「8時だョ!全員転生」⑥
その海域に入ると、オデッセイ号や甲板に立つキミたちを濃い霧が包んだ。
今、甲板に立つのは勇者であるキミと、その守護妖精だけだ。
ここは海の怪物「セイレーン」の住処。
「セイレーン」は美しい歌声で人間の心を惑わせ、自ら近づいた者を捕食する恐ろしい怪物なのだ。
「乗組員と乗客には、タライを頭から被るようよう言ってきました」
「うん。ありがとう」
キミは自分達もそうやって客室に籠もって、怪物の歌声をやり過ごしたらいいんじゃないか、と思った。
しかし妖精に「ちょっと、キミは勇者でしょ?」と押し切られ、怪物を迎え討つ準備している。
「部長、どうしましょう。タライを被ると前が見えません」
「キミは被らず位置を把握して。ギリギリのタイミングでわたしがマストからタライを落とします」
妖精はマストに上がり、ショットグラスを頭に被ってタライを構えた。
「来た!」
鋭く恐ろしい鉤爪、羽ばたくたびに不穏な音立てる大きな翼。胸元はむき出しで、キミが目のやり場に困っていると、マストでは妖精が頬を膨らませご立腹だ。
鳥の様な体の上には色素の薄い髪に、赤い眼鏡をかけた女の顔が乗っている。
眼鏡の奥では三日月型に曲がった目が妖しく光っているのをキミは見た。
怪物が歌声上げるために口を開く。
キミは怪物の位置や距離を測り、腰から剣を引き抜いた。
「落とすよ!」
上から妖精の声がして次の瞬間、キミの頭に大きな衝撃が走る。キミの目からは星が飛び散った。
タライは底を下にして落ちて来て、きれいにキミの頭に当たると、がひゃーん、と音を立てた。
虚を突かれた怪物は、歌うために開けた口をそのままに止まっている。それは船の周りを取る囲む怪物の群れも同じだった。
しかし怪物は、たたらを踏んだあと倒れたキミを見て大きく笑いを噴き出した。
薄れ行く意識の中でキミが最後に聞いたのは、海上からの大爆笑だった。
https://kakuyomu.jp/works/16818093083469966727/episodes/16818093084248433088
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