第12話 混乱の中での葛藤
〈※若い旅人の男性視点〉
▶▶▶
クベル村の西側の家屋の中。
「プギャアアアオオオオオッ!!」
眠って休んでいた若い旅人の男は、突然響き渡った魔物の鳴き声に驚き、バッと飛び起きた。
(こんな夜更けに、何の音だろうか...?)
窓から外を眺めていると、同じように鳴き声を聞いて驚いたからなのだろうか。
松明を持った村人達が続々と出てきて、ザワザワと騒いでいる。
村人の会話に耳を傾けてみると、何でも女性の冒険者が一人で複数の魔物を倒したようだった。
(すごいな...。女性一人でなんて...)
と、感心したのもつかの間。
「プギャアアアアアオオオオオッ!!!」
と、先程より大きな魔物の声が響き渡り、地面は大きく揺れて、何かが近付いて来る大きな地響きが鳴る。
若い男の整理がつかないまま、
「皆さん、...早く逃げて!!!」
という甲高い女性の叫び声が聞こえた。
その後、三メートル級の大きな魔物が村に現れ、現場は大混乱に陥った。
家屋の外では村人が逃げ惑い、泣き叫んだり、うずくまって動けなくなってしまっている人もいた。
(ここに居るのは危険かもしれないな...)
と、思った男は部屋に置いていた刀身が50cm程の剣を腰に差した。
男の荷物はその剣しか無く、旅人にしては随分と身軽な装いだったが、誰もその理由を聞く者はいなかった。
───ドォオオオンッ!!
何かと何かがぶつかって、建物が壊れたような凄まじい音が響き渡る。
男が休んでいた家屋を出た直後、五歳くらいの小さな少女が「旅のお兄さん!」とその懐に飛び込んできた。
「大変なの!!...早く逃げなくちゃ!!」
慌ててしがみつく少女の肩に手を添え、男が言葉を返そうとしていると、少し離れた目線の先で茶褐色の髪を一つに束ねた女性が両手に剣を持ったまま、東の方に走り去って行くのが見えた。
その後ろを、
──ドッシン!!ドッシン!!
凄まじい轟音を立てて追い掛ける、大きな灰色の魔物の影も目の前を横切って行った。
「あれはっ...」
(ドスプンジャリオか...!)
ドスプンジャリオは、プンジャオの長。
この国では、特別指定害獣として認定されているC級の魔物であり、普通であれば少なくとも二、三人での討伐を推奨されているのだが...。
(彼女一人では、危険すぎる...)
少女の肩に添えていた手に、思わず力が入る。
「お、兄さん...?」
不安そうな顔で少女が男を見上げた。
男はハッと我に返って手を離した。
「ごめん。...痛かった?」
「大丈夫!」
「そうか、...良かった」
若い男は少しホッとしつつも、険しい顔をして女性の冒険者と魔物が走り去った方向を見つめていた。
悲しんでいるような、...息苦しいような。
そんな複雑な表情をして、男は俯いた。
(自分には、...彼女を助けられる程の力は無い...
だから...。ごめんなさい...)
▶▶▶
〈※オリビア視点〉
意識の遠くの方で誰かの声がする。
身体はゆらゆらと水の中を漂っているようで、とても温かく、心地がいい...。
「...起きるかなぁ?お姉さん」
「...どうかな」
またも誰かの声が聞こえて、オリビアは「誰の声だろう?」と不思議に思いながら、ゆっくりと目を開けた。
目を開けて最初に目に入ったのは、黒い髪の小さな少女の顔と、どこかの家の木造の天井だった。
窓から差し込む光が明るくて、眩しい...。
気を失っているうちに、朝になっていたようだ。
「あ!お姉さん、起きたよ!良かった!」
と、少女は隣を見て笑って言った。
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