捕まってました。
「やあ、ジーナお気に入りのぬりやクン」
三話使って逃げ切った、良い。と油断していたところはあると思う。しかし小説を書く以上、やはりこの命題から逃れる事は出来ないのだろうか。
イマジナリー高校の、ここは購買。
昼時ともなれば関ヶ原よろしく、上級生下級生を交えての合戦の場となる。
······んじゃないか、と思うのだけれどどうだろう?
関ヶ原と言えば、旅行か何かで何度か通った事がある。あると思っているけど定かじゃない。ひょっとしたら長篠だったかも知れない。家康よりも信長ファンだったのだ。織田なのだ。
直接的なその土地よりも、印象に残っているのはあのCM。『自動販売機まで歩く。』にしても、伊藤の温泉ホテルにしても、子どもの時に繰り返し見たCMはいつまでも心に残るものなのか。
気になって、その遊園地を調べてみれば、ずいぶん昔に閉園してた。
夏草や、兵どもが夢の跡、諸行無常の響きアリ。
「ふむ、すっかり支配下にあるらしい」
と、イマジナリー高校生徒会長、純文学先輩が購買で購入したらしいパンを持った手を口に寄せて笑った。
かぷかぷ、そう聞こえて頭を振る。飲み込まれるな、目を逸らすなと言い聞かす。
そんな様子を見た生徒会長は解釈違いをしたらしく、パンの袋を掲げた。
「ここのカレエパンは絶品でね。ボクの好物なんだ。おっと、確か前にも言ったね」
そう言って、斜陽に照った様に頬を少し染めた。だとすると、沈みかけているのはこちらだと言うメタファーなのだろうか。
「まあまあ、そう構えずに。キミと一緒にジーナを回収したいんだ」
「ジーナ?」
「そうそう、ほら彼女から」
生徒会長の視線に操られる様に顔を横に向ける。夕暮れに浮かび、淡く輝く三日月はみざりぃ部長だ。やはり、良い。
「純文学、なんでアナタがこの世界にいるの?」
ここで、少し悩む。というのも、唐突に始まったこの世界観。読んでくれる方がついてきてくれるのだろうか、と思うのだ。見放さず、どうか読んで欲しい。
繰り返される物語のズレ確認用に念の為、リンクを置いておくお事にする。おかえりはブラウザーバックにて。
https://kakuyomu.jp/works/16818093083469966727/episodes/16818093084046225008
「行こう、ぬりや君」
「いいや。ジーナの秘蔵っ子、ぬりやクンはボクが頂いて行くよ」
どうだろうか、と僕は思う。こういう事もあるのではないかと思い、部長は「君」で生徒会長は「クン」と予め使い分けておいたのだ。もちろん「わたし」「ボク」もこの日のために。
それはそうと、ジーナって誰だっけ?
「生徒会長と部長ってお知り合いで?」
「ふん、腐れ縁ってやつかな」
「酷いな。
これはなかなか大変だぞ、とぬりや君は思う。いっそうここは黙ってふたりの会話に任そうか、などと僕が考えていると「離さない」と部長が腰に手を当て頬を膨らました。
以前のようにフライドポテトが入っている訳では無い。以前? 時系列的にはいつの事なんだ。
「ぬりや君、わたしと一緒に、部室に帰ろ?」
「ああ、リワード貰ったら『小さな恋のメロディ』贈りますよ」
僕がそう提案すると、部長は一瞬目を丸くして、夜の谷間の様に眉間に皺を寄せ、小さく「何言ってるの?」と言った。
「いいね」
そんなやり取りを横で見ていた生徒会長はそうこぼし、一歩踏み出すと顔を近付けて来て僕は耳打ちされる。口偏に、耳がみっつで囁かれると、甘く濃厚な、百合の花の様な香りに包まれた。
「ジーナとじゃないのが不満だけど、『小さな恋のメロディ』よろしく逃亡と参りましょうか」
呆気に取られている部長に「グッド・バイ」と手を上げて、生徒会長が僕の手を引き颯爽と廊下を走る。
廊下の向こうでは部長が腕を組み「盗作よ」と叫んでいる。
廊下には無造作にばら撒かれた伏線と、見る人によって色を変える様々な解釈が、午後の陽射しにキラキラと光って散らばっている。その光が僕たちを包んだ。
眩しさに瞑っていた目を開くと、そこは青々とした枝葉の茂る、ケヤキ並木の遊歩道だった。
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