第6話 期待と不安の旅立ち
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あれよあれよと準備が進み、オリビアはまた旅立つ事が決まったのだ。
師匠が用意してくれた冒険者の金の腕輪と、クエストの受託証。
仕事の出来る優秀な師匠は、旅の支度にも一切の抜かりが無いし、拒否する暇を与えない。
▶▶▶
「一人で行くって言ったって、何処へですか!?」
驚いて立ち上がるオリビアを他所に、アテナは「はいはい。私の想定通りな展開だ」とばかりに一切感情に揺らぎを見せない。
アテナは羊皮紙を指差すと、
「ここに書いてあるだろ?東にある、クベル村だ。農作物に被害を出しているプンジャオの群れを倒すだけだ。お前一人で全然大丈夫だろ?」
と言って、ニカッと笑った。
プンジャオとは、猪のような見た目で二本の牙があり、農作物を荒らす害獣として認定された魔物だ。
近年、討伐したプンジャオから剥ぎ取った肉が食用として使えると評価されて、レストランや素材業者、一般家庭にも流通している。
「大丈夫…かも、ですけど…。師匠は私に
「そう言うと思って」
抵抗するオリビアの言葉を遮ったアテナは、
「もうある」
と、立派な剣を二本テーブルの上に置いた。
「用意が良過ぎますよね!何もかも早すぎですよね!?拒否権なしですか!」
テーブルをバンバン叩いて大きな声をあげたオリビアの健闘は虚しく、
「拒否権なんかねーな。ぶっ飛ばすぞ」
師匠の鉄槌が下る前に、オリビアは抵抗する事を辞めた。
▶▶▶
「オリビアちゃん、また来てねぇ〜!」
「はい、また!」
酒場アマリリスを出て、手を振りユリアに別れを告げると次にオリビアはアテナの方に顔を向けた。
「師匠、色々ありがとうございました。師匠からの教えをこれからも忘れず…」
「──分かったから」
オリビアの言葉をアテナは途中で遮って、うんうん。と頷いた。
もうそれ以上は大丈夫。と言いたげな顔をしている。
何でもオリビアの考えはお見通しらしい。
「師匠、…いってきます!」
「ああ。いってこい」
オリビアは師匠に背を向けて歩き出した。
師匠アテナとの会話は何ともあっさりとした、彼女達らしい別れだった。
▶▶▶
デリカリアの街を出たオリビアは、東に向かって歩き始めた。
ズシッと両腰に感じる重み。
オリビアはアテナがくれた真剣を噛み締めるようにそっと撫でた。
一人で歩く道。
高く青い空と、広がった緑の草原。
アテナもいない。初めての冒険。
戸惑うの事だらけで。
オリビアは緊張と不安が混ざる中、初めての景色を見る高揚感と真剣を早く使いたいうずうず感で、感情が目まぐるしく変化していた。
「クベル村には、夜になるまでに着く…」
空を見上げると、太陽は真上の位置にあった。
おそらく今は、正午頃なんだろう。
スーッと息を吸ったオリビアは「よしっ」と小さな声で自分を鼓舞して進んでいく。
始まった冒険に、胸を躍らせながら。
▶▶▶
「抜かりないカ…?」
真っ暗な部屋で響いた声に、小さな驚嘆の声が響いた。
「はい…!全て、主の仰せのままにっ…」
暗い部屋に溶け込むような真っ黒な装いの者が、怪しくニヤリと微笑んだ。
「黒き茨に忠誠を…」
そう言ってその者は、二の腕に刻まれた茨模様の刺青を愛おしそうに撫でるのであった。
▶▶▶
日が暮れ始めた頃、オリビアはクベル村へ辿り着いた。
クベル村は
所々畑が広がっている場所もあったが土から掘り返され、植えられていた作物は無くなっているものがほとんどだった。
村の入口の近くにいた若い男の村人はオリビアに気付いたようで、会釈をして声をかけてきた。
「この村に…何か用でも?」
少し警戒している様子の村人を見て、オリビアは思い出したように懐に折り畳んでいたクエスト受託証を開いて見せた。
「私はオリビアといいます。
この村に来る魔物を倒しに来ました!」
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