第4話 お喋り店主、ユリア
ジューっという肉の焼ける音と、鼻を抜ける香ばしい匂いにオリビアは静かにしていたが、気分が高揚していた。
本当は「うまそー!」って大声で叫び出したいくらい興奮していたが、アテナも傍にいるし、もういい大人なのでそこは我慢した。
「はい、プンジャオの甘辛ステーキよ〜!たぁ〜んと、召し上がれぇ〜!」
と店主の女性が料理のプレートをオリビアの前に置いた。
「朝からこんな重い料理食べるんかよ。ほんと、オリビアは昔から肉が好きだよな…」
「はい!!いただきます…!」
ナイフで切り分け、丁寧にステーキを口に頬張ると甘辛いタレと肉汁が絡まって、自分の身体全てがスライムのように溶けてしまいそうなくらい美味しかった。
(こ、…これは堪らないくらい美味い…)
ステーキをどんどんと頬張るオリビア。
止まらないそのスピードにアテナは呆れ、店主の女性は驚いて目を丸くしていた。
「オリビアちゃん!食べるの速いのねぇ〜!」
「まったく。…ご飯くらいゆっくり食べろって、いつも言ってるのに、ダメだこりゃ」
▶▶▶
「ふぅ…ご馳走様でした!」
ステーキはあっという間に無くなり、お皿は綺麗に空になった。
残っていたタレを付け合わせの野菜で綺麗に拭いながら食べたそのお皿に、オリビアの性格が出ていた。
「お粗末さまでしたぁ!美味しかったかしら?」
「はい!とても美味しかったです」
「お気に召してもらって何よりだわぁ〜!」
女性店主は嬉しそうに笑ったが、くるくると表情を変え、急に思い出したように言った。
「あら、やだ。私、自己紹介してなかったわね。アマリリスの店主のユリアよ。よろしくねぇ〜!」
「こちらこそ!よろしくお願いします」
オリビアが頭を下げて言うと、店主ユリアはオリビアの食べ終わったお皿を持ち、
「ちょっと待っててね。さっきスコーン焼いたの。お近付きの印にデザート、サービスするわぁ〜」
とにこやかに去って行った。
▶▶▶
あの後すぐに戻ってきたユリアは3人分のスコーンと、ハーブティーを持ってきた。
アテナは「私は頼んでない。いらない」と突っぱねたが、ユリアの押しに負けたのか一口は食べているのをオリビアは見た。
「何でお前もここに座ってるんだよ!」
「だってお客さんも少なくなってきたし、良いじゃないですか〜!休憩ですよぉ〜!」
同じテーブルに座ったユリアにアテナは顔をしかめたが、ユリアはそれでも全然お構い無しだ。
ユリアの持ってきたハーブティーを口に含んだオリビアは、そのすっきりとした味わいと匂いに驚きが隠せなかった。
先程まで残っていたステーキのずっしりとした肉汁の重みが、すっきりと消えたからである。
その様子に気付いたユリアは、
「ハーブはね、近くの薬屋さんで買ったり自家栽培したりしてるの。自分でブレンドするのにハマってるんだ〜!」
と、得意げな顔だ。
「へぇー、自家栽培…すごいです」
そつなくユリアに言葉を返すオリビアだったが、褒められたのが嬉しかったのか「それでね、それでね」と話が始まりそうなユリアを、
「おばさんの長話は聞きたくねーわ」
とピシャリとした口調で、アテナが会話に割って入ってきた。
「オリビア。私はそろそろ家に帰るけど、お前に渡しとくものがある」
そう言うとアテナは、ポケットから金の腕輪をコロンッとテーブルの上に出した。
「これ、何ですか?」
「これって!登録された冒険者の証じゃないですかぁ〜!ギルドの所で貰えるやつですよねぇ?オリビアちゃん、知らなかったのぉ〜!?見たこと無かったぁ?」
「はい、見た事なかったです」
「お前みたいなお喋りがいて、説明が助かるわ」
アテナは呆れた顔をしつつ、「付けな」とオリビアに促した。
オリビアは腕輪を手に取ると、その細い腕輪に文字が刻み込まれているその技術に驚きつつ、何て書いてあるかは読めないので、言われたまま左腕に通した。
「これが、冒険者の証…ですか?」
「ああ。今日の朝、登録しておいた」
「あ、ありがとうございます、師匠」
「ああ。…言い忘れたが」
「はい?」
「それ、死んでも外れないから、よろしく」
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