ネットショップ

三輪ココロ

ネットショッピング

個人が簡単にインターネットでショップをオープンできる時代。

イラストやハンドメイドのアクセサリーなど、自分の好きな値段で好きなように販売できる。

今回はそんなネットショップに関する不思議な話を私は友人から聞いた。その友人をAとここからは呼称する。


Aはイラストレーターだ。ここ数年でようやくイラストで生活できるレベルになったが道のりは長かった。

10年ほど前に趣味で描いていたイラストをX(当時はTwitter)に毎日投稿していた。

今見ると恥ずかしいほど魅力のないイラストに唯一、毎回ふぁぼってくれるフォロワーがいた。

久御山ハルヒコ。名前から推測するときっと男性だろう。油絵や水彩で描かれた絵を月に2、3点アップしている。

彼の絵は魅力的だった。決して上手ではないがとても力強く、作者の性格や意図が見える絵だった。

そこから数年後。Aはコンビニのアルバイトをしながらではあるが、イラストの仕事をしていた。

趣味とは違い、クライアントから求められる絵柄で今までAが描いてこなかったジャンルのイラストの依頼も受けていた。

そのくらいから、久御山ハルヒコからのふぁぼは少なくなっていた。

そこからさらに数年後、そんなことが気にならないほど、Twitterにイラストをあげるといいねをたくさんもらえるようになっていた。

Aはふと久御山ハルヒコの事を思い出し、今何をしているんだろうと、彼のアカウントのページを開いた。

Aはその時期多忙であまり知らなかったのだが、結論から言うと彼は亡くなっていた。Aがいたイラスト界隈では結構話題になったようだが、描いた絵しかアップしていなかった久御山ハルヒコのアカウントは突然一枚の画像をアップし、それ以降ツイートがなくなっていた。

その画像は暗くてよくわからないのだが、リプ欄を見ると某所のダムだと言うことがわかった。

ネットでそのダムについて検索すると、それらしきネットニュースの記事が出てきた。

日付も、ダムの画像が投稿された日とほぼ一致している。Aは記事を読み進める。するとそこには彼の実名が出ていた。

久御山ハルヒコは女性だった。


それから2年の月日が経ち現在に至る。

何故2年経った今、私にこの話を持ちかけたのかAに聞いたところ、1人で抱え込みたくなかったからとのこと。

どうやらこの話にはまだ続きがあるようで、ここからがなんとも奇妙な内容だった。

2年前から動きがなかった久御山ハルヒコのアカウントが、先週突然更新されたというのだ。

確かに不思議ではあるが、家族の誰かがフォロワーに向けて3回忌で更新したとか、そんなところかと思っていた。

違った。

なんと、久御山ハルヒコはネットショップを開設した。

ポストの内容はネットショップのURLのみだった。

開いてみると彼女が生前に描いたと思われる絵が販売されていた。

油絵や水彩画にしてはかなり安く、私でも購入できそうなものだった。

私は少しここで好奇心が湧いた。買ってみようと。

ただ本当に発送されるのか怪しかったのでとりあえず1番安い絵を購入してみた。

案の定、一ヶ月経っても絵は届かなかった。

次Aに会うときにこの話をして誰かが乗っ取って悪戯でもしたのだろうと教えてあげようと考えていた。

そんな中、Aからラインが来た。

なんとAも久御山ハルヒコの絵を買っていたようで、絵が届いたというのだ。

ちゃんと届いていたことに驚いたが同時にそういうことか、となった。

Aも1番安い絵を買っていた。きっと私と同じ心理で買ったのだろう。

そりゃいつまで経っても届かないわけだ。絵は一つしかないんだから。

しかしそうじゃない。そもそも死んだ人間から何故商品が発送されるのか?家族の誰かが送っているのか?きっとそうだろう。死んだ娘の作品なら普通は遺しておくが、売って金にする親がいるのも、別におかしな話ではない。と自分に思い込ませた。

それから数日後、荷物が家に届いた。

A4サイズほどのダンボールに包まれた荷物だ。心当たりは一つしかない。

…え?なんで?

箱を開ける。中身は私が買った絵だった。1番安い、久御山ハルヒコの絵だ。

すぐにAに連絡する。

同じ絵が、自分の家にも届いたと。

何かすごく不気味で、気持ち悪い、異物に触れた様な気持ちになり、

この不快感を解消したい想いから私はこの絵を持ってすぐAの家に向かった。

突然訪れた私に少々驚いてはいたが、絵の件で来たと伝えると早く上がれと言わんばかりに中に入れられた。

彼も私と同じ気持ちだったらしく、部屋には飾らず、届いたダンボールにもう一度しまい、封印されていた。

ダンボールを開けて、私が持っている久御山ハルヒコの絵と見比べてみる。

見比べればなにか安心するだろうと思っていた。

だが私は後悔した。見比べなければ良かった。

Aの絵と私の絵は、筆の痕跡、絵の具の飛び具合、下書きの鉛筆の線、絵の具の濃さ、など一ミリの狂いもなく全てが同じ絵だった。

私はここでようやく気づいた。これは誰かの悪戯なんかじゃない。この絵はここではない世界から送られたものなのだと。久御山ハルヒコが自ら発送している絵なんだと。

ただなんのために?動機がわからなかった。

二つの絵の違いを探していると、Aは一言つぶやいた。

「ようやく久御山ハルヒコになれたってワケか」

聞こえるか聞こえないかのボリュームだったので正確には聞き取れてないかもしれない。

だが、その瞬間だけAは私ではなく絵に語りかける様に呟いていた。

そこから数ヶ月間、久御山ハルヒコのネットショップは一部オカルトマニアとコレクターの間で話題になり、絵は飛ぶ様に売れ、突然サイトは閉鎖された。

私と同じく不気味がっていたAはというと、部屋の1番目立つところに久御山ハルヒコの絵を額縁に入れて飾っていた。

あんなに気味悪がってたのに?アーティストというのはやはり理解できない。

そもそもどうして絵を描くのか?音楽を作るのか?映像を撮るのか?消費されるため?承認欲求?

こんな風に考えてしまう私には、あのとき彼の呟いた言葉の意味は一生わからないのだろう。

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