第9話 ドスプンジャリオの猛追


オリビアに向かってきたドスプンジャリオの姿を見て、恐れから逃げ出す者。


その場から一歩も動けなくなってしまった者。


世界の終わりだと泣きじゃくる者。


人によって様々な反応で、現場は大混乱に陥っていた。


オリビアの真後ろにも若い母親と子供が恐怖でうずくまり、その場から動けず、逃げられなくなってしまっている。


(何とかしなければ…!!)


オリビアはこちらに突進してくるドスプンジャリオの動きを止める為に、自らも正面から真っ直ぐに駆け出して行った。


魔物が迫る轟音の中、オリビアは剣を構え、フッ…と姿勢を低くするとドスプンジャリオの左前脚を狙い剣を振るった。


──ザンッ!


斬った手応えがあり、ドス黒い血が吹き出したが、それでも突進は止まらない。


「っはぁぁ!!」


オリビアはすぐに体を勢い良く半回転させ、ドスプンジャリオの側面にも大きな斬撃を浴びせた。


──ザッシュ!!


「ギャアアアオオオオオッ!!!」


怒りと痛みで我を忘れたドスプンジャリオは少し右側へ軌道を変え、うずくまって動けなくなっていた親子の横を通り過ぎて、その先にあった家屋へと思い切り突っ込んだ。


ドォオオンッ!!!…


大きな音が鳴り、突っ込まれてしまった家屋は半壊状態でボロボロになってしまった。


ボロボロに崩れた家屋から、顔をブルブルと揺らしたドスプンジャリオはオリビアの方へ向き直り、今にもまた突進してきそうな様子で、蹄(ひづめ)で地面を引っ掻いている。


未だにうずくまっている親子に、


「…早く!!立って!!」


オリビアが大きな声でまた叫ぶと、親子はようやく立ち上がり、近くにいた村の男が急いで駆け寄ってきて、親子をその場から避難させた。


(此処でこのまま戦うのは危険だ……!何処か別の場所に誘導しないと...)


オリビアが思考を巡らせていると、またドスプンジャリオがこちらに向かって凄い地響きを立てて突進してきた。


迫り来る大きな巨体を、オリビアは左に前転して回避する。


そして周りをバッと見渡してみたが、戦うために広く使えそうな空間は無い。


(どうしたら...)


と思っていると、長老が村の男に背負われてバタバタと近付いてきた。


「長老さん...!」


「お怪我などありませんか!?大丈夫ですか?」


「私は大丈夫です...!あの...!何処か広い場所は無いですか...!?此処だと村の皆さんが...!」


オリビアは立ち上がりながら、長老に尋ねた。


その間にもドスプンジャリオはこちらへ向き直り、蹄で地面を引っ掻いて今にも突っ込んできそうだ。



「...あ!


村の東の森に、開けた場所があります...!」


「わかりました...!!皆さんの避難、お願いします!」


オリビアは長老にそう言うと、村の東側を目指してバッと走り出した。


走り出したオリビアを見て、ドスプンジャリオも後を追って駆け出す。


──ドッシン!ドッシン!!


後ろから迫り来る地響きに、オリビアの心臓の鼓動も早くなっていく。


息を切らしながらオリビアは走り、あと一歩で追い付かれそうな所で右に方向転換をして、家屋と家屋と間に飛び込むように前転して回避した。


オリビアを追っていたドスプンジャリオは急に止まる事は出来ずに、そのまま正面にあった家屋に勢い良く突っ込んだ。


──ドォオオンッ!!


雷が落ちたような凄まじい音が鳴る。


息を切らし、オリビアは持っていた剣をまた握り直すと気力を振り絞って立ち上がった。


(倒し方...。倒し方は何だっけ...!?)


荒くなった呼吸を整えながら、師匠アテナとの記憶を辿った。

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