリビアは誰よりも知っている。
脳裏に浮かんだのは優しい両親の顔と──
──妹の小さな手の温もりだった。
ユミトの髪をそっと優しく撫でると、ユミトはオリビアの懐に抱きついてきた。
何故旅人が急に居なくなってしまったのか。と、オリビアは思考を巡らせた。
何か急用があったのだろうか...?
元々今日の朝には、ここを発つ予定だったのだろうか...?
それとも何か、別の事情が...。
考えても答えが出てくる訳では無いが、オリビア自身もちゃんとお礼が出来ていないし、あの何とも言えない不思議な空気感を纏っていた旅人が少し気掛かりになっていた。
「ユミト」
「...?」
「何処かで私があのお兄さんと出会えたらー」
髪を撫でられながらユミトが顔を上げ、オリビアと目が合う。
「勝手に居なくならないで。って代わりに肩にパンチして、必ず此処に連れてくるから」
「また会える...?」
「うん。頑張る」
「約束...?」
「うん、約束だよ」
▶▶▶
宴も終わった、昼下がり。
オリビアは荷物を整えて、出発の準備をした。
「また夜に食べてよ!」と村人に分けてもらったプンジャオの肉を背負い袋に詰めて背負うと、立ち上がって長老の家を出た。
家を出ると村人が勢揃いで集まっていて、長老やユミトもいる。
長老は頭を下げて言った。
「この度は、
「ありがとうございます。また来ますね」
オリビアが頭を下げ返すと、
「姉ちゃん、また来いよ!」
「元気でね!」
村人は思い思いの言葉で、オリビアに別れを告げた。
それぞれの村人達の言葉に「はい!」「皆さんもお元気で!」と言葉を返すオリビアに、
「オリビアお姉ちゃん!」
ユミトが大きな声で名前を呼んだ。
「約束!忘れないでね!」
「うん!ユミトの事も忘れないよ」
「ありがとう、絶対また来てね!」
「うん、必ずまた来るから!」
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