饒舌でした。

 セミが鳴いている。木が生えていて葉っぱがたくさんだ。女の人と道に立っている。


「くくっ、酷いね。まあ、キミは脱線しやすいからしばらくそのままでいてくれ給え。変な文豪引用もされないしね」


 女の人が笑った。言葉がでない。おかしいと思った。


「ん、キミはみざりぃ、郷愁ノスタルジアの支配下にあったのさ。あの娘の描写圏から抜け出したばかりだから仕方あるまい」


 女の人はペラペラしゃべる。おかしいと思った。


「ボクは元々イレギュラー。純文学から逃げるためにキミが繰り出した変化球がボク。くくっ、『純文学先輩』なんて面白い事を思いつくものだ」


 女の人は笑って、女の人はベンチに座る。


「本来であれば『イマジナリー文芸部』は8月の振り返り後、純文学の話題に触れ、キミが純文学にかぶれる、と言うところで閉じられるプロットだったのさ」


 スポットライト。女の人を照らす。


「言うなれば、完結し閉じられる永遠の『夏の思い出ノスタルジア』だよ。小説が書けない主人公と、思わせ振りな先輩のひと夏の物語」


 カチ、カチ、カチ。音がする。


「ところがキャラクターが立ち、キミたちは走った。終わるプロットだった終わらない夏が秋に入る。キミのは暴走に近いけど、ジーナは元々の特性だろうね。なにせ冒険オデッセイだから」


 風が吹く。葉っぱが鳴る。


「秋に入った『イマジナリー文芸部』を第1話に巻き戻し、郷愁ノスタルジアみざりぃが書き直した。冒険オデッセイジーナを自らで上書きして今度は手堅く、感傷的にストーリーを進めるつもりだったんだろう」


 葉っぱが「機械」「機械」と音を立てた。


「それを察知して、その語源よろしく冒険オデッセイジーナはボクを『8時だョ!全員転生』に予め仕込んでおいたのさ。トロイの木馬みたいに」


 葉っぱが「機械」「仕掛け」「神様」と音を立てた。


「『イマジナリー文芸部』第二稿は純文学に触れないで、キミを永遠の郷愁ノスタルジアに閉じ込めるプロット。冒険オデッセイジーナはそれを阻止したかった。例え別れる事になっても、キミに小説を書かせるためさ。泣かせるじゃないかい?」


 すこし思い出した。スマホを出して調べた。


 このケヤキ並木には、三体のブロンズ像がある。ひとつは習作にも使った『夏の思い出』。これを調べた時に、残り二体のブロンズ像も確か見たのだ。ひとつは『オデュッセウス』、もうひとつが『水浴する女』。


「ずいぶん滑らかなになったね。確かにスマホは現代の言の葉の源泉かも知れない」


 スマホで改めて三体のブロンズ像の画像を検索する。すると、また風が吹いてケヤキの枝葉が揺れる。葉と葉が擦れると「メタファー」「メタファー」と音を立てた。これはなかなか便利だな、と思う。


「うむ。『夏の思い出』は郷愁ノスタルジアの暗喩。『オデュッセウス』は冒険オデッセイ。そして『水浴する女』は」


 生徒会長はそこで言葉を止める。

 聞こえた葉擦れの音をそのまま口にしてみた。


寓意アレゴリー?」

「御名答。全く、純文学で寓意アレゴリーのボクに解説なんて役回り。ジーナも不粋な事をさせる」


 そう言って寓意アレゴリー、純文学生徒会長はかぷかぷ、笑った。

 しかし、この大風呂敷と世界観。上手く回収出来るだろうか。そもそも『イマジナリー文芸部』はメタ風味のただのエッセイ。

 それが、これじゃあ空想冒険ファンタジーだ。

 

 それでも、イマジナリー部長を取り戻さないといけない。


「部長はどこに?」

「いいね。憧れの先輩なんて正に冒険オデッセイだと思わないかい?」


 寓意アレゴリー、純文学生徒会長はそう言って、大仰に手を振って立ち上がる。芝居がかってると思う。でも、良い。


「憧れ。憧れと言うなら生徒会長の事も、本当に憧れてるんですよ」


 そう言うと、このケヤキ並木に程近い河川敷の公園から花火がひとつ上がり、生徒会長の真上で咲いた。お笑い芸人が書いた純文学になぞらえた、これは生徒会長の寓意的な笑い、と解釈すればいいのだろうか。

 全く、純文学は難しい。


「くくっ。キミがジーナのお気に入りな理由がわかったよ。よし、じゃあ行こう」


 ジーナを巡る冒険オデッセイだ。

 

 そう言って寓意アレゴリー、純文学生徒会長は、遊歩道に落ちていたケヤキの葉を一枚拾い上げた。

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