第3話 出会いの酒場「アマリリス」



オリビアがメイン通りを歩いていると、目的の場所はすぐに見つかった。


酒場【アマリリス】の看板が吊り下がっているその建物は、一階建ての煉瓦と木造の織り交ざった建物で可愛らしいお花やハーブの鉢が入口の近くに置かれている。


軽快な民族音楽が中から聞こえ、朝から人の話す声や笑い声が聞こえてきた。


そんな中、


「は!?うるせーんだよ、お前は!」


聞き覚えのある声が外のメイン通りまで響き渡るのだった。


オリビアは声の主に想像がついてフッと笑うと、お店の扉を勢い良く開けた。


───リリンッ


扉についたベルが鳴り、ふくよかな大人の女性が「いらっしゃいませ!」と声を上げる。


その近くにテーブル席でお茶を飲んでいる、アテナの姿を見つけた。


「師匠、探しましたよ!」


「オリビア。遅かったな」


「遅かったな、じゃありませんよ。家じゃないんですから、勝手に居なくなるのはやめてください」


オリビアがやれやれ…となっていると、


「アナタが「オリビアちゃん」?」


と、先ほどのふくよかな女性が話しかけてきた。


その女性は甘栗色のロングヘアを横に編み込んだ女性で、まつ毛は長く、ロングスカートをヒラヒラとさせて美意識の高そうな印象だ。


足が悪いのか、片足を少し引きずりながらオリビアに近付いてきた。


「はい、そうですが…?」


「アテナさんからお話は聞いてたよ〜!孤児だったのを拾ってくださって、育ててもらったんだってぇ〜?可哀想にぃ〜、大変だったねぇ〜」


「あ、…はい」


…正直な感想としては、人のナイーブな事をズケズケと言ってくるその無神経さが苦手だと、オリビアは思ってしまった。


(人の噂話が好きなタイプなんだろうか…。ねちっこい甘い喋り方がまるで蛇みたいだ…)


そう密かにオリビアは考えてしまう。


オリビアのそんな様子を察知したのか何なのか、アテナはその女性との会話に割って入ってきた。


「お前は無神経なやつだな。いちいちそんな事、人に言うもんじゃねーだろうが!」


「あら、気を悪くしたならごめんなさいね?そんなつもりはなかったのよ〜!」


と、その女性は両手を重ねて体を揺らして謝ってきた。


「いえ、…大丈夫です」


「大丈夫なら良かった〜!仲良くしてねぇ〜!」


「ったく!うるせーおばさんだな。ほら、オリビアもとりあえずここ座んな」


「うるさいおばさんなんて、アテナさんが言うことでも失礼しちゃうわぁ〜!(笑)」



オリビアが愛想笑いしながらアテナの隣の席につくと、その女性はメニュー表を指差しながら説明を始めた。


「モーニングのメニューはここから選んでねぇ?どれも美味しいから是非全部食べて欲しいわぁ〜!」


これも、これもオススメよ!と女性がどんどん指さしてくるので、会話が目まぐるしく変わり、じっくり選ぶ間もないくらいだ。


オリビアがええっと…と、悩んでいると


「すみません!ちょっと注文いいですか!?」


と、離れたテーブルから他のお客さんの声がした。


「はぁ〜い!ただいま行きますぅ!じゃあ、オリビアちゃん。決まったら教えてね!」


足を引きずりながらも足早に女性が去っていく。


その途端、アテナは深いため息をついた。



「やっと離れたか。あいつは、話し始めると止まらないんだよ」


「ははっ、ほんと…勢いがすごい人でしたね」


アテナはお茶を口に含むと、またふーっと静かに息をついた。


「悪いやつじゃないんだけどさ。無神経でうるせーだろ?でも、飯は美味いから。勘弁してやってね」

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