「8時だョ!全員転生」⑦

 キミと怪物との戦いは一晩中続いた。


 怪物はキミを惑わそうと歌の歌詞を変え、リズムを変え、メロディを変えた。

 しかしキミは、チートスキル『アドリブ』により怪物の歌を華麗に躱す。

 手首を体の外側に直角に反らせ、小刻みに上下させる。怪物の奏でる様々なメロディに合わせ、軽快なステップを前後左右と繰り出した。


 水平線の彼方から一筋の光が差し夜が明ける。オデッセイ号を包んでいた濃い霧が薄くなると、怪物達はどこか名残惜しそうに霧の中に帰って行った。

 

 キミは「セイレーン」の海域を、アドリブによって無事に切り抜けたのだ。



 甲板で朝日を眺めながらつけヒゲを外したキミ。服の中で胸元を擽る感触に、キミは妖精をその中に収めていた事を思い出す。

 

 キミが襟元を開けると、いつもより少し濃いピンク色の鱗粉を振り撒きながら妖精は飛び出した。

 妖精は顔を真っ赤に染め、目を泳がせながら指を絡ませたり、髪を弄ったりと落ち着かない様子。


「う、その······えっと、キミも好きねぇ」


 妖精がよく分からない事を言うのに、キミは首を傾げて応え、今一度水平線の朝日を見つめた。


「きれい······」

「ええ」

「でも、この海を抜けるといよいよ魔王の領域。こんな朝日もひょっとしたら見納めかも······」


 そんな弱音を吐く妖精の頭を、キミは優しく撫でた。大丈夫、どんな困難も『アドリブ』で乗り切ってみせる。キミは固くそう決心した。


「この先は、世界の理が通用しない魔王の領域。運命の女神の加護もないし、禁忌すら適用されないんだよ」


 つまり、青いリンクはここまでで、『次のエピソード』を押すことさえ許される。キミはそう思った。


 キミと妖精は、朝日を眺めながら束の間、平穏な時間に浸った。


「キミとなら、どこまでも冒険出来る気がする」


 そう言う妖精にキミは笑顔を返した。



 さあ、キミ達の冒険は始まったばかりだ!



(了)

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