第4話 デビュー
真夏の陽射しが照りつける東京。スターライト・プロダクションのレッスン室で、「プリズム・インフィニティ」のメンバーたちが汗を流していた。
「はい、五分休憩!」
振付師の声が響く。メンバーたちがほっと息をつく中、イリアだけが涼しい顔でまだ踊り続けていた。
「イリア、休憩だよ」
リーダーの藤堂美月が声をかける。
「あ、そうでしたね」
イリアは動きを止め、不思議そうな表情を浮かべた。
*
昼休憩、カフェテリアに集まったメンバーたち。皆が美味しそうに食事を取る中、イリアはサラダを少しずつ食べていた。
「イリア、それだけ? もっと食べないと倒れちゃうよ」
心配そうに尋ねる美月に、イリアは小さく微笑む。
「ありがとう。でも、今日は朝ごはんをしっかり食べてきたんです。それに、本番前はあまり胃に負担をかけたくなくて」
イリアの言葉に、メンバーたちは不思議そうな顔を見せた。
*
夕暮れ時、レコーディングスタジオ。「プリズム・インフィニティ」のデビュー曲のレコーディングが行われていた。
「イリア、君の番よ」
プロデューサーの声に、イリアがマイクの前に立つ。
「はい、始めます」
イリアの歌声が響き始める。その瞬間、スタジオにいた全員が息を呑んだ。透き通るような美しい声。完璧なピッチと表現力。まるでプロのシンガーのような歌唱力に、スタッフたちは驚きの表情を浮かべる。
「す、すごい……」
美月が小さくつぶやいた。
一発録りで終わったレコーディング。イリアは何事もなかったかのように、淡々とブースを出る。
「イリア、どうやってそんな歌声を……」
美月が尋ねる。
「一生懸命に歌いましたから!」
イリアの爽やかな返答に、周囲は戸惑いの表情を浮かべた。
*
デビュー前日、深夜のスターライト・プロダクション。イリアは一人、練習室の鏡の前に立っていた。
(明日、デビューか……)
鏡に映る自分の姿を見つめながら、イリアは奇妙な違和感を覚える。
(どうしてあたしはこんなに……)
疲れを知らない体。完璧な歌声と踊り。そして、ほとんど食事をとらなくても平気な身体。
イリアは自分の姿に、ある種の恐怖を感じ始めていた。しかし、その思考はすぐに霧散してしまう。
「大丈夫。明日は最高のデビューになるはず」
イリアは自分に言い聞かせるように呟いた。その声は、静まり返った練習室に吸い込まれていった。
*
デビュー当日。大型ビジョンに「プリズム・インフィニティ」の映像が流れ、歓声が東京の街に響き渡る。
ステージ上のイリア。完璧な歌とダンスで観客を魅了する彼女の姿に、誰もが釘付けになっていた。
しかし、イリアの心の中では、小さな違和感が静かにうねりはじめていた。歓声を浴びながら、彼女は密かに自問する。
(これが本当のあたしなの……?)
その疑問は、華やかなステージの光の中に溶けていった。「プリズム・インフィニティ」のデビューは、予想を遥かに上回る大成功を収めたのだった。
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