第11話 ボロボロになったとしても。



地面に叩きつけられたオリビアは、身体中が電撃が走るように痛んだが何よりも...。


「っ痛!...」


オリビアがゆっくり体を起こしてみると、右手首が青紫色に腫れていて、動かすだけで突き刺すように痛んだ。


(もしかしたら、折れてるかも...)


と、オリビアはそう思ったが、今は倒れている場合じゃない…。


右手で持っていた剣はぶつかった衝撃で何処かへ飛んでいってしまったようで、辺りを見渡しても見つからなかったが、運良くもう1本の剣は近くに落ちていた為、怪我をしていない左手で柄を握った。


村の家屋を半壊にさせる程の大きな魔物とぶつかったのにも関わらず、右手の怪我だけで済んでいるのは不幸中の幸いであったが...



...バキバキッ!!


オリビアの休む間もなく、木々がへし折れる音が響き渡った。


音のする方向を見ると、ドスプンジャリオは怒りと痛みで我を忘れて暴れ回っている。



「プギャアアアアオオオオオッ!!!」


(私が...、やらなければ...!!)


オリビアは痛みを堪えて立ち上がると、左手で剣を構えてドスプンジャリオに向かって駆け出した。


(たとえ、ボロボロになったとしても...!!!)


ダッダッダ!


音を立てて近付いても、鼻を切り裂かれた痛みのせいなのか、オリビアには気付いていない様子だ。


近くの木々に闇雲に体当たりして、傷だらけになっているドスプンジャリオの後足目掛けて、オリビアは力いっぱい剣を振り抜いた。


ザンッ!!という斬撃音と共に、手応えを感じたオリビアは更に別の足を狙って間髪入れずに剣を振るった。


「ああああああっ!!!」


ザンッ!!...


「ギャアアアオオオオオッ!!」


ドスプンジャリオは悲痛な叫びを上げて森の方向へ倒れると、ぶつかった衝撃で大木が何本も折れて倒れてしまった。。


気付けば、長老が言っていた森の中の開けた場所まで辿り着いていた。


オリビアも動く度に腕が痛んで、あまりの痛みに視界は目が回り、意識が朦朧としてきたが、今この魔物にトドメを刺さなければ...。こちらがやられてしまう。という気力だけで動いている。


(今、私が終わらせなければ...

この魔物はまたここに来てしまう...)


足に負った傷で体勢を崩し、藻掻もがくドスプンジャリオの正面に立ったオリビアは、その魔物を見下ろして剣を構えた。


元はといえば、作物を食い荒らされた人間側の報復と、仲間を殺された魔物側の報復から始まった、負の連鎖が引き金となってしまったが...


人には人の正義があり、魔物には魔物の正義が存在していて、彼らはそれに従っただけだったんだ。


彼ら(プンジャオ達)は、仲間思いなだけだった。


生きる為にした事だったのかもしれない...。



それを想像すると、何とも複雑なやるせない感情に陥ったオリビアではあったが、


るなら、情けをかけるな。情けをかけた分だけ、苦しむ時間が長くなるから』


という、記憶の中のアテナの声が脳内に響いた。


痛む右手で無理やり剣のグリップを握り、左手でそれを上から支えるように握ったオリビアは、


「...ごめんね」


と言って、ドスプンジャリオの上顎から心臓に目掛けて一気に剣で突き刺した。


藻掻もがいて暴れていたドスプンジャリオの口からゴプッ...!と大量のドス黒い血が溢れ出して、オリビアは大量の返り血を全身に浴びて、血まみれ状態になった。


見開いた魔物の目は、光を無くしていく。


ビクンッ!ビクンッ!と痙攣していたその大きな身体は、次第に冷たくなり、動かなくなった。


冷たくなった魔物の亡骸に、オリビアの剣は深く突き刺さったままー


ーオリビアもその場で力尽きるように倒れ、気を失ってしまった。


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