「8時だョ!全員転生」③

 その海域に入ると、オデッセイ号や甲板に立つキミたちを濃い霧が包んだ。

 今、甲板に立つのは勇者であるキミと、その守護妖精だけだ。


 ここは海の怪物「セイレーン」の住処。

 「セイレーン」は美しい歌声で人間の心を惑わせ、自ら近づいた者を捕食する恐ろしい怪物なのだ。


「乗組員と乗客には、毛の束を耳に詰めるよう言ってきました」

「うん。ありがとう」


 キミは自分達もそうやって客室に籠もって、怪物の歌声をやり過ごしたらいいんじゃないか、と思った。

 しかし妖精に「ちょっと、キミは勇者でしょ?」と押し切られ、怪物を迎え討つ準備している。


「部長、どうしましょう。毛の束の残りがありません」

「大丈夫。オデッセイ号の船長からこれを預かってるの」


 妖精が取り出したのは、船長のつけヒゲだ。


「来たよ!」



 鋭く恐ろしい鉤爪、羽ばたくたびに不穏な音立てる大きな翼。胸元はむき出しで、キミが目のやり場に困っていると、横では妖精が頬を膨らませご立腹だ。

 鳥の様な体の上には色素の薄い髪に、赤い眼鏡をかけた女の顔が乗っている。

 眼鏡の奥では三日月型に曲がった目が妖しく光っているのをキミは見た。


 怪物が歌声上げるために口を開く。

 キミは急いでつけヒゲを耳に詰めようとするが、大きすぎた。ちぎってサイズを合わせようにも、思いの外丈夫な作りだ。


 ── 間に合わない!!


 そう思った時、キミの中で何かが目覚める。

 キミは妖精を襟元から中に押し込み、つけヒゲを鼻の下に装着した。


 そしてキミは叫ぶ。


 「チートスキル『アドリブ』発動!!」

https://kakuyomu.jp/works/16818093083469966727/episodes/16818093084254900446

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