第13話 少女ユミトと緑光の旅人


仰向けに横になったまま少女の隣に目をやると、若い男が座っていてオリビアの体に向けて両手をかざしていた。


端正な顔立ちで、明るい甘栗色の髪色をした物静かそうなその男は、両手から緑色の柔らかな光を放っていた。


その柔らかな光がオリビアを包んでいて、ものすごく温かくて、気持ちが安らいでいく。


(これは、回復魔法だ...)


オリビアはすぐに悟ったが、回復魔法を使う為にはある程度魔法に適正のある者、更に何年も修練を積まないと実戦で使えるようになれないと、昔アテナから聞いた事がある。


その為、回復魔法を使える聖魔法者は重宝されて、病院や教会で勤めたり、王族直属の王都魔道士として戦地に赴いたりして優遇されるのだとか...。


(もしかして、お医者さんだろうか...?)


と、オリビアは思った。


次第にかざされていた両手の光は弱くなっていき、男が手を下ろした事で消えて見えなくなった。


オリビアはそっと腕を動かしてみたが、戦いで受けたはずの痛みが無くなっている。


横になっていた体をバッ!と起こし、あちこち自分の体を隈なく見てみたが、右手首の腫れも消え、体の疲れや痛みも感じない。


「...すごい!!」


思った事が思わず口から出てしまったオリビアは恥ずかしくなり、咄嗟とっさに口をつぐんだ。


そしてオリビアは座ったまま、少女と若い男に向き直り、丁寧にゆっくり頭を下げた。


「怪我を直していただいたんですよね?ありがとうございます。...助かりました!」


オリビアが顔を上げると少女は嬉しそうに笑い、若い男は黙ったままペコッと会釈をした。


「お姉さんもありがとう!」


「え?」


「昨日、おっきな怪物倒してくれたでしょ?」


少女は目を輝かせ、オリビアにお礼を言った。


師匠と一緒に暮らしている時は、魔物を倒す事は生きる為には当たり前で、強い戦士になる事。師匠の役に立つ事しか考えていなかったオリビアは、誰かに面と向かってお礼を言われる事は初めてだった。



胸がポッと温かくなって、嬉しい気持ちでいっぱいになる。


(ありがとうって言って貰えるだけで、こんなに嬉しい気持ちになるんだな...)


「ううん!...ありがとうって、言ってくれてありがとうね。お名前はなんていうの?」


「ユミト!」


「ユミト。可愛い名前だね」


二人で笑い合っていると、



「オリビアさん!」


長老が部屋の中に入ってきた。


「長老さん!」


オリビアが長老に気付き、ペコッと頭を下げた。


長老さんがいるって事は、ここはクベル村のどこかの家の中なんだな。とオリビアは思った。


「森で倒れている所を見つけた時は、どうなる事かと思いました...。ご無事で何よりです」


長老は心底安心したようにそう言った。


「...すみません。私が未熟なばかりにたくさんの人を危険に晒してしまいました。家もたくさん壊れてしまって...すみませんでした」


と、頭を下げて謝るオリビアに、


「そんな!滅相もありません!」


長老は慌てて近付いてきて、オリビアの手を握った。


「貴方があの魔物を倒してくれたから、今の私たちがあります。本当に、ありがとうございました。それと、お渡しする物が─」


長老は会話の途中で部屋から出ていき、そしてすぐに戻ってきた。



「こちら、大切な物ですよね」


と、渡してきた物は──


──オリビアの、二本の剣だった。

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